政策形成力の磨き方 - その11 法的思考力② 整合性の考慮

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2024.03.28

★本記事のポイント★
1 既存の立法例、種々の原理・制度等との整合性を考えることは、法的検討の際に重視される。数多くの法令に関する知識があると、法的検討の際に、検討中の法令の規定について整合性がとれていないことを発見しやすくなる。2 整合性の考慮を厳格にしすぎると、政策形成の妨げになることもあり、注意する必要がある。 3 自然公園法と東京都自然公園条例の特別地域内の行為制限に違反した場合の罰則と、自然環境保全法と東京における自然の保護と回復に関する条例の特別地区内の行為制限に違反した場合の罰則を例として、罰則の軽重について、類似の制度と均衡しているかどうかを考察する。

 

1.整合性の考慮

 「条例化の関門」の第8回で、条例等の法令立案における憲法審査の実務においては、目的が合理的なものか、あるいは、手段が目的達成のために必要最小限度の制約であるかどうかについて、既存の立法例、種々の原理・制度等との整合性を考えることが重視されているのではないかとしました。また、整合性の検討の際の考慮事項としては、基本原理・基準となる制度との関係、類似制度との関係、均衡の考慮などがあるとしました。
 整合性は、法令立案の憲法審査だけでなく、法的検討の際には重視される事項だと思います。A法令では「右」としているにもかかわらず、B法令では特別の理由がなく「左」とするように、法令間で矛盾・衝突をすることは許されません。また、A法令ではある事項を届出制としているにもかかわらず、類似の政策を採るB法令では許可制とするなど、均衡を失する場合も整合性に問題があるとされます。
 数多くの法令に関する知識があると、法的検討の際に、検討中の法令の規定について整合性がとれていないことを発見しやすくなると思います。検討中の法令の規定が「何かおかしい」と疑問を持つことが、法的検討の出発点かもしれませんので、整合性の考慮は、法的検討にとって重要な要素です。
 ただ、整合性の考慮は、法的検討にとって重要な検討事項ですが、「政策形成の職人芸」の第12回で述べましたが、整合性の考慮を厳格にしすぎると、政策形成の妨げになることもありますので、注意する必要があります。特に、新しい課題に取り組む条例の立案においては、政策の尊重と法的検討における整合性の考慮とのバランスをとることに、頭を悩ますこともあるでしょう。

 

2.事例で考えましょう

 <事例>
 自然公園法では、環境大臣は国立公園について、都道府県知事は国定公園について、当該公園の風致を維持するため、公園計画に基づいて、その区域(海域を除く。)内に、特別地域を指定することができるとし、特別地域内において、工作物を新築し、改築し、又は増築すること、木竹を伐採することなどは、原則として、環境大臣又は都道府県知事の許可を受けなければしてはならないとされています(第20条第1項、第3項)。そして、この規定に違反した場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されることになっています(第82条第2号)。
 また、東京都自然公園条例では、知事は、都立自然公園の風致を維持するため、都公園計画に基づいて、その区域内に、特別地域を指定することができるとし(第11条第1項)、特別地域内において、工作物を新築し、改築し、又は増築すること、木竹を伐採することなどは、原則として、知事の許可を受けなければしてはならないとされています(第12条第1項)。そして、この規定に違反した場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されることになっています(第68条第1号)。

 次に、自然環境保全法では、環境大臣は、原生自然環境保全地域以外の区域のうち、自然的社会的諸条件からみてその区域における自然環境を保全することが特に必要なものを自然環境保全地域として指定することができるとするとともに(第22条第1項)、自然環境保全地域に関する保全計画に基づいて、その区域内に、特別地区を指定することができるとし(第25条第1項)、特別地区内においては、建築物その他の工作物を新築し、改築し、又は増築すること、木竹を伐採することなどは、原則として、環境大臣の許可を受けなければしてはならないとされています(同条第4項)。そして、この規定に違反した場合は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されることになっています(第54条第2号)。
 ところで、東京における自然の保護と回復に関する条例では、知事は、自然の保護と回復を図るため、自然環境保全法第22条第1項の規定により環境大臣が指定する自然環境保全地域に準ずる地域で、その自然を保護することが必要な土地の区域を、自然環境保全地域として指定することができるとするとともに(第17条第1項第1号)、保全計画に基づいて、その区域内に、特別地区を指定することができるとし(第22条第1項)、特別地区内においては、建築物その他の工作物を新築し、改築し、又は増築すること、木竹を伐採することなどは、原則として、知事の許可を受けなければしてはならないとされています(同条第3項)。
 この規定に違反した場合の罰則は、どのようになるか検討しましょう。

 <考察>
 整合性の検討には、諸制度間に矛盾抵触がないかを検討するだけでなく、諸制度間の均衡を考慮することも含まれます。例えば、規制手段(禁止、許可、届出等)、罰則の軽重などが、他の類似の制度と均衡しているかどうかを考慮することです。
 事例の場合は、罰則の軽重について、類似の制度と均衡しているかどうかを考える必要があります。
 自然公園法と東京都自然公園条例の特別地域内の行為制限に違反した場合の罰則は、両者とも1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となっています。
 同様に考えるなら、東京における自然の保護と回復に関する条例の特別地区内の行為制限に違反した場合の罰則は、自然環境保全法の特別地区内の行為制限に違反した場合の罰則の6月以下の懲役又は50万円以下の罰金となるでしょう。このような考えも可能だと思います。反対に、法律と条例との関係の議論から考えると、条例で法律と同様の規制を行う場合、法律の規制の程度が目安になりますので、相応の理由がない限り、自然環境保全法の罰則を超える罰則は置くことができないでしょう。
 ただ、この条例をよく読むと、条例で特別地区として指定されるのは、環境大臣が指定する自然環境保全地域に準ずる地域として指定される自然環境保全地域内です。そうすると、条例の特別地区内の行為制限に違反した場合の罰則は、自然環境保全法の罰則よりも軽くするという考えも可能でしょう。実際、この条例では、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金としています(第65条第1号)。

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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