「できない、助けて!」どーする? DX・サービスデザイン・データ利活用

市川 博之

「できない、助けて!」どーする? DX・サービスデザイン・データ利活用 ~自治体・管理職編~ 第2回 重要性はわかった。で、何から?【守破離の守から始めて深根固柢を整えよ】

地方自治

2022.09.26

「ちょっと始めてみようと思った」、「部長や首長から言われてやらなければいけないこと、そして重要性も理解した」。
そんな管理職の皆さん、どこまで何をやるか見えていますか?
どこから手をつけようって意識はありますか?

「マイナンバーカード、電子申請…からかなと思ってます…、その後はまた何か出てきたら考えます…」

という目先の仕事でお茶を濁そうとしている方々に向けて、本連載では、全国の「できない、助けて!」とDXに迷える自治体職員の管理職の皆さんに向けて処方箋を提供していきたいと思います。

第2回は【守破離の守から始めて深根固柢を整えよ】です。
変えると言ったって、どこを変えるのですか? そもそも、課題を把握していますか?
そこを話していきましょう。

 

1.もっと具体的な手法や技術が知りたい

<症状:この時期によくある質問や言動> ・「全部門で使えるようなものはありませんか?」 ・「すぐに効き目のたる具体的な手法を知りたい」 ・「すぐに効果が出る技術が知りたい」 ・「これを導入すればDXが進むってものはありますか?」

<症状:このような発言が出るのはなぜ?> ・人ではなくて、システムを導入することでDXを進めてしまおうとしている。また、それだけ人の説得は難しいので避けたい。 ・目先の効果をすぐに出したい。 ・それぞれが考えるのは時間がかかるから、全員が一気に使えるものが欲しい。 ・効果があるものならば、現場がすぐに使ってくれるだろう。 ・先行している自治体で効果が出ているならば、自分のところでも効果が出るだろう。

<処方箋:自治体の皆さんへ> ・まず、すべてを一気に解決する技術なんてありません。何十年も業務の変革を後回しにしてきたのですから、まずは現状を確認して直すべきところを把握することが必要なんです。業務改革では、今までの業務を「否定」して新たに業務をデザインします。それには、必ず、現状の把握が必要なのです。そのステップを飛ばして次々やろうとするのは、今までと同じままです。業務のデジタルへの置き換え、上乗せにしかなりません。

・そもそも、効果や使えるって何ですか? 課題は一体何なのですか? 「DXができていない」は課題じゃありません、事実です。DXができていないから、何で困っているのか、なぜ自治体としてDXに取り組もうとしているのか。その「なぜ」や「何」がないから、方向が決まらない=すぐにできるものがないか探しになるのでは。まずは、何のために、なぜ、DXをやるのか検討してください。言われているからやる、やらなきゃいけないからやる、ではありませんよ。ゴールを定めないプロジェクトなんて、行き先もわからず見切り発車で航海に出るようなものです、やめましょう。

・目先の効果、欲しいのはわかりますよ。でも、これ「現在バイアス」に取り憑かれすぎではないですか? 現在バイアスは、未来にある大きな効果に取り組むよりも、目先の現在の効果を過大に評価してしまうことですが、これを続けると、モグラ叩きのようになってしまうのです。そして、そこにリソースを取られてしまい本当にやらなければいけない大きなプロジェクトにリソースが割り当てられなくなります。これも、DXをなぜやるのかの検討がしきれていないからです。優先順位をつけるためにも、「DXをなぜやるのか」、そこをしっかりやらなきゃだめです。

・多くの自治体DX推進計画が、マイナンバーカードの普及率とそれにかかわる施策、電子申請の件数、RPAの件数…など、件数ベースで書かれているものが多い。おそらく、それに取り憑かれてしまっていることもあるでしょう。一見すると今までどおりのICT導入計画になっているのですよね。どこでも使えるようなヘッダー部分(社会情勢など)、国の示しているDXの方向性、当自治体の課題、「よくわかったようでわからない方針」、施策という名の導入計画。これに、しっかり魂がこもっていないから、実施の段階になっても魂がこもっていないのです。計画の表紙の自分の自治体名を消したとき、これが自分の自治体のものかわからなくなるのだったら、マズくないですかね?

