感染症リスクと労務対応

弁護士法人淀屋橋・山上合同

【労務】感染症リスクと労務対応 第32回 時短勤務の導入を検討していますが、休業手当を支払う必要はありますか

NEWキャリア

2020.07.14

新型コロナウイルスに関連して、給料、休業補償、在宅勤務、自宅待機など、これまであまり例のなかった労務課題に戸惑う声が多く聞かれます。これら官民問わず起こりうる疑問に対して、労務問題に精通する弁護士(弁護士法人淀屋橋・山上合同所属)が根拠となる法令や公的な指針を示しながら、判断の基準にできる基本的な考え方をわかりやすく解説します。(編集部)

時短勤務の導入を検討していますが、休業手当を支払う必要はありますか

(弁護士 堀内 聡)

【Q32】

 緊急事態宣言を受けて時短勤務の導入を検討していますが、短くした時間分の賃金(休業手当)を支払う必要はありますか。また、短くした時間について時間単位の年次有給休暇を付与できますか(就業規則上の定めがない場合)。

【A】

 賃金を支払う必要があるかどうかは、使用者に民法536条2項の「責めに帰すべき事由」があるかどうかによって判断されることとなります。以下、詳しく解説します。

時短勤務とは

 ここでいう時短勤務とは、法的に構成すると、所定労働時間の一部を休業させること、と整理されます。
たとえば、所定労働時間が9時~18時(休憩1時間)の企業において、ウイルス感染症対策のために労働時間を9時から16時まで(休憩1時間)とする場合、減らされた2時間については、従業員を休業させていることとなります。

休業手当の支払義務

 では、当該休業について、賃金を支払う必要があるかどうかは、使用者に民法536条2項の「責めに帰すべき事由」があるかどうかによって判断されることとなります。
 民法536条2項にいう「責めに帰すべき事由」は、一般的には、債権者の故意、過失またはこれに準じる事由と解されています。民法536条2項の「責めに帰すべき事由」がないと判断される場合、賃金の支払義務はありません。
 他方で、労働基準法26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業であれば、休業手当(平均賃金の6割)を支払わなければなりません。労働基準法26条にいう「責に帰すべき事由」は、民法536条2項と文言は同じですが、民法536条2項に言う「責めに帰すべき事由」より広く、天災事変のような不可抗力の場合を除いて、使用者側に起因する経営・管理上の障害を含むとされています。
 この点、厚生労働省「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)令和2年4月30日時点版」によれば、不可抗力による休業の場合は、使用者の責に帰すべき事由にあたらず、使用者に休業手当の支払義務はありません。ここでいう不可抗力とは、①その原因が事業の外部より発生した事故であること、②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であることの2つの要件を満たすものでなければならないと解されています(4・問7)。
 時短勤務の導入により労働時間を短縮する、すなわち部分的に休業させることについて、導入理由にもよりますが、従業員感染拡大の防止などの予防的観点からの導入であれば、一般的には、不可抗力といえる局面は少ないと考えられます。
 ところで、新型コロナウイルスに関連して、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が出た地域において、居酒屋を含む飲食店の営業時間を夜8時までとするよう求めたような例もあります。
 このような場合、あくまで自治体による「要請」で、法的効力はないこととして賃金が100%発生するという考え方や、60%の休業手当が発生するという考え方もありうるところです。
 しかし、その地域に緊急事態宣言が出されていること、感染拡大防止のために地方自治体から休業要請がなされていること等からすれば、これに応じて営業時間を短縮することは公衆衛生の見地から必要不可欠なもので事実上回避不可能ですし、営業時間短縮(による部分的休業)を使用者の責に帰すべき事由と解することは、使用者に酷な結果となります。
 筆者の私見ではありますが、本問においては、使用者の責に帰すべき事由に基づくものではないとして、休業手当の支払義務を免れるという結論もありうると考えられます。

時間単位の年次有給休暇

 労働基準法39条において、使用者は、6か月継続勤務して全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、10労働日の年次有給休暇を与えることとされています。年次有給休暇の付与日数は、勤続年数に応じて加算されます。
 年次有給休暇は日単位で取得することが原則ですが、労働者が希望し、使用者が同意した場合であれば、労使協定が締結されていない場合でも、日単位取得の阻害とならない範囲で半日単位で与えることが可能とされています。
 そして、労使協定を締結すれば、年に5日を限度として、時間単位で年次有給休暇を与えることができるようになります(時間単位年休)。
 では、ウイルス感染症対策のために時短勤務とした場合、短縮された部分について、時間単位年休を取得したものとして取り扱うことができるでしょうか。
 この点、年次有給休暇は、原則として労働者の請求する時季に与えなければならないものなので(労基39条5項)、使用者が一方的に取得させることはできません。なお、10日以上の年次有給休暇を付与された者に対して、5日分の取得義務がありますが(同条7項)、時間単位の年次有給休暇には適用がありませんので、やはり使用者による指定はできません。
 したがって、このような処理をするためには、労使協定が締結されていることを前提に、従業員から個別に時間単位年休取得の意思表示をしてもらう必要があります(労基39条3項)。

 

 

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弁護士法人淀屋橋・山上合同は、あらゆる分野の法律問題について、迅速・良質・親切な法的サービスを提供している法律事務所。2020年3月現在64名の弁護士が所属。連載を担当したメンバーは、主に企業側に立って、雇用や労働紛争に係る相談対応、法的助言から裁判手続、労働委員会における各種手続の代理人活動等を行っている。

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