月刊「ガバナンス」特集記事

ガバナンス編集部

月刊「ガバナンス」2020年6月号 特集 新型コロナパンデミックと自治体

地方自治

2020.05.30

●特集 新型コロナパンデミックと自治体

世界で猛威をふるう新型コロナウイルスのパンデミック。日本でも4月に入り7都府県で緊急事態が宣言され、その後、全国に拡大。期限も5月末へと延長され(状況にあわせて段階的に解除)、長期にわたり外出の自粛や休業要請が行われる事態となった。感染拡大がどう収束していくかまだ先は見えないが、国内外の社会・経済に大きな影響が及ぶのは明らかだ。そうした中で、地方自治体や地域ではこれから何が起き、何が求められるのか。さまざまな観点から考察してもらった。

月刊「ガバナンス」2020年6月号

大杉 覚氏(東京都立大学法学部教授)

■前例がない事態に自治体・自治体職員はどう向き合うべきか/大杉 覚(東京都立大学法学部教授)

「前例のない事態」が起きたとき、被害・苦難の負の連鎖に、自治体職員が巻き込まれがちなのは、これまでの災害時での経験からも明らかだ。自治体職員もコロナ禍に怯えながら業務に従事する点では一般住民と同じ立場にもかかわらずだ。「前例がない事態」に直面しているからこそ、自治体行政の原点、「身近さ」「現場性」「透明性」「先端性」に立ち返って考えてみたい。

■新型コロナウイルス対策と国・自治体関係/礒崎初仁(中央大学法学部教授、同大学院法学研究科教授)

今年1月に日本で初めて新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」と略称)の感染が確認されてから、5月中旬で4か月。この短い期間に様々な新型コロナ対策が打ち出された。こうした対策では、当初、国の対応が注目されたが、次第に小池百合子東京都知事、吉村洋文大阪府知事等のリーダーシップが注目され、危機管理における首長制のメリットが明らかになった。本稿では、この間の主な対策を取り上げ、国と自治体のあり方に照らしてどのような問題があるか、ウィズコロナに向けて両者の関係がどうあるべきか、検討する。

■新型コロナウイルスパンデミックと自然災害対策
 ──複合・連続災害に備える自治体の防災マネジメント/鍵屋 一(跡見学園女子大学教授)

嫌な時代になった、というのが自治体職員の実感かもしれない。しかし、私たちの先輩は、1945年までは戦争と向き合い、その後の焼け野原から復興を果たし、度重なる災害を乗り越えて、私たちに引き継いできた。今度は、私たちがパンデミックを含む複合・連続災害に向き合って、次の世代を守る番だ。今こそ、複合・連続災害に備える自治体の防災マネジメントに全力を尽くそうではないか。

■パンデミックが医療改革に及ぼす影響を考える──地域医療構想を中心に/三原 岳(ニッセイ基礎研究所主任研究員)

近年、地域医療を巡って都道府県を中心に病床再編などを目指す「地域医療構想」が進められてきた。だが、新型コロナは状況を一変させた。地域医療構想の病床推計では感染症対策を考慮しておらず、医療需要が突発的に増加した中、病床削減論議だけでは住民の理解も得られるとは思えない。さらに中長期的な視点に立つと、地域医療構想の大前提が覆る可能性もある。

■新型コロナ対策で求められる生活保障の必要性/大山典宏(高千穂大学准教授)

新型コロナ対策による休業や外出自粛、今後、深刻化する経済環境の悪化、海外への移動の制限の影響などにより、さまざまな困難に直面する人の増加が懸念されている。感染拡大の防止には、感染リスクを承知で働き続けざるをえない立場の人たちに対して、安心して自宅待機ができるだけの生活保障を行い、行動変容をうながしていくことが求められている。本稿では、日本における生活保障の現状と課題、今後の方向性として、簡素な手続きの直接給付の必要性について考えていく。

■新型コロナウイルス対応におけるICT・データ活用/庄司昌彦(武蔵大学教授)

日本は「医療」「教育」「行政」において、ICTの利用が遅れていると考えられてきた。今回のコロナウイルス対応では、まさにこれらの分野で先送りにしていたICT活用の課題に直面し、大急ぎで対応を進めているといえる。さまざまな試行錯誤を行いながら、考え方や業務プロセスの見直しができるかどうかが問われている。

■公務員研修、働き方をどう変えるか/高嶋直人(人事院公務員研修所客員教授)

人材育成は即効性がない。そのため、「不要不急な業務」に分類されてしまいがちだ。しかし、人材を育成しない状況をあまり長く続けるとそのつけは将来必ずやってくる。気づいた時には取り返しがつかない。研修は不急でないにしても決して不要な業務ではない。住民を守るために必要な未来への投資である。

■コロナ対応とエッセンシャルワーカーの非正規公務員/上林陽治(公益財団法人地方自治総合研究所研究員)

エッセンシャルワーカーとも称される「地域に不可欠なサービスの従事者」は、日本でも低処遇の仕事に分類されている。その多くが不安定雇用の非正規労働者であり、公務部門では非正規公務員として登場する。そして皆、感染リスクに晒されながら、離職の誘惑に立ち向かいつつ、「地域に不可欠なサービス」を提供している。コロナは人を選ばない。一方で、感染リスクの高い現場に非正規公務員を選んで配置しているのは人なのだ。

