議会局「軍師」論のススメ

清水 克士

議会局「軍師」論のススメ 第16回 業界の権威は「教祖様」なのか?

地方自治

2020.07.16

議会局「軍師」論のススメ
第16回 業界の権威は「教祖様」なのか? 清水 克士
月刊「ガバナンス」2017年7月号

*写真は遠望した琵琶湖です。

 前号では、先進事例を盲信してはいけないと述べたが、今号では政策立案や議会改革の際に拠りどころとされる、業界の権威とされる人の見解に対するスタンスについて述べたい。

■北川正恭氏との論争

 私は北川正恭早稲田大学名誉教授のことを敬愛している。それは、県議会議員、国会議員、知事と様々な立場での現場経験をベースにした言葉に共感するからだ。だが、決して北川氏の全ての主張を無条件に是とする「信者」ではない。やはり、氏とは意見が異なることもあるからだ。その一例として、いわゆる「乾杯条例」に代表される理念条例の議員提案がある。

 あるパネルディスカッション登壇者の打ち合わせ会で、北川氏の「議会が取り組む条例づくりの最初のステップとしては、単なる理念条例でもかまわない」との発言に、私は異論を挟んだことがある。その理由は、乾杯条例の制定趣旨は、「清酒で乾杯都市宣言」や「清酒での乾杯を促進する決議」などでも実現でき、「雀を撃つのに大砲を使ってはならない」との比喩で説明される「比例原則」に照らしても、条例制定権を行使する必然性に乏しく、目的と手段の均衡がとれていないからである。そして何より、一度それを是とすると議員提案条例はそれで良いと勘違いしてしまい、次の政策条例づくりにつながることはないと危惧している。

 だが、その場で北川氏から「何を言ってるんだ」とお叱りを受けたこともあり、パネルディスカッション本番で会場から理念条例制定の是非についての意見を求められた際には、さすがに一瞬コメントを躊躇した。しかし、隣に座る北川氏が「持論を述べたいんだろ?言えよ」と微笑みながら囁かれたので、遠慮なく持論を展開したことがある。

■「忖度」と「予定調和」の罪

 私は、多くの人が場の空気を読み、権威の意向を「忖度」して持論を飲み込む場面を見てきた。だが、議会は議論の場であり、そこに身を置く議会人こそ、議会外でも自由に意見表明すべきではないか。合意形成のための内部の議論はともかく、外へ出てまで自己の意見を封印し、業界の権威に追従する「予定調和」の議論をすることに、どれほどの意味があるだろうか。

 そして、予定調和に慣れると、いつしか自己が敬愛する人の考えを自分の考えだと思い込むようになり、思考停止に陥る。もちろん業界の権威へは、その功績も含めて大いに敬意を払うべきである。だが、その教えを乞うことは、その人の全ての見解を是とすることではない。その教えが自分にとっての正解であるかを見極めるのは自分自身である。誰が言っているかによって、自分の意見を決める「大人の態度」は、課題解決の方向性を見誤る原因となりかねない。

■大村智氏の金言

 ノーベル賞学者である大村智北里大学特別栄誉教授は、「あるレベルまでは人の指導を仰ぐことも大事だが、それを超えるには自分独自の創造性や個性を生かして戦わなければ勝てない」と述べられている。局職員も業界の権威の個別見解を支持、参考にすることはあっても、その「人」の虜になってはいけない。なぜなら、業界の権威は宗教の「教祖」などではなく、我々職員もその教義を無条件に是とする「信者」ではないからである。

*文中、意見にわたる部分は私見である。

 

Profile
大津市議会局長・早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員
清水 克士
しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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しみず・かつし 1963年生まれ。同志社大学法学部卒業後、85年大津市役所入庁。企業局総務課総務係長、産業政策課副参事、議会総務課長、次長などを経て2020年4月から現職。著書に『議会事務局のシゴト』(ぎょうせい)。

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