政策形成の職人芸 ~その3 調査・分析①~

キャリア

2022.09.27

★本記事のポイント★
①問題に関する現状、原因、解決策などを要領よく把握するという当たりをつけた調査・分析を行うことが重要。 ②第2回で取り上げた「問題意識」は、解決の方向性のイメージを持つことにも役立つ。解決の方向性のイメージは、政策形成のプロセス全般にわたり、思考の指標となる大局観のようなもの。 ③政策形成において問題の原因を探求し解決策を模索する場合、仮説を立て検証し、問題があれば、また新たな仮説を立てるという過程を経て、答えを導くことになる。その際にも解決の方向性イメージが役立つ。

 

1.どこから手を付けましょうか

 前回は、問題の発見についてお話ししました。この段階は、現状が何かおかしいという「問題の気づき」の段階であることも多いでしょう。「問題の気づき」がなければ、政策形成がスタートしないので、その重要性は言うまでもありませんが、公共政策の問題の設定には、さらなる調査・分析が必要です。

問題設定の手順

 調査・分析をする際には、どのような資料を収集し、どのように分析するかという問題があります。最近は、インターネットによる検索により、網羅的に資料収集ができるようになりましたが、時間、労力の制約で、すべてを閲覧することはできません。問題に関する現状、原因、解決策などを要領よく把握するという当たりをつけた調査・分析を行う必要がありますが、そのためにはどうすればよいのでしょうか。

 

2.政策形成における見通し

 皆さんは、見通しを持ってお仕事をされていると思います。政策形成における見通しとはどのようなものでしょうか。
 前回、社会的正義・公共性といった理想から、現状を改善しようとする問題意識を持ち続けることの重要性を論じました。問題意識は、問題の発見だけでなく解決の方向性のイメージを持つことにも役立ちます。なぜなら、政策形成は、大まかに言えば、理想と現実のギャップを認識し、そのギャップを解決することですので、問題意識により理想と現実のギャップを認識できるということは、そのギャップを解決する方向性をイメージできることにつながるからです。公共政策では、問題を発見できることは問題を解決することにつながると言われることがありますが、このような理由があるからでしょう。
 そして、この解決の方向性のイメージは、政策形成のプロセス全般にわたり、思考の指標となる大局観のようなものです。もちろん、検討を経て、解決の方向性のイメージが変わっていくこともありますが、解決の方向性のイメージなく検討を行うと取り留めのない検討になるでしょう。解決の方向性のイメージを持つことが、政策形成における見通しだと考えます。

 

3.仮説を立てましょう

 ところで、政策形成において問題の原因を探求し解決策を模索する場合のように未知の答えを模索する場合には、仮説を立て検証し、問題があれば、また新たな仮説を立てるという過程を経て、答えを導くことになるでしょう。仮説を立てる際、解決の方向性のイメージが役立つと考えます。解決の方向性のイメージは、理想と現実のギャップを解決する改善の方向性をイメージすることなので、このイメージから解決策の仮説を立てることに役立ちます。また、解決の方向性のイメージは、問題が複雑で原因の探求が難しい場合、解決につながる原因を探求することにより、原因に関する仮説を立てることにも役立つでしょう。

 

4.仮説を検証しましょう

 ただ、仮説はあくまで仮説ですので、客観的資料に基づき検証する必要があります。特に、個人の見聞・経験に基づく仮説は、思い込みのこともありますので注意を要します。
 資料に基づく検証のためには、文献による調査、専門家・関係者の意見の聴取を行う必要があります。文献による調査に関しては、各省庁の白書・統計、国・自治体の審議会の答申・議論・配布資料など信頼できる資料を利用することを心掛けなければなりません。また、意見の聴取を行う場合には、公共政策に関するものですから、利害・価値判断が含まれるのはやむを得ませんが、できる限り、いろいろな立場の意見を聴き、実態を客観的に把握する必要があります。また、政策のデザインにつながるように、聴取する意見の中から、原因、解決策を抽出し整理する努力も行うべきでしょう。

 

5.事例で考えましょう

Step1仮説を立てる
 倒壊、非衛生、景観への悪影響など生活環境に支障を及ぼす空き家問題を例として、原因の仮説を立てましょう。空き家問題については、すでに空家等対策の推進に関する特別措置法、空き家条例に基づき対策が講じられていますが、さらの状態で考えてみましょう。
 報道等から、解決の方向性のイメージとしては、生活環境を向上させるため、生活環境に支障を及ぼす空き家を除却する、あるいは、そうなる前に管理を促進するということが浮かびます。そして、その原因としては、家屋が老朽化していたり、需要があまりない場所にあるため、売却や賃貸ができず、所有者が実際に住んでいる場所から離れた場所にあるため、管理も行き届かず、生活環境に支障を及ぼす空き家となってしまうことが推測されます。

Step2仮説を検証する
 この仮説を検証するためには、空き家の取得理由、空き家の所在場所、管理状況などを資料により調査する必要があります。
 空き家問題については、国土交通省住宅局が、昭和55年度から5年ごとに空き家の実態調査を行っており、最新の「令和元年空き家所有者実態調査」においては、空き家の所在地、取得経緯、利用状況、管理などについて調査結果をまとめています。
 調査結果は、詳細にわたりますが、先ほどの仮説との関係で、注目すべきは、所有している空き家の市区町村の属性について、「「大都市圏以外 市部」が 54.2%と最も多く、次いで「大都市圏 市部」が 31.8%、「大都市圏以外 郡部」が 10.1%、「大都市圏 郡部」が 3.3%となっている」としていて、大都市圏の市部というそれなりに需要がある場所にもかなりの数の空き家があるということです。また、空き家の管理に関して、「市区町村の属性別では、「大都市圏 市部」に所在するもので「課題はない」の割合が大きく、36.5%となっている。また、「大都市圏以外 郡部」に所在するもので「遠方に住んでいるので管理が困難」の割合が大きく、31.7%となっている」としています。
 以上から、大都市圏の市部とそれ以外では空き家の状況が異なることが分かりましたので、次のステップでは、それぞれに属する自治体の空き家の現状、対策等を調査することになっていくでしょう。

 以上、政策形成における当たりをつけた調査・分析の仕方についての私見を述べました。資料の収集や調査については、皆さんもすでに方法論をお持ちと思いますし、優れた書物もありますが、参考にしていただければ幸いです。

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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