政策形成の職人芸 ~その4 調査・分析②~

キャリア

2022.10.04

★本記事のポイント★
①問題意識から改善すべき現状を見れば、解決の方向性がイメージでき、そこから政策の目的・手段をイメージしたうえで、問題に関する現状、原因を分析することが重要。 ②丹念に原因の探求や原因と結果の因果関係の把握を行うことが基本。その際には、できる限り詳細に原因と結果のプロセスを考察することで、新たな原因を発見する可能性があり、因果関係の濃淡の把握ができる可能性がある。 ③「エピソード・ベース」と「エビデンス・ベース」の差異を意識しつつ、仮説を立てるとともにその検証を行いながら、調査・分析を行うことが重要。

 

1.絡み合った原因の探求

 前回は、政策形成における当たりをつけた調査・分析の仕方についてお話ししました。その際、解決の方向性のイメージを持ちつつ調査・分析に取り組むことの重要性を述べました。
 ある程度調査が進み、問題に関する実態が見えてきたら、問題が生じた原因を探求することになります。しかし、公共政策が対象とする問題では、いくつかの原因が絡み合っていることが多く、原因の探求も簡単ではありません。
 公共政策の問題として設定が難しいものは、現状・原因が複雑なものなので、多くの事例を調査し、共通する現状・原因を抽出して、原因ごとに解決策を模索し、政策を形成していく必要があります。第3回で示しましたが、調査する資料の中から、原因、解決策につながる事項を抽出し整理する必要があります。
 政策の形成は、論理的には問題の設定から解決策の提示に進むのですが、改善すべき現状を見て、解決の方向性がイメージできて、はじめて公共政策の問題として設定されるという側面もあります。言い換えれば、解決の方向性のイメージから原因を分析するという、「結果からお迎え」を行うというものです。つまり、問題意識から改善すべき現状を見れば、解決の方向性がイメージできますし、そこから政策の目的・手段をイメージしたうえで、問題に関する現状、原因を分析するのです。「原因 → 改善すべき現状 → 望ましい状況」という流れを意識すれば、このことも理解しやすいと思います。
 公共政策学の書物の中には、「問題の分析から政策のデザインに至る一連の知的活動には、因果関係についての推論に加えて、公共政策・政府政策を通して実現しようとする望ましい将来の状態を思い描き、その状態に到達するための道筋をデザインするという、豊かな構想力と想像力を要求する思考のプロセスが含まれている」という論述がありますが、以上の思考のプロセスと同様の趣旨であるように思います。

 

2.因果関係の把握の仕方

 原因の分析とは、調査した資料から、問題の原因となる事項を探すこと、原因と結果の因果関係の流れを把握すること、原因から解決策を検討することなどから構成されています。
 原因の探求や原因と結果の因果関係の把握を適切に行わないと、有効な解決策は生まれません。しかし、前述のように、公共政策が対象とする問題では、いくつかの原因が絡み合っていることが多く、原因の探求や原因と結果の因果関係の把握も簡単ではありません。
 収集した資料から丹念に原因の探求や原因と結果の因果関係の把握を行うことが基本となります。その際には、できる限り詳細に原因と結果のプロセスを考察していくと、新たな原因が発見できるかもしれませんし、因果関係の濃淡(原因が結果に及ぼす影響の大小)も分かるかもしれません。
 第3回で例にあげた空き家問題について、原因と結果の因果関係の流れは、次のように図示することができるでしょう。

 このように、因果関係を図示すれば、それぞれの事項についての解決策を検討しやすくなると思います。例えば、上記の例でいえば以下な解決策を検討すべきでしょう。
家屋の老朽化→建替え・改修への助成など
売却・賃貸ができないこと→自治体が、空き家の物件情報を収集して提供することにより、売却・賃貸を促進すること(空き家バンク)や地域交流などの施設として利活用すること
空き家を放置すること→適切な管理をしていない場合に不利益を課すこと(例:罰則、強制執行)や適切な管理するように誘導すること(例:除却、改修等への補助)
 なお、このように原因と結果、目的と手段の因果関係を把握することにより、政策の全体像が見えてくるのではないでしょうか。政策の構想力の重要な要素だと考えます。また、ロジックモデルは、このような因果関係を基に構成されますので、因果関係の把握は、ロジックモデルを作成する際にも役立つものだと思います。

 

3.流行のEBPM

 調査・分析との関連で、現在、国や自治体で推進されているエビデンスに基づく政策立案(EBPM)について触れます。
 統計改革推進委員会の最終とりまとめ(平成29年5月19日)では、我が国では、これまで、往々にしてエピソード・ベースの政策立案が行われているが、限られた資源を有効に活用し、国民により信頼される行政を展開するためには、政策部門が、統計等を積極的に利用して、証拠に基づく政策立案(EBPM、エビデンス・ベース・ポリシー・メイキング)を推進する必要があるとしています。「エピソード・ベース」とは、たまたま見聞した事例や限られた経験(エピソード)のみに基づき、政策を立案することをいい、「エビデンス・ベース」とは、変化が生じた要因についての事実関係をデータで収集し、どのような要因がその変化をもたらしたかをよく考え、データで検証して政策を立案することをいいます。
 EBPMを行う際には、信頼できるエビデンスを用いる必要があります。そして、信頼性の最も高いエビデンスとしては、無作為化比較試験(ランダム化比較実験RCT: Randomized Controlled Trial)によって得られた結果であるとされています。RCTとは、無作為に介入群と対照群を分け、介入群に対してのみ処置を実施することで、処置の真の効果を見極める方法です
 すべての政策形成について、RCTや社会実験ができるとは思いませんが、「エピソード・ベース」と「エビデンス・ベース」の差異を意識しつつ、仮説を立てるとともにその検証を行いながら、調査・分析を行うことは重要だと考えます。

 

1 足立幸男『公共政策学とは何か』(ミネルヴァ書房、2009年)(以下「公共政策学とは何か」と略します。)32頁。2 酒井正『日本のセーフティーネット格差』(慶應義塾大学出版会、2020年)250頁参照。

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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