【巻頭対談】LGWAN環境でも安心・安全にテレワークを実現「自治体テレワークシステム」提供に向けて(月刊「J-LIS」2020年11月号)

地方自治

2020.11.04

【巻頭対談】LGWAN環境でも安心・安全にテレワークを実現「自治体テレワークシステム」提供に向けて(月刊「J-LIS」2020年11月号)
月刊「J-LIS」2020年11月号

 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)地方公共団体情報システム機構(J-LIS)は、IPAとNTT東日本が共同開発した「シン・テレワークシステム」を総合行政ネットワーク(LGWAN) 環境下でも利用可能にした「自治体テレワークシステム」の実証実験を、11月から共同で行います。
 実証実験の共同実施にあたり、開発の経緯や今後の展望等について、IPA の富田理事長とJ-LIS の吉本理事長が語り合いました。

※この記事は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊J-LIS」2020年11月号に掲載された記事を使用しております。なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと掲載しております。

最新技術を駆使して社会課題を解決

吉本理事長 今回、自治体テレワーク推進実証実験を共同実施することとなり、ご協力ありがとうございます。ぜひ、これからもIPAさんのお力をお借りして、自治体におけるテレワークを推進し、行政の効率化や多様な働き方の支援に取り組んでいきたいと考えております。よろしくお願いします。

富田理事長 こちらこそ、自治体のテレワーク推進に協力できる機会をいただきありがとうございます。よろしくお願いします。

吉本 今年5月の特別定額給付金で、マイナンバーカードが注目されることになりまして、マイナンバーカードの活用もいよいよ正念場になってまいりました。現在、カードの申請件数は1か月間で約190万件を超えている状況であり(令和2年9月時点)、政府においても、行政のデジタル化をさらに加速していこうという動きがあります。また、新型コロナウイルス感染症への対応などを踏まえると、自治体においても、ニューノーマルな働き方について本腰を入れて検討していく必要があるのではないかと考えております。
 今回、IPAさんのシン・テレワークシステムを、私どもの総合行政ネットワーク(LGWAN)向けに改修し自治体に提供させていただくわけですが、今回の実証実験のベースとなったIPAさんのシン・テレワークシステムについて、取り組みを始めた経緯や自治体に適用していく場合の課題等を、ぜひお聞かせいただければと思います。

富田 IPAは経済産業省の政策実施機関ということで、情報処理の促進に関する法律(情促法)で業務が規定されております。主な業務は、情報セキュリティ対策の推進、IT人材の育成、時代が求める基盤構築の支援、が3本柱です。今年5月の情促法改正の施行等もあって、3つ目の業務では、デジタルトランスフォーメーション(DX)やデジタルアーキテクチャなど、新たな分野での取り組みを広げていきたいと考えています。
 3年前、「中東の石油会社の制御システムがサイバー攻撃の被害に遭う」というニュースが世界に大きな衝撃を与えました。そこで「東京オリンピックまでに、もっと日本をしっかり守らなければいけない」という議論が出てきたわけです。その結果、そういう人材を育成していくことがIPAのミッションとして課せられ、平成29年に産業サイバーセキュリティセンターを設置して、サイバーセキュリティ人材の育成を始めました。1年間、朝から晩まで約50名以上の規模で集合教育をするというコースを始めまして、重要インフラや産業基盤に関わる、さまざまな事業に携わる方々が集まって勉強する場を作りました。
 そのコースは教育の場であると同時に、優秀な教員が集まる場になりました。ご存知のとおり、技術は毎年どんどん新しくなっていきます。単に教員だけを調達していれば良いという話ではなくて、この場がサイバーセキュリティのエンジニアのコミュニティになっていかなきゃいけないという状況になりました。最新の技術をもつ人間が集まるラボみたいなものを作って、サイバーセキュリティに関する最新の技術を常にアップデートしていくことになりました。全員をプロパーで雇うことは不可能なので、非常勤で色々な研究をしてもらって、その結果を社会に還元していくサイバー技術研究室を立ち上げました。これが、シン・テレワークシステムを開発したサイバー技術研究室の設立経緯です。
 昨今、新型コロナウイルス感染症により在宅勤務のニーズが高まる中、シンクライアント型のリモートアクセスを行うことができるサービスを提供し、コロナ禍で困っている人が多いということで、サイバー技術研究室のメンバーである若手技術者の登室長が、無償で利用できるように展開したところ、ものすごい数の応募がありました。そこで、IPAで何かできないか考え、IPAとNTT東日本が一緒になって、これを何とか一般に提供し、テレワーク業務の支援につなげられないかということで始めたのが、今回の自治体テレワークシステムの前身となる、シン・テレワークシステムの実証実験ということになります。
 シン・テレワークシステムの実証実験は、本年4月21日から始めています。利用者は、端末と職場のサーバーのそれぞれにソフトを入れることで利用できます。簡単に利用でき、セキュリティが維持できるということで、非常に多くの方に使っていただきました。
 実はこの実証実験は当初のIPA事業計画にはありませんでした。サイバー技術研究室が最新の技術や世の中で困っていることを察知して、自分たちでできることを的確に、しかもスピーディにやったものです。IPAは独立行政法人であり年間予算で事業を進めるのが本来の業務の進め方で瞬発力に弱いところもあるのですが、サイバー技術研究室の人たちに支えられて、タイムリーに始めることができました。

