ガバナンスTOPICS【イベントレポート】

ガバナンス編集部

【人口減少・高齢社会】実践者から学ぶ。地域の課題解決策/イベントレポート

NEW地方自治

2024.12.26

(『月刊ガバナンス』2024年12月号)

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【ガバナンス・トピックス】
課題解決の実践者から学ぶ講座を開催——首長のための地域経営講座

2024年は地方創生がスタートして10年。人口減少は進み、地方の実情は一層複厳しさが増す中、首長らがこれからの地域経営の実践事例を学ぶ「首長のための地域経営講座」が10月31日に都内で開催された。全国各地の首長らが参加し、先進自治体の事例に耳を傾けた。

地方創生10年を契機に

 本講座を開催したのは(一社)地域経営推進センター(中村健代表理事)。同センターは、今年で設立10年目。

「地方分権・創生時代における自立・自律した地方自治体を創造するため、新しい民主主義を担う地域経営のあり方を研究し、市民起点に基づいた地域からの善い政策の競争を推進すること」を目的に地方創生スタートと時を同じくして発足しました。

 今回の講座は、地方自治体を取り巻く環境が複雑さを増す中、地域を経営する首長らが学び合う場を提供しようと開催された。

 まず、中村代表理事が、講座の趣旨を説明。「さまざまな自治体で政策や効果的な戦略が作られている。政策や戦略だけでなく、それを実行し、支える組織や人にも着目して学んでいく機会になれば」と述べた。


会場は早稲田大学日本橋キャンパス。全国各地から首長らが集った。

 

自治体の実践事例から学ぶ

 講座では2自治体の事例が紹介された。

①人口減少時代における「公共施設の統廃合」

まずは、岡山県美咲町の青野高陽町長が「人口減少時代における公共施設の統廃合の実践」として、事例を紹介した。

 人口減少が進む地域の多くは「財政のひっ迫」が大きな課題となっている。平成の大合併で3町が合併した同町もまた、旧町単位で公共施設が多く残っていた。同町では、「賢く収縮するまちづくり(スマート・シュリンク)」という方針のもと、公共施設の集約などを積極的に行ってきた。人口減少時代に見合った大きさにまちをつくりかえるダウンサイジングを進めてきた。

 青野町長は、「まちのあり方を人のあり方に合わせていくことが重要だ」と述べ、現在建設中の役場など複数の施設を統合する多世代交流拠点施設や、小中一貫の義務教育学校を開校した事例などを紹介した。「住民の生活を守るために、必要なものは残し、充実させたい」と力を込めた。

 また、住民にもまちづくりを「自分ごと」として考えてもらうために推進している「小規模多機能自治」による地域コミュニティの再編についても説明。住民や携わった職員の小規模多機能自治組織認定式でのエピソードを交えながら、まちの変化を語った。


青野・岡山県美咲町長は、苦労話も交えながら「賢く収縮するまちづくり」について紹介。

 

②まちを将来世代につなぐ─高齢社会における「情報発信と公共交通」

2事例目は、徳島県神山町の杼谷(とちたに)学さんが登壇し、「まちを将来世代につなぐ─高齢社会における情報発信と公共交通」と題して発表した。

 神山町は、2004年に四国で初めて行政による高速インターネット網を整備。2010年には都内の企業が町内にオフィスを開き、「サテライトオフィス」という言葉が生まれた町でもある。

 さらには、国内の高等専門学校では19年ぶりの新設校となる「神山まるごと高専」が2023年4月に開校。同校は、企業版ふるさと納税を用いて設立された。

 杼谷さんは、同町のこれまでの動きを踏まえて「人口減少が進みながらも『可能性が感じられるまち』なのでは」と前置きをした上で、具体的な取り組み事例の紹介を行った。

事例① 地域アプリ「さあ・くる」

 まず、情報発信のための地域アプリ「さあ・くる」について説明。「地域に暮らす人」だけでなく「近くに住む家族」「遠く離れた出身者」「地域に関心を寄せる人」などすべての人に向けた情報がアプリでは発信されている。またタブレットを町内の950世帯(2400世帯中)に貸与。定期的に高齢者向けの講習会も実施しているという。杼谷さんは、「高齢者だから使えないという決めつけはナンセンス。講習会などで学び、慣れるとすぐに使いこなせるようになっている」と実感を込めた。また、デジタルの困りごとに対応するために「さあ・くるKAMIYAMA ラボ」というサポートデスクも開設しているという。

事例② まちのクルマLet's

 次に地域公共交通についても紹介。これまでも町営バスの運行やタクシー助成などが行われてきたが、利用者の利便性などの観点で課題があった。そこで、「まちのクルマLet's」を2023年3月からスタート。「住民ファースト」 「タクシー事業者の経営維持」 「財政支出の費用対効果の向上」を柱とする新たな公共交通サービスでは、運賃の85%を補助(運賃8000円まで適用)するなど、安価に利用できるものだという。従来の町営バスやタクシー助成と比較しても、高齢者を中心に利用者数が増えていると手応えを示す。このサービスも「まちのクルマ」アプリで管理等がされているという。杼谷さんは、「地域住民の移動が困難になった地域には『自家用有償旅客運送』(公共ライドシェア)による仕組み化が有効なのでは」と他地域への展開に意欲をみせた。

 杼谷さんによる取り組みの紹介の後には、地域アプリ「さあ・くる」等の提供で、同町の高齢化社会課題をデジタルでサポートするイツモスマイル㈱の青木孝之さんも登壇し、ソリューション事例について説明した。

 最後は、中村代表理事が「公務員のなり手不足・離職者休職者増の解決」について講演。各地の自治体の組織運営の事例を挙げながら、現状の課題解決の方向性を提案。「トップマネジメントが非常に大切だ」と参加した首長らに呼びかけ講座を締めくくった。



 今回の講座は、首長らが集い学び、ネットワークを築く機会をつくるという趣旨のもと、直接コミュニケーションをとることを重視。そのため、会場参加のみで行われた。講座での学びから、新たな地域経営の実践が生まれてくることを期待したい。

(本誌/浦谷 收)

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