感染症リスクと労務対応

弁護士法人淀屋橋・山上合同

【労務】感染症リスクと労務対応 第27回 ウイルス等感染症による業績の悪化による採用内定取消し・本採用拒否

NEWキャリア

2020.06.22

新型コロナウイルスに関連して、給料、休業補償、在宅勤務、自宅待機など、これまであまり例のなかった労務課題に戸惑う声が多く聞かれます。これら官民問わず起こりうる疑問に対して、労務問題に精通する弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同所属)が根拠となる法令や公的な指針を示しながら、判断の基準にできる基本的な考え方をわかりやすく解説します。(編集部)

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(弁護士 高 芝元)

【Q27】

 ウイルス等感染症による業績の悪化により、採用内定取消しや本採用拒否などの措置をとることは可能でしょうか。可能である場合、実施上の留意点を教えてください。

【A】

 いずれもすでに労働契約が成立している前提で慎重に検討すべきであり、無制限、無条件に内定取消し、本採用拒否が可能であるわけではありません。

内定取消し

 ウイルス等感染症による業績の悪化により採用内定取消しの措置をとることは不可能ではありませんが、「整理解雇」法理に留意すれば、相当慎重に検討されるべきです。

(1) 内定取消しの法的性質
 まず、内定取消しの法的性質については、判例上、①企業による募集(労働契約申込みの誘因)、②これに対する求職者の応募や採用試験の受験(労働者による契約の申込み)、③採用内定通知(使用者による契約の承諾)により、両当事者間に始期付解約権留保付労働契約(実際に就労開始時期が4月であるため「始期付き」、学校を卒業できなかった場合などに内定を取り消す旨内定通知で示されることが多いので、この場合に内定を取り消す権利を企業側が有しているので「解約権留保付」といわれます)が成立すると判断されることが多いといえます(最判昭和54・7・20民集33巻5号582頁〔大日本印刷事件〕など)。

(2) 採用取消しの適法性
 また、前掲最判昭和54・7・20は、採用取消しの適法性について、「採用内定の取消事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である」と判示しており、従業員を解雇する場合に準じた規範(労契16条参照)によって、いかなる場合に内定取消しが適法と認められるかについては、個別に判断されます。
 まず、採用内定通知書や誓約書には、内定取消事由として、学校を卒業できなかったときや、経営状況が著しく悪化したときなどが記載されていることが多いところ、解雇権濫用法理は、当事者の合意の有無・内容にかかわらず適用される規範であるため、記載内容に該当する事実があったからといって、直ちに当該内定取消しが有効となるわけではなく、その客観的合理性および社会的相当性が問われることになります。

(3) 業績の悪化に伴う内定取消し
 一般的に、経営状況の悪化を理由とする内定取消しについては、内定者側に何らの責に帰すべき事情がないわけですから、もっとも要件の厳しい整理解雇に準じた取扱いが求められると考えられていますが、ウイルス等感染症による業績の悪化により内定取消しを行う場合にも同様に考えてもよいと思われます。
 したがって、ウイルス等感染症による業績の悪化により、採用内定取消しの措置をとる場合には、整理解雇法理(①業務上の必要性、②解雇回避努力義務の履践、③人員選定の合理性、④適正手続の4つの要素を総合的に考慮して是非を判断するという考え方)に留意すべきでしょう。
 この点、新型コロナウイルス感染症の拡大に際して、厚生労働省は、経済団体へ新卒内定者への雇用維持等に対する配慮を要請するとともに、指針(「青少年の雇用機会の確保及び職場への定着に関して事業主、特定地方公共団体、職業紹介事業者等その他の関係者が適切に対処するための指針」(平成27年9月30日厚生労働省告示406号))に基づき、事業主に対して、内定取消しについて以下の点があらためて要請されました。

  ① 採用内定の取消しを防止するため、最大限の経営努力を行う等あらゆる手段を講ずること
  ② やむを得ない事情により採用内定の取消しまたは入職時期の繰下げを行う場合には、当該取消しの対象となった学校等の新規卒業予定者の就職先の確保について最大限の努力を行うとともに、当該取消しまたは繰下げの対象となった者からの補償等の要求には誠意をもって対応すること

 また、新卒者の内定取消しは、あらかじめハローワークおよび学校に通知することが必要ですので、この点にも留意してください(職業安定法施行規則35条)。

本採用拒否

 多くの日本企業においては、労働者を採用する際に、入社後数か月の試用期間をおいているところ、試用期間満了時に雇用契約を終了させることを「本採用拒否」といいます。
 ウイルス等感染症による業績の悪化により、本採用拒否の措置をとることは一律に不可能であるというわけではありませんが、前記1と同様に、「整理解雇」法理に留意し、慎重に検討すべきです。

(1) 試用期間の法的性質
 まず、試用期間の法的性質については、判例上、試用期間中も解約権留保付きの労働契約が成立していると判断されることが多いといえます(最判昭和48・12・12民集27巻11号1536頁〔三菱樹脂事件〕)。
 また、前掲最判昭和48・12・12は、「……前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である」と判示しており、いわゆる解雇権濫用法理(労契16条)が適用されることになります。

(2)  経営状況の悪化を理由とする本採用拒否
 一般的に、経営状況の悪化を理由とする本採用拒否については、内定者側に何らの責に帰すべき事情がないわけですから、最も要件の厳しい整理解雇に準じた取扱いが求められると考えられているところ、ウイルス等感染症による業績の悪化により本採用拒否を行う場合にも同様に考えてもよいと思われます。
 したがって、ウイルス等感染症による業績の悪化により、本採用拒否の措置をとる場合には、前記1と同様に、整理解雇法理に留意すべきでしょう。
 実務的には、勤務の実績がない内定取消しですら、前記1の記載のような最大限の回避努力を要請されているわけですから、ウイルス等感染症が理由でやむを得ず雇用を維持できない場合には、試用期間中の者に対して、その旨、誠意をもって説明し、可能な限りの補償を実施するなどして、合意退職をめざすのが、紛争回避にも資するし、適切だと考えます。

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弁護士法人淀屋橋・山上合同は、あらゆる分野の法律問題について、迅速・良質・親切な法的サービスを提供している法律事務所。2020年3月現在64名の弁護士が所属。連載を担当したメンバーは、主に企業側に立って、雇用や労働紛争に係る相談対応、法的助言から裁判手続、労働委員会における各種手続の代理人活動等を行っている。

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