 

2.そもそも棚卸ができていない

<症状:この時期によくある質問や言動> ・「各部門の現状を聞いて回るのに時間がかかっています」 ・「現場の状況がよくわからないんですよね…」 ・「現場にヒアリングに行っても、課題の粒度がバラバラになります」 ・「なんか、課題が目の前のことばかりで、この手の課題だとRPAやAI-OCRばかりになってしまいます」

<症状:このような発言が出るのはなぜ?> ・現場に対しての課題のヒアリング方法がよくない、DXなのに今までと同じような聞き方をしてしまっている。 ・システムを知っている担当者のスキルもまちまちで、各部門に個別のノウハウで聞いている。 ・業務ヒアリング方法が我流で、なんとなく聞いている状態になっている。 ・現場も担当者レベルは、個別の作業しかわからず、業務の全体像が把握できていない。

<処方箋:自治体の皆さんへ> 誰が見ても同じ解釈ができる業務フローの作成、そろそろ本気で取り組みませんか? その部分が抜けてしまうから、マチマチなものができてしまうのですよ。誰もが、同じ業務と解釈できるからこそ、どこを改革するのか決められるのです。業務ヒアリングについても同様、どこまで聞くかは、どこまで落とし込むかが決まってなければ決まりません。基準、決めましょう。

業務ヒアリングをやってる範囲、まさか、庁内どまりじゃ…。DXではサービスデザインも取り込むんですよね。住民側を基点とした、リサーチ・ヒアリングはすっぽかしてもいいんですか? よく聞くのですよね、「住民が、どこを課題と思っているのかわからない」という言葉を。ちゃんと聞けばいいのでは? なんですよ。

・各課へ課題を聞くとき、まさか現在の課題だけじゃありませんよね? 現在の課題を聞けば目先の課題が集まるに決まっていますよ。ましてや、現場は、RPAやAI-OCR、電子申請なるものがあることは知っているものの、それ以外のことは知らないことが多いのですから、知っている範囲内で解決できることを書いてしまうのです。だから、業務改革=作り替えることを先に説明するのが必要なのです。私は、アドバイスしている自治体には、「5年後にヤバイと思う状況を各課に書かせて、それに対してどうしたいかもセットで書かせてください」とお話ししています。そうしないと今からDXを進めて、それが終わりそうなときに、「あれ? また新しい課題が…」になってしまうからです。将来どうなっちゃうかを考えさせましょう。

 

アンケート

この記事をシェアする

  • Facebook
  • LINE

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツ満載!

地方自治、行政、教育など、
分野ごとに厳選情報を配信。

無料のメルマガ会員募集中

市川 博之

市川 博之

シビックテックラボ 代表理事、市川電産CEO、東京造形大学特任教授。

エンジニア・コンサルティングファームを経て、現職では自治体・企業・地域問わずICT全般の「デザイン×デジタル」を組み合わせ、コンサルティングから開発実装までを支援している。デジタル庁オープンデータ伝道師や総務省地域情報化アドバイザーも兼務しつつ、地域におけるシビックテック活動にも力を入れている。
「総務省データアカデミー」(データ利活用研修)や「自治体変革PJ-DX」(DXプロジェクトリーダー育成とマインドチェンジ促進の研修)など、自治体向けには伴走型の実践研修を提供し、全国で150以上の自治体で研修講師を務めるとともに、自治体DX推進計画のアドバイザーや、行政DXのコンサルティング支援を実施。主な著書は『データ活用で地域のミライを変える!課題解決の7Step』(小社刊)。

閉じる