条例化の関門 その8 憲法審査③

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2023.06.14

★本記事のポイント★
1 法令立案における憲法審査の実務においては、目的が合理的なものか、あるいは、手段が目的達成のために必要最小限度の制約であるかどうかについて、既存の立法例、種々の原理・制度等との整合性を考えることが重視されている。 2 整合性の検討の際の考慮事項としては、基本原理・基準となる制度との関係、類似制度との関係、均衡の考慮などがある。 3 多数の人が利用する施設の管理者にワクチン接種証明書又はPCR検査等の陰性証明書を提示しない者を施設に入場させないように要請するという政策の手段が、目的を達成するのに必要最小限の手段かどうかについて、整合性を考慮して検討する。

 

1.整合性

 条例等の法令立案における憲法審査の実務においては、目的が合理的なものか、あるいは、手段が目的達成のために必要最小限度の制約であるかどうかについて、既存の立法例、種々の原理・制度等との整合性を考えることが重視されていると思います。このことは、第1回で紹介した内閣法制局の法令審査の様子(⑥の部分)からも読み取ることができるでしょう。
 整合性の検討は、個別の問題において、関連する原理・制度等との関係を考慮するものですが、その際の考慮事項としては、次のようなものがあると考えます。
⑴ 基本原理・基準となる制度との関係
 前回紹介しました森林法共有林事件の判旨三の部分は、民法第256条の立法の趣旨・目的について考察して、「共有物分割請求権は、各共有者に近代市民社会における原則的所有形態である単独所有への移行を可能ならしめ、右のような公益的目的をも果たすものとして発展した権利であり、共有の本質的属性として、持分権の処分の自由とともに、民法において認められるに至ったものである」としています。つまり、共有物分割請求権は、共有の本質的な属性であり、基本原理・基準と言えるものです。それを基に、判旨四では共有物分割請求権を制限する森林法第186条の合理性を検討しています。
 このように、整合性の検討としては、基本原理・基準となる制度に従っているかどうか、もし基本原理・基準となる制度と間に乖離があるなら、その乖離の程度と理由を検討する必要があります。
⑵ 類似制度との関係
 森林法共有林事件の判旨四2(二)⑴では、森林の分割が許容されている他の方法との対比をし、また、判旨四2(二)⑵では、共有森林の細分化という結果が生じない他の方法との対比をして、森林法第186条の合理性を検討しています。 
 これらの例は、他の類似する手段と対比して、法令で定める手段が目的達成のための必要最小限度の制約であるかどうかを検討しているものです。手段審査においては、必要最小限度の制約であるかどうかを検討することが重要ですので、目的を達成するための他の制度との対比は、有効な手法だと考えます。
⑶ 均衡の考慮
 整合性の検討には、諸制度間に矛盾抵触がないかを検討するだけでなく、諸制度間の均衡を考慮することも含まれます。例えば、規制手段(禁止、許可、届出等)、罰則の軽重などが、他の類似の制度と均衡しているかどうかを考慮することです。

 

2.ワクチン接種促進政策 関門6

 前回に引き続き、憲法審査における手段審査として、多数の人が利用する施設の管理者にワクチン接種証明書又はPCR検査等の陰性証明書を提示しない者を施設に入場させないように要請するという政策の手段が、目的を達成するのに必要最小限の手段かどうかを検討します。
 この検討の際には、整合性の検討をするのですが、類似の制度として、第5回でも述べましたが、特措法第31条の6第1項や特措法第45条第2項が、時期や区域を限定して施設管理者等に感染の防止のために必要な措置を講ずるよう要請することができるとしていることです。要請にとどめているのは、施設管理者等の営業の自由などを考慮したものと考えられます。これらの規定やその背景にある営業の自由などを重視するなら、当初の政策のように自治体がワクチン接種証明書を発行し、利用者に証明書の提示義務を課すとともに、施設側に証明書の確認義務を課し、違反した場合罰則を科すという方法は、類似の制度と均衡がとれていないと言えるでしょう。これらの制度との整合性を考慮するなら、時期や区域を限定しつつ、施設管理者に、直接的に義務を課すのでなく、ワクチン接種証明書を提示しない者を施設に入場させないように要請を行うことが規制の限度ではないかと考えます。
 このように、法律と条例との関係の論点を考える際は、法律の背後にある憲法上の権利についても考慮する必要があると考えます。

 ところで、当初のワクチン接種の促進を目的とした政策は、ワクチン接種を間接的に強制するという側面もあり、予防接種法との関係で問題があるかもしれないとしました。余談になるかもしれませんが、この政策の手段が、ワクチン接種促進の目的を達成するのに必要最小限度の手段であるかどうかについて検討したいと思います。
 この検討の際には、前述のように、整合性の検討をするのですが、基本原理・基準となる制度としては、予防接種法が、接種の勧奨と努力義務にとどめていることでしょう。これは、禁忌者を除いたとしてもワクチン接種にはどうしても副反応がつきまといますので、接種するかどうかは個人の意思に委ねる趣旨だと考えられます。その背景には、憲法で保障する幸福追求権の一種としての自己決定権があると考えます。この予防接種法の趣旨やその背景にある自己決定権を重視するなら、この政策は、基本原理・基準から踏み出していると言えるでしょう。
 ワクチン接種促進政策としては、前作の第16回で検討した広報啓発、接種機会の拡大、ワクチン接種に対する特典の付与が穏当なものでしょう。また、実際に行われた「ワクチン・検査パッケージ制度」のように、ワクチン接種証明書等を提示すれば緊急事態宣言等において課される行動制限を緩和する政策(例:認証を受けた飲食店においては、同一テーブルでの人数制限を解除する)は、ワクチン接種にデメリットでなくメリットを与えるもので、ワクチン接種の任意性が損なわれず、なかなか巧みな政策だと考えます。もっとも、これらの政策については、初めに戻って条例が必要かどうかを検討する必要があります。

 

3.小括

 これまで述べてきた手順を踏んで条例立案における法的検討が行われ、すべての関門がクリアされれば、政策は条例となります。反対に、どこかの関門をクリアできなければ、また政策形成に戻って検討し直しです。回りくどいところもあるかもしれませんが、試行錯誤を繰り返して政策や条例ができることが通常です。内閣法制局の法令審査の様子の中の「出来ては壊され、出来ては壊され」ということかもしれません。また、手順を踏んで検討することにより、条例化できないならどこに問題があるかが明らかになるでしょう。前作と本稿で述べた一連のプロセスを把握したうえで、どこに問題点があるかを発見し、適切な解決策を提示することが重要だと思います。

※なお、法令審査における憲法審査に関心のある方は、拙稿「立法における憲法審査-整合性-」『青山法務研究論集』18号(21124.pdf(https://www.agulin.aoyama.ac.jp/repo/repository/1000/21124/21124.pdf))を参照してください。

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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