自治体の防災マネジメント
自治体の防災マネジメント[19]「災害マネジメント総括支援員」制度(上)
地方自治
2020.07.15
自治体の防災マネジメント―地域の魅力増進と防災力向上の両立をめざして
[19]「災害マネジメント総括支援員」制度(上)
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
(月刊『ガバナンス』2017年10月号)
総務省の「大規模災害からの被災住民の生活再建を支援するための応援職員の派遣の在り方に関する研究会」は、2017年6月16日に報告書を提出した。熊本地震の教訓を踏まえて、被災自治体の災害マネジメントを支援するために「災害マネジメント総括支援員」制度を設けるという画期的なものである。
大災害時の自治体マネジメント支援については、本誌(月刊「ガバナンス」)17年3月号特集でも取り上げるなどその重要性を指摘してきた。そこで、この報告書の概要を紹介し、さらに考察を深める。なお、考察については《 》で表示する。
「災害マネジメント総括支援員」制度の基本的な考え方
(1)「災害マネジメント総括支援員」の役割
・「災害マネジメント総括支援員」の役割は、被災市区町村の首長が行う「災害マネジメント」を総括的に支援することである。このため、首長に直接進言できる立場の者であることが必要となる。
・「災害マネジメント総括支援員」による支援の対象となる「災害マネジメント」としては、ア)「災害のフェーズ」に応じた災害対応の在り方に関する知見、イ)災害対策の推進体制の整備や進捗把握などの管理マネジメント、ウ)応援職員の緊急確保に関する総務省等との連絡・調整などが想定される。
・第一に、「『災害のフェーズ』に応じた災害対応の在り方に関する知見」については、被災市区町村においては、発災直後の人命救助、避難所の運営、家屋被害調査と罹災証明書の交付、がれきの処理、家屋の応急修理、応急仮設住宅の建設等の様々な災害応急対策を順次進めていくことが求められる。このため、これらの各災害応急対策の進め方、ノウハウ・留意事項や、併せて、災害救助法の運用に関する知識が必要となる。
・第二に、「災害対策の推進体制の整備や進捗把握などの管理マネジメント」については、まずは避難所の運営に注力しつつも、同時並行的に、次の段階で必要となる罹災証明書の交付事務や仮設住宅の建設等に対する準備を開始しなければならない。このため、管理マネジメントの知識・経験が必要となる。また、分担された業務については、遅れを生じることのないよう、被災市区町村の災害対策本部において、逐次進捗状況を把握し、課題が生じた場合その解決策を講じる等のフォローが不可欠である。
・「管理マネジメント」においては、避難所の運営における人的資源の活用方策が重要である。避難所の運営に関しては、NPOやボランティアの方々との役割分担も考えられ、派遣された応援職員の専門性を十分に活かす検討が必要である。
・第三に、「応援職員の緊急確保に関する総務省等との連絡・調整」については、人的体制を整備するには、被災市区町村の職員に加え、応援職員も視野に入れた上で、人的体制を計画し、それに応じて応援職員の派遣を求める必要がある。対口支援団体による支援では不足し、緊急に全国スキームによる派遣を求める可能性もあり、総務省等との密接な連絡・調整が可能な体制を構築しておく必要がある。
《ここでは、「災害マネジメント総括支援員」の役割として、ア)「災害のフェーズ」に応じた災害対応の在り方に関する知見、イ)災害対策の推進体制の整備や進捗把握などの管理マネジメント、ウ)応援職員の緊急確保に関する総務省等との連絡・調整、などが想定されている。
これは災害対策本部のマネジメントを全体として支援する役割を示しているが、実態として災害対策本部の指揮命令系統を踏まえると、階層別に考える必要がある。首長級のトップマネジメント、部課長級の情報統括マネジメント、班単位での業務マネジメントの3階層である。これは、平時の自治体行政マネジメントとも整合していて、受け入れやすいと思われる。災害マネジメントは、平時の行政マネジメントと同様に階層別のマネジメントが重なり合いながら、相互に状況を共有し、災害対応の全体最適を志向し、実現していくものと考えられる。
