感染症リスクと労務対応

弁護士法人淀屋橋・山上合同

【労務】感染症リスクと労務対応 第33回 会社間における労働者の応援支援の可否について

NEWキャリア

2020.07.16

新型コロナウイルスに関連して、給料、休業補償、在宅勤務、自宅待機など、これまであまり例のなかった労務課題に戸惑う声が多く聞かれます。これら官民問わず起こりうる疑問に対して、労務問題に精通する弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同所属)が根拠となる法令や公的な指針を示しながら、判断の基準にできる基本的な考え方をわかりやすく解説します。(編集部)

会社間における労働者の応援支援の可否について

(弁護士 高 芝元)

【Q33】

 ウイルス等感染症の影響により、急激な人員不足の店舗が発生しているので、グループ会社から応援させたいのですが、留意点があれば教えてください。

【A】

 同一企業グループの中で、労働力の過剰な企業から不足している企業へ一時的な応援という形で行われる労働力の提供は、応援に赴いた労働者が応援先でその指揮命令を受けて就労する以上、労働者派遣または出向の形態によらざるを得ないと考えられています。
 もっとも、労働者派遣事業は許可制であり(労派5条)、許可を受けていない派遣業者から労働者派遣を受け入れることは、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下、「労働者派遣法」といいます)24条の2に違反するのみならず、職業安定法44条違反となります。
 そこで、以下では、会社をまたいだ応援ができない根拠と、主として出向に伴う留意点について解説します。

労働者供給事業の禁止

 そもそも、同一グループ会社内において、ある会社から人員不足の関連会社へ応援させることは、グループ全体の事業効率化に資するばかりか、応援自体は、誰も何も困るわけではないため、その必要性は高いと思われます。
 とはいえ、わが国では、職業安定法44条で「何人も、次条(筆者注:職業安定法45条は、厚生労働大臣の許可があれば労働組合の無料労働者供給事業を行うことを許容しています)に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又は労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない」と定められており、いわゆる労働者供給事業が禁止されています。ここでいう「労働者供給事業」とは、「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣法第2条第1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする」(職安4条6項)とされ、供給契約の有無は、契約の形式でなく、実体で判断されます。
 したがって、そもそも労働者派遣でない限り、他者に自らの労働力を提供してはいけませんし、他者から労働力を受け入れてはいけないことになっているのです。この立法趣旨は、中間搾取や強制労働の禁止、という戦後の混乱期に妥当していたものですが、現代においても労働者保護の観点から遵守しなければならないルールになっています。
 このように、まずは労働者派遣以外は、他人の労働力を利用すること自体が法律上禁じられている、という認識がまず重要です。

出 向

(1) 出向による労働者供給の可否

 出向とは、労働者が自己の雇用先の企業に在籍したまま、他の企業の従業員となって相当長期間にわたって当該他企業の業務に従事することを意味し、人事異動の一種であると考えられています。出向を実現するためには、受入先企業との間で、受入契約を締結することが必要となる点に留意しましょう。
 グループ企業間では在籍出向が頻繁に実施されていますが、これも雇用先のほかに労働者と出向先との間にも労働契約が存在する、という点が労働者派遣と異なるだけで、実質的には労働者供給に該当するようにもみえます。なぜ出向契約の場合には、かかる労働者供給が許容されるのでしょうか。
 この点、労働者派遣事業関係業務取扱要領によると、「在籍型出向は労働者派遣に該当するものではないが、その形態は、労働者供給に該当するので、その在籍型出向が『業として行われる』ことにより、職業安定法第44条により禁止される労働者供給事業に該当するようなケースが生ずることもあるので、注意が必要である」としています(第1・1(4)ホ)。
 そのうえで、在籍出向が「業として」行われていないことが必要ですが、「在籍型出向と呼ばれているものは、通常、①労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する、②経営指導、技術指導の実施、③職業能力開発の一環として行う、④企業グループ内の人事交流の一環として行う等の目的を有しており、出向が行為として形式的に繰り返し行われたとしても、社会通念上業として行われていると判断し得るものは少ないと考えられる」とされています。つまり、グループ会社内では、雇用機会の確保、技術指導の実施、人事交流の一環等の目的があるからこそ、適法であるとされているわけです。
 そうすると、単に「ウイルス等感染症の影響により、急激な人員不足の店舗が発生している」等という理由は、出向本来の目的ではなく、まさに労働者供給の目的を有すると認められるため、人員不足を理由とする在籍出向は本来認められないと考えるべきでしょう。
 したがって、出向によって対応するのであれば、グループ会社内における本来的な目的がきちんと説明できるようにしておかなければなりません。

