条例化の関門 その10 条例起案②

キャリア

2023.06.28

★本記事のポイント★
1 多数の人が利用する施設の管理者にワクチン接種証明書又はPCR検査等の陰性証明書を提示しない者を施設に入場させないように要請するという政策を条例化する際の制度設計について考察する。 2 実体規定の要素である施設の範囲、ワクチンの接種証明書・PCR検査等の陰性証明書、施設への入場規制などについて検討する。 3 施設の管理者へ要請するという規制の強度について検討する。

 

1.条例化する際の制度設計

 これまでの検討の結果、当初のワクチン接種促進政策から、多数の人が利用する施設において感染拡大を防ぐという目的で、これらの施設の管理者にワクチン接種証明書又はPCR検査等の陰性証明書を提示しない者を施設に入場させないように要請するという政策に軌道修正しました。この政策を条例化する際の制度設計について考察します。皆さんがお持ちの法制執務等の知識を前提に、前回お示しした政策を条例化する際の制度設計の手順に従って、具体的に制度設計していきましょう。

⑴ 目的規定について
 条例の目的規定は、政策が形成された経緯、政策の目的などを基に表現することになります。当初のワクチン接種促進政策が形成された経緯は、令和4年の春、若年層での3回目接種が伸び悩む状況に対処するというものでした。また、政策の目的は、多くの住民がワクチン接種をして、コロナの感染のまん延を防止し、住民の健康を保持することです。
 しかし、これまでの検討により、ワクチン接種促進政策としては問題があり、多数の人が利用する施設において感染拡大を防ぐという目的を前面に出すこととしました。
 したがって、目的規定の中では、ワクチン接種の促進ということは触れずに、新型コロナウイルス感染症のまん延を防止し、住民の健康を保持することだけを掲げることが考えられます。

⑵ 実体規定について
 実体規定の骨格は、多数の人が利用する施設の管理者にワクチン接種証明書又はPCR検査等の陰性証明書を提示しない者を施設に入場させないように要請するというものです。以下、各要素について検討します。
ア 施設
 まず、ワクチンの接種証明書又はPCR検査等の陰性証明書を提示しない人を入場させないとする施設の範囲が問題となります。
 この条例の目的は、感染者が多数の人が利用する施設に入場する可能性を減らし、このような施設において感染拡大を防ぐことです。そうすると、施設の範囲については、新型インフルエンザ等緊急事態において、使用の制限・停止が要請される施設、あるいは、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置として営業時間の短縮が要請される施設などを参考にして考えることになるでしょう(新型インフルエンザ等対策特別措置法第45条第2項、同法施行令第11条、同法第31条の6第1項参照)。
 また、飲食店やイベント主催者等の事業者に利用者のワクチン接種歴などを確認するとした「ワクチン・検査パッケージ制度」における対象となる施設も参考になるでしょう。
 このような検討を経て、施設の範囲を決定することになるでしょう。ここでは、とりあえず「規則で定める多数の者が利用する施設」としておきます。
イ ワクチンの接種証明書又はPCR検査等の陰性証明書
 ワクチンを接種した人が請求すれば、ワクチン接種証明書が発行されますが、この条例の場合は、接種を受けた際に発行される「接種済証」でも事足りるでしょう。
 また、ワクチンを接種しない人については、一定の期日内に行われたPCR検査等による陰性証明書も代替的なものとして認められるべきでしょう。
 なお、「ワクチン・検査パッケージ制度」では、ワクチンの接種証明については2回目接種日から14日以上経過しているもの、陰性証明書については、PCR検査などは検体採取日(不明な場合は検査日)から3日以内、抗原定性検査は検査日から1日以内のものとされています。このような細目については、規則で定めることにします。
ウ 施設への入場規制
 第8回で述べたように、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)第31条の6第1項や第45条第2項との整合性を考慮するなら、この政策を条例化できるとしても、時期や区域を限定しつつ、施設管理者に、直接的に義務を課すのでなく、ワクチン接種証明書又はPCR検査等の陰性証明書を提示しない者を施設に入場させないように要請を行うことが規制の限度ではないかと考えます。なお、要請を行うのは、特措法に倣い、都道府県知事とします。
 また、施設管理者への要請も厳しいと考えるなら、ワクチン接種証明書又はPCR検査等の陰性証明書を提示しない者を施設に入場させないことその他のまん延の防止に関する措置を講じている施設を自治体がまん延の防止に関する措置が講じられている施設として認証する方法も考えられるでしょう。情報を用いて、人が認証を受けた施設を利用することを誘導することにより、多数の人が利用する施設において感染拡大を防ぐという目的を達成しようとする方法です。この方法は、ワクチン接種の任意性や施設管理者の営業の自由などに配慮したもので、目的を達成するマイルドな方法と言えるでしょう。ただ、条例化の必要性については、検討の余地があるでしょう。
エ 留意事項
 第6回で述べたように、この条例を施行すると、ワクチンの不接種者に対する差別につながるおそれも否定できません。新型コロナウイルス感染症に関して様々な差別的取扱いなどが生じ、それに対処する条例も制定されています。それらの条例の中には、ワクチン接種を受けていないことを理由とした差別的取扱いの禁止を明記したものもあります
 この条例に関しては、この条例の施行が、ワクチン接種を受けていないことを理由とする不当な差別的取扱いにつながることがないように留意しなければならない旨を規定する必要があるでしょう。

⑶ 実効性確保規定
 施設管理者が要請に応じない場合については、特措法第31条の6第3項や特措法第45条第3項が、正当な理由なく要請に応じない場合は要請に係る措置を講ずべきことを命ずることができ、この命令に違反した場合は過料に処する(第79条、第80条第1号)という制度が参考になるでしょう。
 この制度を用いるなら、施設管理者が正当な理由なく要請に応じない場合は、命令を行い、その命令に違反した場合は過料に処するという構成になるでしょう。なお、条例では5万円以下の過料しか規定できないことに注意する必要があります(地方自治法第14条第3項参照)。
 ただ、命令や命令違反の罰則が厳しいと考えるなら、令和3年の改正前の特措法のように、要請だけにとどめる方法もあるでしょう。
 なお、前述の施設の認証という方法を採るなら、ワクチン接種証明書又はPCR検査等の陰性証明書を提示しない者を施設に入場させるなどまん延の防止に関する措置を講じていないと認めるときは、認証の取消しという制裁が考えられます。

 以上のような制度設計を経て条例の骨子を作成することになります。次回、筆者の骨子案をお示ししますが、皆さんも骨子案を作成して比較検討していただければと思います。

 

1 例えば、明石市新型コロナウイルス感染症の患者等に対する支援及び差別禁止に関する条例第8条参照。

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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