吉本 当機構においても従前より、新技術の採用について、そのリスク分析も行いながら積極的に検討を行ってきました。今回、登室長のような日本の若手技術者が開発した素晴らしい技術を採用でき、自治体テレワークシステムを具体的に実現できたことを非常に嬉しく思っています。

富田達夫理事長とシン・テレワークシステムを開発したメンバーたち(独立行政法人情報処理推進機構)

強固なセキュリティでテレワークをサポート

吉本 今回、共同で実証実験を行う自治体テレワークシステムのソリューションについて、私どもにとって非常にありがたいと思ったのは、強固なセキュリティ対策を有していることです。自治体の業務では様々な行政情報を取り扱っており、テレワークで利便性の向上を図るといっても、これらの情報に如何にセキュリティ上安全にアクセスするかという課題があります。つまり、セキュリティ面がしっかりしたものでないと、なかなか行政の場で使うわけにはいかないんですね。特にLGWANは、自治体を相互に接続する閉域のネットワークですので、LGWAN接続環境下でテレワークをするには高いセキュリティが求められます。IPAさんには今回このようなシステムを作っていただいたのですが、このシステムのセキュリティ面での特徴について教えてください。

富田 まず、自治体テレワークシステムでは、自宅の端末と自治体の庁内システム間はデータを暗号化して通信を行うわけですが、暗号方式において現時点で十分安全とされているものを採用しています。
 もともとシンクライアントの発想から来ていますので、基本的にデータは自治体の庁内システム側にあって、職員の方が操作する自宅の端末に送られてくるのは、表示されている画面情報となります。データは端末側に残りません。自治体の庁内システムにデータがあり、そこから自宅の端末に操作画面が映像化され、かつ暗号化されて送られてきます。
 また、今回の自治体テレワーク推進実証実験では、自宅からはインターネットでアクセスし、途中から閉域ネットワークであるLGWANを経由して自治体の庁内システムにアクセスすることとなりますので、中継するシステムにおいても不正な通信がLGWAN側へ流れないようにするなどの対策を行っております。

より安全な技術を求めて

吉本 私どもJ-LIS は、LGWAN 以外にも、住民基本台帳ネットワークシステムやコンビニ交付システム等、色々なシステムを運用しております。できるだけ各システムのクラウド化も進めようと思っているのですが、そこでの一番のネックは、「信頼性のあるものかどうか」ということです。IPAさんとNTT東日本で開発されたシン・テレワークシステムは、基本的には純粋の国産と考えてよろしいんでしょうか。

富田 開発は、すべてIPAサイバー技術研究室で実施しております。
 先程お話にあったクラウドの安全性に関して、IPAでは情促法を改正してクラウドの認証制度を始めようとしています。「このクラウドベンダーは安全である」という点数みたいなものを付けて、推薦するような仕組みです。具体的には、そのクラウドベンダーの使っている機器等をチェックしたり、色々なカテゴリのチェックリストで監査したりするといったことを実施していく予定です。
 これからクラウドサービスがどんどん増えてきて、ご指摘のような心配事もいっぱいあると思うので、より安全なクラウドは何かということをはっきりさせていかないといけないという危機意識を持っています。やっぱり自分たちの大事なデータが海外にいってしまった、そこで事件が起きたときに向こうの法律でしか裁けないということになってはいけませんので、IPAのもう一つの本業としてしっかり監視していきたいと思っています。

吉本 ぜひそこをよろしくお願いします。私どももシステムの費用を考慮して必要に応じて性能を定量的に増やしていくような、クラウド型のサービスに変えていかなければいけないという問題意識を持っています。現在マイナンバーカードの取得者は2,500万人を超えたところですが、マイナンバーカードの健康保険証利用が来年の3月に始まりますので、半年後には4,000万人、場合によっては6,000万人ぐらいまでいくことも想定しなくてはなりません。最終的には1億3,000万人が、マイナンバーカードを使うことになっていくわけです。そうするとシステムを初めから大きく作るのではなく、順次容量を増やして性能を高めていくクラウドの技術に注目しております。
 一方で、マイナンバーカードや住民基本台帳ネットワークシステム、公的個人認証(JPKI)といった国民の重要な情報を扱うシステムを運用していますので、グローバルなサプライチェーンリスクも日々意識しております。今回の自治体テレワークシステムもクラウドサービスの監視や認証の制度を整備されているIPAさんに独自に開発していただいたので大変安心いたしました。