(2) 出向命令の要件

 なお、従業員との関係では、出向命令の要件は、①出向命令権が労働契約上認められること、および②出向命令が権利の濫用にならないことと考えられています。
(A) ①について
 企業間の人事異動である出向の場合には、労務提供の相手方企業が変更されるので、たとえ密接な関連会社との間に日常的に行われる出向でも、就業規則・労働協約上の根拠規定や採用の際における同意などの明示の根拠のない限りは出向命令権が労働契約の内容となっているということは難しく、出向を命令することは認められないと考えられています。
そのため、グループ会社へ従業員に応援をさせる場合には、上記明示の根拠がなければ従業員の同意が必要であることに留意しましょう。
(B) ②について
 労働契約法14条は、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする」と規定しています。
 この権利濫用該当性の判断においては、出向命令の業務上の必要性と出向者の労働条件上および生活条件上の不利益とが比較考量されるところ、例として、労働条件が大幅に下がる出向などは、整理解雇の回避や管理職ポストの不足など出向元の経営上の事情が認められない限り、権利濫用となり得ます。また、労働者に著しい生活上の不利益を与える場合にも権利濫用となり得ます。
 したがって、グループ会社から応援出向する場合には、出向先での労働条件や労働者の生活上の利益に配慮しなければならないという点に留意すべきでしょう。

その他

 「ウイルス等感染症の影響により、急激な人員不足の店舗が発生」し、応援をさせることによって、取締行政である労働局から是正指導を受けるようなことがあってはなりません。
 この点、労働者派遣事業関係業務取扱要領によると、「二重の雇用契約関係を生じさせるような形態のものであっても、それが短期間のものである場合は、一般的には在籍型出向と呼ばれてはいないが、法律の適用関係は在籍型出向と異なるものではないこと(例えば、短期間の教育訓練の委託、販売の応援等においてこれに該当するものがある)。」とされており(第1・1(4)ヘ)、ここで考えられる応援も、一時的とはいえ、出向先で指揮命令下に入り、労働契約関係にある以上、法律上は出向と解するようです。
 他方で、結局、先述の職業安定法44条は、労働者供給によって労働者に不利益な状況を防止しようという趣旨ですので、その趣旨に反しない限り、あまり窮屈に考える必要はないように思います。恒常的な労働者の供給事業と異なり、感染症の影響で急激な人員不足が発生することで、グループ全体の業務効率が阻害されることは断じて避けなければならないわけですから、事業体の毀損を可及的に防止するために一時的・臨時的にグループ会社間で人材を応援し合うことの必要性、重要性はいうまでもありません。手数料を得る等、営利目的で行うことは論外ですが、あくまで出向であること(出向のもつ目的)を意識しつつ、従業員の不利益にわたらない範囲で、積極的な(出向としての)応援を活用することが求められます。

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弁護士法人淀屋橋・山上合同は、あらゆる分野の法律問題について、迅速・良質・親切な法的サービスを提供している法律事務所。2020年3月現在64名の弁護士が所属。連載を担当したメンバーは、主に企業側に立って、雇用や労働紛争に係る相談対応、法的助言から裁判手続、労働委員会における各種手続の代理人活動等を行っている。

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