■ポスト・コロナ社会と地方圏の展望/小田切徳美(明治大学農学部教授)

ポスト・コロナ社会では、「コロナ版もやいなおし」、そしてそのベースとなる「地域づくり」の持続化の重要性が再度浮かび上がってくる。そのうえで、都市と地方(農村)の双方が共生しあうことの重要性が再確認されるべきではないか。それにより、大都市も地方部も協力して、対応する新型コロナ以後の新感染症へのより高次の戦略も見えてくる。つまり、ポスト・コロナ社会では、「もうひとつのシナリオ」ではなく、むしろ「都市農村共生社会の実現」という、いままでに掲げられたシナリオの真の実現が求められている。

【キャリアサポート面】

●キャリサポ特集
テレワークを使いこなそう!

通勤・勤務時の人との接触をなるべく避ける──。新型コロナウイルス感染症がこんな対策を社会に強いる中、テレワークが脚光を浴びています。本来は働き方改革の一環で官民ともに推進が図られているテレワーク。子育てや介護支援に加え、生き方自体を見つめ直すワーク・ライフ・バランスを果たすための有効な手法です。非常時の思いがけぬ普及をきっかけに、テレワークの方法論や課題、自治体が導入するコツなどを一緒に探ってみましょう。

■自治体のテレワークはどう進めるか?/森本登志男(キャリアシフト株式会社代表取締役)

住民にとっても自治体職員にとっても、新型コロナウイルスの感染リスクを減らし、迅速な手続きを行うことへの認識が生まれており、追い風が吹いている。職員のテレワーク導入や行政手続きのオンライン申請といった、通常であれば大きなエネルギーを伴う変革を推し進める絶好の機会である。大事なことは、いきなり高い理想を求めないことである。すぐにテレワークによる体制を整えることは難しいが、今から短期間でもできることを考えていく。

■自治体へのテレワーク導入の勘所/今泉千明(総務省テレワークマネージャー)

総務省が2020年3月26日時点で1721市区町村のテレワーク導入状況を調査したところ、導入しているのは51団体にとどまった。自治体がテレワークを導入する際のポイントは、①首長がテレワークに前向きなこと②対象者をできるだけ多くすること③中間管理職に実践してもらうこと――などである。本稿では「自治体でのテレワーク導入事例」「テレワーク導入のためのツール」「テレワーク導入のポイント」 などについて紹介していきたい。

■“やってみてわかった!”──熊本市のテレワークの効果と課題/中村 健(早稲田大学マニフェスト研究所事務局長/熊本市政策参与)

熊本市役所は、これまでに2000人以上が在宅勤務を行い(5月13日現在)、大西一史市長も4月3日より在宅勤務を実施している。市長が在宅勤務を実施している市役所は全国的にも珍しいが、新型コロナウイルスの感染が拡大していた3月時点で特に役所のテレワーク実現へのハードルは高いとみられていたところ、熊本市が実体験をもってその実現の有り様を全国へ示したモデルケースと言える。なぜ熊本市が在宅勤務を大規模で実施できたのか。本稿では、在宅勤務を実施しての効果と課題についてまとめた。

■リモートワークを地方創生に活かす──明るい「逆参勤交代」の可能性/松田智生(三菱総合研究所プラチナ社会センター主席研究員・チーフプロデューサー)

今回のコロナ禍は、地方創生のリスクを顕在化させた。一方で働き方も大きく変貌しつつあり、必要なのはピンチをチャンスに変える視点と収束を見据えた先手を打った政策である。私はポスト・コロナ時代の地域活性化の切り札として「逆参勤交代」を提起したい。

●キャリサポ連載

■管理職って面白い! クラップ・フォー・ケアラーズ/定野 司
■「後藤式」知域に飛び出す公務員ライフ
 ピンチはチャンス──急にふられた仕事は自治体職員としての腕の見せどころ
 /後藤好邦
■誌上版!「お笑い行政講座」/江上 昇
■〈公務員女子のリレーエッセイ〉あしたテンキにな~れ!/関下友貴美
■AI時代の自治体人事戦略/稲継裕昭
■働き方改革その先へ!人財を育てる“働きがい”改革/高嶋直人
■未来志向で考える自治体職員のキャリアデザイン/堤 直規
■そこが知りたい!クレーム対応悩み相談室/関根健夫
■独立機動遊軍 円城寺の「先憂後楽」でいこう!/円城寺雄介
■We are ASAGOiNG ! 地域公務員ライフ/馬袋真紀
■ファシリテーションdeコミュニケーション/加留部貴行
■“三方よし”の職場づくり/東 克宏
■誰もが「自分らしく生きる」ことができる街へ/阿部のり子
■地方分権改革と自治体実務──政策法務型思考のススメ/分権型政策法務研究会

●巻頭グラビア

北川正恭氏(早稲田大学名誉教授)

