【特別企画】森林カーボンクレジットから地域課題の解決へ 地域資源を可視化・価値化する注目の環境価値創出事業

地方自治

2024.09.10

(『月刊ガバナンス』2024年9月号)

【特別企画】
森林カーボンクレジットから地域課題の解決へ
地域資源を可視化・価値化する注目の環境価値創出事業

北海道安平町政策推進課課長 渡邊 匡人
株式会社ステラーグリーン代表取締役社長兼CEO 中村 彰徳

公共部門における地球温暖化防止対策の取組みが進展するなか、森林の公益機能保全への関心が高まっている。そうしたなか、自治体に森林カーボンクレジット(森林CC)の生成から販売までのワンストップサービスを提供し、ひいては地域の環境価値を高める㈱ステラーグリーンの環境価値創造事業が注目されている。いち早く連携に乗り出した北海道安平町と同社に事業のポイント等を語り合っていただいた。

森林カーボンクレジット(森林CC)

適切な森林経営などの取組みによるCO₂等の温室効果ガス排出削減量や吸収量を「クレジット」として国等が認証する制度。例えば、環境省・経済産業省・農林水産省が運営するJ-クレジットの場合、同制度を活用してクレジットを創出し、その活用を通じて地球温暖化対策への積極的な取組みのPRを行ったり、企業等へ売却することで売却益を得ることができる。森林分野(森林管理プロジェクト)では「森林経営活動」「植林活動」「再造林活動」の3つの取組みがあり、同プロジェクトを通じて当該区域の森林の成長による吸収量(排出量を控除した純吸収量)を算定し、クレジットとして認証申請することができる。


北海道安平町政策推進課長・渡邊匡人さん(左)と、(株)ステラーグリーン代表取締役社長 兼 CEO・中村彰徳さん(右)。

森林CCを契機に持続可能なまちづくりに挑む

―― 安平町の概要をお教えいただけますか。

渡邊 安平町は人口約7300人、面積237.16㎢のまちです。新千歳空港や苫小牧港に近く、交通の利便性に富み、半導体新会社・ラピダスの進出もあり注目されています。また、まちづくりに関しては、「教育」をマチの総合計画の柱に位置づけ、「日本一の公教育を目指す町」として取り組んでいます。政策推進課は主に企画・財政、マチの重要政策、私は長年企業誘致(対応)にも関わっております。

――㈱ステラーグリーンの概要をお教えいただけますか。

中村 当社はソフトバンクグループのSBプレイヤーズを母体とする新会社です。ITテクノロジーはグループ共通の強みですが、なかでもSBプレイヤーズは地域と協働で課題解決と活性化に取り組む事業展開が特徴です。

 もともと私どもグループ企業が安平町と協働した取組みは、太陽光の大型発電システム導入に始まり、「さとふる」で知られるふるさと納税の一括代行サービスでも連携を強めてきました。なお、ステラーグリーンは環境資源を最新テクノロジーを利用して可視化・価値化し、持続可能な地域社会の構築の実現を目指しております。このたび安平町と「カーボンニュートラルの実現に向けた連携協定」を締結し、環境価値を最大限に引き出し、持続可能なまちづくりに貢献することを目指します。

――安平町がステラーグリーン社の森林CC導入を決めた理由は。

渡邊 安平町は独自の地球温暖化対策の一環として、本年1月23日に「安平町ゼロカーボンシティ宣言」をし、さらに官民によるゼロカーボン推進協議会も立ち上げました。取組みを進めるなかで、ステラーグリーン社から森林CCをはじめとする環境政策上の諸課題を解決するための新たな切り口となる提案をいただいたことが決め手になりました。

 今回の提案は当町のまちづくりに立地企業としてご支援いただいていたSBグループからの魅力ある内容であり、引き続きグループ全体で安平町の持続可能なまちづくり全般もお手伝いいただけるという期待もありました。及川秀一郎町長からは「森林CCという新たなしくみへの理解を深め、全庁で積極的に進めよう」という方向性を出していただいたので、これからまさに取組みをスタートさせる流れになっています。

