政策形成の職人芸 ~その2 問題の発見~

キャリア

2022.09.20

★本記事のポイント★
①問題の設定は、問題の発見から始まり、現状、原因などの調査・分析、問題の定義という手順で行われる。 ②問題の発見には、社会の現実・社会的状況の認識に加え、社会的正義・公共性から、現状を改善しようとする問題意識を持ち続けることが重要。 ③法令の目的規定・理念規定などから公共政策の理念を探っていくことで、社会的正義・公共性の内容の理解が進む。

 

1.問題の発見の仕方

 政策形成は、大まかに言えば、問題の設定と解決策の提示というプロセスからなります。このうち、問題の設定は、問題の発見から始まり、現状、原因などの調査・分析、問題の定義という手順で行われます。

問題の設定の手順

 問題の設定のスタートは問題の発見です。問題の発見とは、社会の現実あるいは社会状況を改善するため何らかの方策の必要性を認識することです。政策形成に携わるなら、社会の現実・社会状況に通じていなければなりません。このためには、住民からの苦情等に耳を傾けるとともに、報道等に普段からよく目配りしておく必要があります。また、社会的正義・公共性といった高次の目標から、現状を改善しようとする問題意識を持ち続けることも重要です。なぜなら、問題意識がないと事実を見ても何も感じず、問題の発見ができないからです。
 そうすると、現状を改善しようとする問題意識の内容を示す必要があります。社会的正義・公共性といった理想から導かれるとしても、その具体的内容を示すことは難しいです。正義については、古今東西の哲学者が探求してきましたが、決定打はなく、「社会的正義とは○○である」とか「公共性とは○○である」といった社会的正義・公共性の内容を明示することはできないと考えています。
 筆者は、立法学の講義の中で、社会的正義・公共性を考える材料として、憲法学における公共の福祉の内容、実定法律の目的規定などを紹介しています。あくまで、社会的正義・公共性を考える材料であり、ここから社会的正義・公共性の内容を明示することは難しいです。
 公共の福祉の内容については、憲法学の書物を参照してください。ただ、憲法学においては、人権保障の観点から、人権の制約原理である公共の福祉については、厳格に考えられていますが、政策形成においては、必ずしも人権の制約とは関係しない公共政策もありますので、社会的正義・公共性は、憲法学の公共の福祉の解釈よりも広く捉えることも可能だと考えます。その範囲を示すことは容易ではありませんが、次に述べる法令の目的規定等からある程度イメージできるのではないでしょうか。ただ、個人の利益との関りを念頭に置く必要はあります。

 

2.法令の目的規定を学びましょう

 多くの法令には、第1条にその法令を制定する目的を明らかにする目的規定が置かれています。例えば、東京都の都民の健康と安全を確保する環境に関する条例第1条は、次のように定めています。

(目的)
第1条 この条例は、他の法令と相まって、環境への負荷を低減するための措置を定めるとともに、公害の発生源について必要な規制及び緊急時の措置を定めること等により、現在及び将来の都民が健康で安全かつ快適な生活を営む上で必要な環境を確保することを目的とする。

 法律、条例などの法令は、社会的正義・公共性を実現するために制定されていますので、法令の目的の中に、その法令の基になった公共政策の理念が規定されていることがあります。また、基本法、基本条例などにその法分野の理念が規定されていることもあります。
 環境保全を目的とする法令を例に説明すれば、大気汚染、騒音などの環境保全に反する現状がある場合、環境保全という社会的正義・公共性を実現するため政策が形成され、法令が制定され、その目的規定の中に環境保全という公共政策の理念が規定されるということです。
 ほんの少しですが、法律の目的規定から政策の理念と読み取れるものをあげれば、次のようなものがあります。

権利の保護、公共の安全、社会福祉の増進、国民生活の安定、教育と文化の発展、国民の健康の増進、環境の保全、民主政治の健全な発達、行政の適正な運営、信用秩序の維持、消費者の保護、中小企業の経営の安定、地域振興、良好な居住環境の確保

 法令の目的規定、理念規定などは、政策の目的を考察する際に直接に役立つだけでなく、 法令の目的規定、理念規定などから公共政策の理念を探っていくなら、社会的正義・公共性の内容の理解が進むのではないかと考えています。

3.哲学の話を少しだけ

 最後に、問題意識との関連で、哲学の話を少しだけさせてください。
 哲学の議論が、具体的な政策形成に直接役立つとは思いませんが、公共政策の理念を導くという観点からは、哲学の議論から各自のやり方で社会的正義・公共性を考える手がかりを見つければよいではないかと考えています。
 筆者は、正義の内容を積極的に提示することは困難でも、不正義を感じることは比較的容易ではないかと考えています。また、正義は正義に反する事実が生じた場合に呼び起されるものかもしれないとも考えています。奴隷、抑圧、差別、専制、拷問、搾取などは、歴史が進む中で人が不正義と考えてきたことであり、そこから自由、平等、公正な権力行使などの正義が導かれると考えることも可能でしょう。
 そして、自分が奴隷となったり差別されたりするようなことを想定することは、社会における不正義を導くことにつながるのではないでしょうか。アメリカの政治哲学者ジョン・ロールズは、人々は、自分の状態が分からないゆえに、最も不利な状態にある可能性を考えて、そのような状態を避ける選択をするということを前提に、正義の二原理を導いています。自分が社会において不利な状態にあることを想定することは、不正義を導くには役立つのではないでしょうか。そして、自分が社会において不利な状態にあることを想定しつつ、望ましい社会の状態を模索することは、問題意識を持つためには有効な方法ではないでしょうか。
 抽象的な議論をしましたが、現実に即した議論をするなら、コロナ問題に関して、病床がひっ迫して入院ができない救急患者、派遣切りにあい仕事も住むところもなくした派遣労働者、アルバイト収入が減少して就学が困難となった学生などの立場に立って、解決策を模索するようなことです。
 以上、社会的正義・公共性については、「○○である」的な答えは出せませんが、以上の論述を材料にして、皆さんのやり方で社会的正義・公共性を考えられることを期待します。答えは出なくとも考えること自体が問題意識を持つことではないでしょうか。

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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