政策形成力の磨き方
政策形成力の磨き方 - その4 分析力
キャリア
2024.02.12
★本記事のポイント★
1 原因の分析では、調査した資料に基づく情報を、原因、改善すべき現状、解決策、望ましい状況などの要素に分けることになる。2 原因 → 改善すべき現状 → (解決策) → 望ましい状況 を念頭に置いて、「→」の方向や逆方向の流れを考えることが、分析力や予測力を高める有効な方法。 3 長時間労働やパワハラが横行し、若者を使いつぶすブラック企業に関して、問題の原因分析を行う。
1.分析とは?
『政策思考力入門』では、分析とは、観察した情報や事象について、構成する要素に分けることを意味するとされています1。分析は、政策形成の様々な場面で必要となりますが、ここでは、原因の分析について考えます。
「政策形成の職人芸」の第4回で、原因の分析とは、調査した資料から、問題の原因となる事項を探すこと、原因と結果の因果関係の流れを把握すること、原因から解決策を検討することなどから構成されるとしました。
そうすると、原因の分析では、調査した資料に基づく情報を、原因、改善すべき現状、解決策、望ましい状況などの要素に分けることになります。また、調査した資料に基づく情報を、インプット(投入)、アクティビティ(活動)、アウトプット(直接の効果)、アウトカム(成果)というロジックモデルの要素に分けることも、解決策につながる原因の分析にとって有益です。これらが、政策形成のプロセスの本流を構成する要素でしょう。
例えば、前回検討したゴミ集積場の不法投棄の問題について言えば、調査した情報を、次のように分けることでしょう。
ただ、公共政策が対象とする問題では、いくつかの原因が絡み合っていることが多いので、これらの図のように、1本の流れではなく、複合的な構造になるかもしれません。複合的な構造の場合は、原因ごとに解決策を見つけるとともに、各解決策の効果や費用などを比較検討することも必要となるでしょう。
なお、「政策形成の職人芸」の第7回で述べましたが、原因と結果、目的と手段の因果関係の流れを考える習慣をつけておくことは、原因の分析だけでなく、予測の能力を高めるためにも重要だと思います。原因から結果を導くためには予測が必要ですし、原因と結果の間に因果関係があるかについても推測が必要だからです。「政策形成の職人芸」の第4回で「問題の分析から政策のデザインに至る一連の知的活動には、因果関係についての推論に加えて、公共政策・政府政策を通して実現しようとする望ましい将来の状態を思い描き、その状態に到達するための道筋をデザインするという、豊かな構想力と想像力を要求する思考のプロセスが含まれている」という論述を紹介しましたが2、因果関係の推論の重要性を論ずる意義深い論述だと思います。
上記の図を念頭に置いて、「→」の方向や逆方向の流れを考えることが、分析力や予測力を高める有効な方法だと思います。
2.事例で考えましょう
<事例>
長時間労働やパワハラが横行する企業を、ブラック企業ということがあります。ブラック企業では、入社したのちに労働者同士を競わせて過酷な労働を課すこと、解雇より労働者自身が辞めるように仕向けることなどが行われ、ときには過労死・過労自殺も生ずるなど若者を使いつぶすこととなっています。
このようなブラック企業に関して、問題の原因分析を検討しましょう。
<考察>
この問題の解決の方向性のイメージは、長時間労働やパワハラを規制すること、若者がブラック企業に就職することを防止することでしょう。長時間労働やパワハラがブラック企業の特徴であり若者を使いつぶす原因であることは分かりやすいでしょう。これに対しては、労働時間の規制強化やパワハラ防止の雇用管理上の義務を課すことなどが解決策でしょう。一方、若者がブラック企業に就職する原因の分析はやや複雑です。ブラック企業であることを知らずに就職しているなら、労働のルールや企業の実態を知らないことが原因と考えられます。これに対しては、労働のルールを教育すること、ブラック企業であることの情報を提供すること、ブラック企業に対する職業紹介を行わないことなどが解決策でしょう。一方、ブラック企業であることを知って就職しているなら、非正規労働者の増大により、正規労働者への志向が強く、正規労働者であればブラック企業でもよいという意識があることなどが原因と考えられます。これは、ブラック企業特有の問題ではなく、労働に関する根本的な問題であり、解決は簡単ではありませんが、非正規労働者の待遇改善や正規労働者化などがとりあえずの解決策でしょう3。
このようなことを、因果関係の流れを示す図で整理すると、次のようになります。なお、解決策を()内に入れているのは、調査した資料に基づく情報から解決策が見つかる場合もありますが、解決策は、原因の分析・検討により生まれることが多いと考えたからです。
このような図を念頭に置くと、問題の構造をよく理解することができるとともに、どのような原因に対してどのような解決策を講じるかの検討も進みやすくなると思います。
1 同書112頁 2 足立幸男『公共政策学とは何か』(ミネルヴァ書房、2009年)32頁。 3 ブラック企業問題の原因と解決策については、佐々木亮「ブラック企業の問題点と対策」『法律のひろば』2014年5月号45頁以下を参照。
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