第一にトップマネジメントである。災害対策本部のトップは、全体状況を理解し、対策を判断、指示し、マスコミを通じて公表、説明をする任務がある。たとえば熊本地震、東日本大震災、大雨被害など、最近の大規模災害で被災した15人の市区町村長が共同でまとめた「災害時にトップがなすべきこと」のレベルである。トップマネジメント支援者は、災害対応経験があり、政治行政の機微を理解している首長及び経験者が望ましいが、それがかなわない場合でも被災自治体の首長に直言できる経験、見識ある特別職、幹部職員及び経験者が必要である。
次に、情報統括マネジメントであるが、これがおおよそ「災害マネジメント総括支援員」に想定されている役割になる。いわば災害対策本部の作戦参謀であり、発災当初は、数少ない情報の中から、被害概況を読み取り、トップマネジメントと業務マネジメントを補佐する。継続して情報収集、整理、分析を行い、関係者と情報共有し、優先順位を付しながら災害対応業務全体の進行管理を行う。また、遊軍的に縦割り所管の溝を埋めたり、重要業務の相談支援をしたり、警察、消防、自衛隊、医療、保健、福祉関係者との総合調整も役割となる。
第三に業務マネジメントは、ご遺体、避難所、物資、応急危険度判定、救助法関連業務、廃棄物、被害認定調査、罹災証明など、重要業務の計画、実施、進行管理である。ほとんどの自治体職員が経験したことのない業務であるため、支援者は業務に関する十分な知識、経験があり、業務の総括的な進行管理をすることが任務となる。》
・一方では、被災市区町村が「災害マネジメント総括支援員」に対し過度に期待することにより、かえって円滑な支援活動を阻害し、そのスキルや経験等を有効に活用できなくなることも想定される。「災害マネジメント」については、平時のマネジメント体制を活用することが基本となるものであり、「災害マネジメント総括支援員」は、ノウハウを持ってそれを助け、補完するのが原則である。
また、災害応急対策の主体は被災市区町村であることから、「災害マネジメント総括支援員」は、全国的な方式を一律に押し付けるものではあってはならず、それぞれの市区町村の事情や意向を十分尊重し、それに応じた柔軟な対応を図る観点から助言を行うべきである。
このため、被災市区町村と「災害マネジメント総括支援員」の関係の在り方については、さらに検討が行われるべきである。
《ここでは、市区町村ごとに平時のマネジメントの進め方、及び組織ルールや組織カルチャーに違いがあることが災害マネジメント支援をする上での課題として取り上げられている。たしかに、大きな組織は、組織的な活動がマネジメントの中心になるが、小さな組織では人の要素が強くなる。また、トップと現場職員の距離感は大きな組織では遠く離れるが、小さな組織はトップが全職員を知っていて名前で呼んだりするほど緊密である。その意味で、政令市間で、あるいは中核市間で災害時相互支援協定を結んでいるのは、理にかなっている。
効果的な災害マネジメント支援を行うためには、被災市区町村の組織規模と、先に述べた階層別のマネジメント支援を考慮して、果たすべき任務と適任者を明確化することが重要になるであろう。》
Profile
跡見学園女子大学教授
鍵屋 一(かぎや・はじめ)
1956年秋田県男鹿市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、東京・板橋区役所入区。法政大学大学院政治学専攻修士課程修了、京都大学博士(情報学)。防災課長、板橋福祉事務所長、福祉部長、危機管理担当部長、議会事務局長などを歴任し、2015年4月から現職。避難所役割検討委員会(座長)、(一社)福祉防災コミュニティ協会代表理事、(一社)防災教育普及協会理事 なども務める。 著書に『図解よくわかる自治体の地域防災・危機管理のしくみ』 (学陽書房、19年6月改訂)など。