吉本和彦理事長と自治体テレワークシステムを開発・運用するメンバーたち(地方公共団体情報システム機構)

テレワークはDXの一つの要素

吉本 現状、自治体におけるテレワークは普及しているとは言い難い状況です。導入が進まない要因としては、セキュリティ確保への懸念、導入・運用コストの問題があり、特に小規模自治体からは、どのようにテレワークを進めていけばよいかわからないという声も聞こえてきています。11月からの実証実験開始に向けて、現在、J-LIS から参加団体を募集している状況ですが、全国1,741の市区町村のうち、特に小規模自治体は、なかなかテレワークの仕組みを自前で作っていくのも大変であり、そのような団体に普及を目指していきたいと考えております。今回の自治体テレワーク推進実証実験は、これら自治体の抱える要因に対しての解決策になるものと思っております。
 自治体職員が行う業務には、戸籍・住民記録、税・社会保障、農林水産、商工振興、都市計画、その他内部事務といった多種多様なものがあり、それぞれの業務においてもテレワークに向いているもの、向いていないものがあるかと思いますが、色々な業務でテレワークの試みがされることと期待しています。また、常勤職員のほか、地方行政の重要な担い手になっている臨時・非常勤職員の方の活用も検討していただきたいところです。
 ご存知のとおり、政府においてもデジタル庁の創設を中核に行政のデジタル化を加速させていくこととなり、行政情報システムの在り方の見直しが検討されております。住民の方が行政サービスをどこでも受けられるように、行政のシステムも対応が迫られています。同時に、自治体の職員もどこでも業務ができることが必要となります。テレワークのニーズはコロナ禍による一時的なものではなく、新たな仕事の仕方として定着していくものではないでしょうか。
 その際にはやはりセキュリティの信頼性が非常に大事になってくると思います。そういう面でも、今回の自治体テレワークシステムは重要な役割を担うものと考えており、ぜひお知恵をお借りしたいと思っております。

富田 ぜひお役に立ちたいと思います。これからデジタルトランスフォーメーション(DX)がどんどん進んでいきます。これは民間のみならず、自治体も同様と考えます。テレワークという一つの仕事の仕方もDXの要素だと思いますが、ご指摘のとおりコロナ禍が終わっても、テレワークという働き方はなくなりません。
 今後、テレワークとオフィス、サテライト・オフィスといった環境の併存したような社会になっていくことを想定しています。その場合、テレワークを実現するツールがあることは大変重要です。同時に、まだ出発点であるDXを推進していくには、中小企業に向けたセキュリティ対策の普及の他にも、自治体の方々とのコミュニケーションが非常に重要だと思っております。IPAは、残念ながら地方に拠点を持っていないので、これをきっかけにIPAという存在が、少しでも自治体の方々にも知れ渡って、今後デジタル化を進める力が地方にまで広がっていったらいいなというふうに思っております。

吉本 ぜひ、これを日本の自治体行政のテレワークの一つの有力なインフラとして使っていけるよう、私どもも希望しております。ぜひ今後もよろしくお願いしたいと思います。

富田 ありがとうございました。今回の実証実験ではお互いの強みを活かして良いサービスを自治体に提供できればと思いますので、ぜひよろしくお願いいたします。

 

Profile

富田 達夫(とみた・たつお)独立行政法人情報処理推進機構(IPA)理事長
情報学博士。日本工学会フェロー。東京大学理学部物理学科卒業、富士通株式会社入社。同社取締役副社長、株式会社富士通研究所代表取締役社長・会長を経て、平成28 年1月より現職。情報処理学会会長(平成27 年6月~平成29 年6月)、IT コーディネーター協会評議員議長(平成30 年~)、日本技術者教育認定機構(JABEE)会長(令和元年6月~)など、数々の公職を歴任する。

 

吉本 和彦(よしもと・かずひこ)地方公共団体情報システム機構(J-LIS)理事長
慶應義塾大学工学部卒業、富士銀行(当時)入行。長年にわたり銀行の情報システム構築に携わり、平成14 年、みずほ銀行常務執行役員(e ビジネス担当に就任)。その後、日本郵政公社理事兼常務執行役員、フィデアホールディングス(荘内銀行と北都銀行の金融持株会社)取締役副社長等を歴任し、平成29 年4月から現職。

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