導入の決め手は「成功報酬型のワンストップサービス」

――ステラーグリーン社の特長である「成功報酬型のワンストップサービス」とは。

中村 私どもは、各地の自治体にお話を伺うなかで、市町村では森林管理に携わる専門人材が限られているうえ技術の継承が難しいこと、森林管理はできても森林CCの経済価値に置き換えるノウハウがない悩みもわかりました。つまり、森林CCの生成から販売に至るすべてのステップに課題があることがわかりました。そこで、そのプロセスにおける費用と作業を当社が負担しつつ、森林CC取引で得られた収入を両者で分け合う「成功報酬型のワンストップサービス」をビジネスモデルといたしました(参照)。

図 ステラーグリーン社が提供する「成功報酬型のワンストップサービス」

 安平町の森林面積1000haは全国的に見ると平均レベルです。森林の価値化については小さな市町村でも環境価値を生み出せますし、それをできるのが森林CCのもう一つの特長です。環境問題の解決には取組みの広がりが成否を分けますし、安平町をモデルケースとする本事業にご注目いただければ、きっと「自分ごと」として捉えていただけると思います。

――安平町はサービスのしくみをどう評価しましたか。

渡邊 安平町は国から森林環境譲与税の交付を受け森林経営管理意向調査などの取組みを進めていますが、さらに環境や森林保全目的に活用できる財源を確保できるステラーグリーン社の提案はたいへん有難いと受け止めました。

広範な地域課題の解決にも有効なステラーグリーン社のテクノロジー

――森林CCの導入で地域課題の解決にも道筋が見えてきましたか。

渡邊 当面の森林CCは町有林が対象ですが、実は民有林にも独自の課題があります。経済損失が6兆円相当ともいわれる「所有者不明土地」の問題であり、安平町内でも多くの民有林所有者がいて調査が進まないという問題です。この事業においてはそこにもアプローチできないかを検討中で、森林CCから上がる収益を民有林調査に活用したいと期待しているところです。

――ステラーグリーン社は今後、自治体にテクノロジーをどう提供しますか。

中村 当社が研究・開発を検討しているテクノロジーは、山林の所有者不明問題にも対応でき、森林の資源量を把握するモニタリングにも活用できる思想のもとに進めています。かつての調査では、人が山に入って一本ずつ測定していましたが、直近ではドローンや航空レーザーによって測れるようになったものの、コストが高い状況です。それに対し、当社は衛星からデータを取得し、測定面積を一気に広げることでコストを大幅に圧縮することを目指しています。これを可能にするのは高度な測定精度ですが、AIを活用した画像認識技術の実現が􄼴となります。当社は、この技術を今後開発し、さらなる多面的活用を図っていく予定です。

――最後に読者にメッセージをお願いします。

渡邊 環境問題には自治体が危機感をもって、まずチャレンジしてみることが重要ですし、課題はすべての部署に関連しますから、すべての自治体職員が環境意識を持つ必要があると思います。安平町は今回の取組みを全国に広げるため、成果を情報発信していこうと考えていますが、全国の自治体の皆様は安平町を自らのフィールドに見立てて、ぜひ取組みのきっかけにしていただければと思います。

中村 自治体GX(*)の意義には、経済とつなげる重要性が含意されています。その点において民間企業の活用と取組みの持続性は欠かせません。森林資源を環境価値に変えつつ、持続可能なまちづくりの仕組化をどう推進していくかがポイントです。私が多くの自治体の方々と意見交換する中で感じたのは、発想がまだ林業DXをどう進めるかやJクレジットの数的管理等にとどまっていることです。しかし大事なのは、森林CCを始めるにあたって地域の将来展望を持ち、中長期の目線でまちづくりへのPDCAを回し始めることがもっとも重要ではないかということです。

 当社は自治体とともに歩み、地域の発展に貢献したいと考えていますので、ぜひ安平町における取組みにご注目いただきたいと思います。

*GX  グリーントランスフォーメーションの略。カーボンニュートラルや温室効果ガス排出削減目標に向けた取組みを進めながら、経済成長も実現させるための経済社会システム全体の変革を目指す活動。

 

企画提供
(株) ステラーグリーン
URL:https://www.stellargreen.co.jp/
コーポレートサイトはこちら


「成功報酬型のワンストップサービス」紹介ページはこちら

 

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