□シリーズ・自治の貌(特別編)(特集との連動企画)
 北川正恭・早稲田大学名誉教授
 現場から運動を起こし、競争・共鳴し合って国を変えていくべき

政府は4月7日、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、緊急事態宣言を発出した。奇しくも20年前の4月には地方分権一括法が施行。コロナウイルス対策は現在の国と地方の関係をあぶりだしている。三重県知事、早稲田大学マニフェスト研究所所長として分権の推進に力を注いできた北川正恭氏は、現場から運動を起こし、競争・共鳴し合って国を変えていくべきだと語る。

●連載

□童門冬二の日本列島・諸国賢人列伝 細川幽斎(三) 心の役割

●取材リポート

□新版図の事情──“縮む社会”の現場を歩く/葉上太郎
 崩れた蔵をカフェにした【「福島醤油」日本一の情景(3)】
 原発事故、続く模索

震災に遭った醤油蔵の多くは土壁が崩落するなどして大打撃を受けた。福島県二本松市では、被災した蔵のうちの一つがカフェに改造され、醤油を使った郷土料理の魅力の発信が始まった。折しも、同市に避難してきた浪江町の住民や、震災復興に関わる外部人材の動きが活発になり、二本松に新たな活力が注ぎ込まれる。ところが、そうした時に新型コロナウイルスの流行が始まった。

□現場発!自治体の「政策開発」
 “プラごみ”ゼロへの第一歩「レジ袋提供禁止条例」を制定
 ──かめおかプラスチックごみゼロ宣言(京都府亀岡市)

使い捨てプラスチックごみ削減に取り組んでいる京都府亀岡市は、「プラスチックごみゼロ」を宣言し、2030年までの実現をめざしている。その第一歩として、全国初の「レジ袋提供禁止条例」を制定した。店舗でのプラスチック製レジ袋の提供をやめることを契機に、市民にプラごみ問題へ目を向けてもらい、持続可能なまちづくりを進めるのがねらいだ。「世界に誇れる環境先進都市」に向け、“プラごみ”ゼロに挑んでいる。

□議会改革リポート【変わるか!地方議会】
 住民福祉の向上に「地方議会評価モデル」(地方議会の成熟度基準)を作成
 ──(公財)日本生産性本部の研究会

公益財団法人日本生産性本部は2019年度に第3期「地方議会における政策サイクルと評価モデル研究会」を設置、このほど「地方議会評価モデル」(地方議会の成熟度基準)を作成した。モデルは、組織マネジメントの考え方をもとにした枠組みと、先進的な議会改革の事例をもとにした確認項目で構成。新たな価値創造による住民福祉の向上をめざす議会が、“自己診断”によって気づきを得られるモデルとなっている。

●Governance Focus

□新過疎法制定の行方と「アフター・コロナ」──過疎問題懇談会の報告書を読む
 /青山彰久

●Governance Topics

□「AIを活用した未来予測──2050年の兵庫の研究」を公表(兵庫県)
 /広井良典+岩切玄太郎+福田幸二+須藤一磨

●連載

□ザ・キーノート/清水真人
□自治・分権改革を追う/青山彰久
□新・地方自治のミ・ラ・イ/金井利之
□自治体のダウンスケーリング戦略/大杉 覚
□市民の常識VS役所のジョウシキ/今井 照
□“危機”の中から──日本の社会保障と地域の福祉/野澤和弘
□自治体の防災マネジメント/鍵屋 一
□Bizモデルの地域づくり/小出宗昭
□市民と行政を結ぶ情報公開・プライバシー保護/奥津茂樹
□公務職場の人・間・模・様/金子雅臣
□生きづらさの中で/玉木達也
□議会局「軍師」論のススメ/清水克士
□「自治体議会学」のススメ/江藤俊昭
□リーダーズ・ライブラリ
[著者に訊く!/『水道、再び公営化!』岸本聡子]

●カラーグラビア

□技・匠/大西暢夫
 デジタルによって気づかされる風合い──鋳造職人・築地活字(横浜市)
□わがまちの魅どころ・魅せどころ/愛媛県久万高原町
 ひと・里・森がふれあい ともに輝く 元気なまち
□山・海・暮・人/芥川 仁
 血の滲むような努力をして伝統を守ってきた──宮崎県西都市大字銀鏡
□土木写真部が行く~暮らしを支える土木構造物
 鶴田ダム~暮らしを守る九州最大規模の重力式コンクリートダム
□人と地域をつなぐ─ご当地愛キャラ/オッサンショウオ(鳥取県日南町)
□クローズ・アップ
 噴火、台風、そしてコロナ禍──相次ぐ苦境に立ち向かう観光地・神奈川県箱根町

■DATA・BANK2020

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株式会社ぎょうせい

「ガバナンス」は共に地域をつくる共治のこと――これからの地方自治を創る実務情報誌『月刊 ガバナンス』は自治体職員、地方議員、首長、研究者の方などに広く愛読いただいています。自治体最新事例にアクセスできる「DATABANK」をはじめ、日頃の政策づくりや実務に役立つ情報を提供しています。2019年4月には誌面をリニューアルし、自治体新時代のキャリアづくりを強力にサポートする「キャリアサポート面」を創設しました。

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