条例化の関門 その5 法律と条例との関係②

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2023.05.24

★本記事のポイント★
1 ワクチン接種促進政策のうち、ワクチン接種証明書を提示しなければ飲食店、劇場等のような多数の人が利用する施設に入場できないという政策の条例化については、ワクチン接種を間接的に強制するという側面があり、この問題をクリアする方法を考える必要がある。 2 ワクチン接種証明書の代わりに、PCR検査等の陰性証明書の提示も認める方法を採れば、ワクチン接種促進という当初の政策目的からは後退するが、ワクチン接種の任意性の問題は、クリアしやすくなる。 3 多数の人が利用する施設において感染拡大を防ぐという目的を前面に出し、ワクチン接種の促進を付随的効果と考えるなら、ワクチン接種の任意性の問題をクリアしやすいのではないか。

 

1.ワクチン接種促進政策 関門3 (解決策の模索)

 前回、ワクチン接種促進政策のうち、ワクチン接種証明書を提示しなければ飲食店、劇場等のような多数の人が利用する施設に入場できないという政策の条例化について、予防接種法との関係を考察し、問題の条例は、ワクチン接種を間接的に強制するという側面もあり、ワクチン接種促進のための政策として考えるなら、問題があるかもしれないとしました。
 そこで、この問題をクリアする方法として、次の2つを考えました。

⑴ PCR検査等の陰性証明書の提示も認める方法
 まず、ワクチン接種証明書の代わりに、PCR検査等の陰性証明書の提示も認める方法が考えられます。この方法を採れば、ワクチン接種促進という当初の政策目的からは後退しますが、ワクチン接種の任意性の問題は、クリアしやすくなるでしょう。ただ、このような施設を利用するたびにPCR検査等を受けることの煩わしさを考えれば、ワクチン接種を間接的に強制するという問題が完全に払拭できるかは疑問の余地があるでしょう。

⑵ 多数の人が利用する施設における感染拡大の防止を目的とする方法
 次に、問題の政策は、感染者が多数の人が利用する施設に入場する可能性を減らし、このような施設において感染拡大を防ぐ効果もあります。そこで、多数の人が利用する施設において感染拡大を防ぐという目的を前面に出し、ワクチン接種の促進を付随的効果と考えるなら、ワクチン接種の任意性の問題をクリアしやすいのではないかと考えます。
ア 条例で定めることができるか
 このような目的の政策とするなら、第3回における検討のように、条例で定めることができるかを検討する必要があります。
 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(感染症法)による感染対策や新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)による自治体が処理する事務は、第一号法定受託事務とされていて、地域における事務です(地方自治法別表第一)。また、感染状況は地域により異なり、感染対策について地方公共団体の判断に委ねることが妥当であるとも考えられます。
 したがって、問題の政策は、条例で定めることができる事務と考えられます。実際、多くの自治体で、感染対策に関する条例が制定されています。
イ 目的の比較
 このような目的の政策が条例で定めることができるとするなら、感染症法や特措法との関係が問題となります。
 感染症法の目的規定は、「この法律は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関し必要な措置を定めることにより、感染症の発生を予防し、及びそのまん延の防止を図り、もって公衆衛生の向上及び増進を図ることを目的とする」となっています(第1条)。また、特措法の目的規定は、「この法律は、・・・新型インフルエンザ等の発生時において国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的とする」となっています(第1条)。問題の政策も、感染者が多数の人が利用する施設に入場する可能性を減らし、このような施設において感染拡大を防ごうとするもので、その目的は、感染症法や特措法の目的と同様のものと考えられます。
ウ 感染症法・特措法は地域の実情に応じた規制を認めているか
 問題の政策が感染症法や特措法の目的と同様のものとするなら、感染症法や特措法は地域の実情に応じた規制を認めているかを検討しなければなりません。
 この点については、感染症法が多くの感染症対策を都道府県知事の権限としていること、特措法が感染を防止するための協力要請等を都道府県知事の権限としていること、地方公共団体がその地域の実情に応じて住民の健康を保持しようとすることはその本来的な事務に属することなどから考えると、これらの法律が、地方公共団体が地域の感染状況によって、条例により独自の規制をすることを排斥する趣旨までを含んでいるとは言い切れないと考えます。 条例で独自の規制を行うことを許容する地域の実情としては、感染状況が酷いということのほか、多数の人が利用する施設が多数存在することなどが考えられます。
エ 規制の強度は適切であるか
 条例で感染対策が規定できるとしても、問題の政策のように区域や時期を限定することなく義務化することができるかについてはさらに検討を要すると考えます。
 特措法第31条の6第1項は、都道府県知事は、新型インフルエンザ等まん延防止等重点措置を実施する期間において、事業者に重点区域における新型インフルエンザ等のまん延を防止するために必要な措置を講ずるよう要請することができるとしています。また、特措法第45条第2項は、特定都道府県知事は、新型インフルエンザ等緊急事態において、施設管理者等に感染の防止のために必要な措置を講ずるよう要請することができるとしています。
 これらの規定とのバランスを考えるなら、感染状況が酷い区域や時期を限定して条例で独自の規制を行うべきでしょう。また、施設管理者に、直接的に義務を課すのでなく、ワクチン接種証明書を提示しない者を施設に入場させないように要請を行うことにとどめるべきとも考えられます。さらに、施設管理者等に要請される感染の防止のために必要な措置を定める特措法施行令第12条には、ワクチン接種証明書を提示しない者を施設に入場させないことが規定されていないことにも留意する必要があります。

⑶ 合わせ技
 ⑴や⑵の方法を合体して、多数の人が利用する施設において感染拡大を防ぐという目的で、これらの施設の管理者にワクチン接種証明書又はPCR検査等の陰性証明書を提示しない者を施設に入場させないように要請するという政策を考えました。当初のワクチン接種促進のための政策からは軌道修正しましたが、ワクチン接種の任意性の問題をクリアしやすくなるのではないかと考えます。
 なお、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(令和3年 11 月 19 日(令和4年 11 月 25 日変更)新型コロナウイルス感染症対策本部決定)においては、「政府は、都道府県と連携しながら、令和4年3月 11 日のコロナ分科会の中間とりまとめ「地方公共団体や民間事業者等によるワクチン接種歴や検査結果確認の取組の考え方について」を踏まえ、飲食、イベント、旅行等の活動に際してワクチン接種歴や陰性の検査結果を確認する地方公共団体や民間事業者等による取組を推奨する」とされています

 以上のような検討を経て条例の適法性を判断すべきですが、特に、規制の強度が適切であるかについては判断が難しいこともあり、さらに検討する必要があると考えます。

 

1 同方針三⑷⑨参照。

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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