政策形成力の磨き方
政策形成力の磨き方 - その1 問題発見力
キャリア
2023.12.19
★本記事のポイント★
1 本稿では、政策形成力を構成する問題発見力、直観力、調査力、分析力、発想力、予測力、デザイン力、検証力、説得力、法的思考力、起案力などについて考察する。 2 問題発見力は、社会的正義・公共性といった高次の目標から、現状を改善しようとする問題意識と、社会の現実・社会状況に通じていることから構成される。 3 単に報道される事実を知るだけでなく、その事実に纏わる原因・結果や目的・手段の因果関係の流れを考えることが重要。この積み重ねが社会の現実・社会状況に通じていることになるのではないか。
1.政策形成力の内容
ぎょうせいオンラインで連載しました「政策形成の職人芸」・「条例化の関門」では、政策形成に必要なスキルや政策を条例にする際の検討事項等について考察しました。政策形成から条例立案の一連の手順に即したスキルを習得し、政策形成力と条例立案力が相俟った広い意味の政策形成力の向上に資することができたなら幸いです。本稿では、そのまとめも兼ねて、政策形成力の磨き方について考察したいと思います。
政策形成には、政策や法令に関する知識とともに、理論と経験に裏打ちされた観察力、分析力、思考力などが必要です。政策形成力は、これらの能力を活用して、政策形成を行う総合的な能力だと思います。総合的な能力なので、分析になじまないところもありますが、以下では、筆者が政策形成力を構成すると考える問題発見力、直観力、調査力、分析力、発想力、予測力、デザイン力、検証力、説得力、法的思考力、起案力などについて、事例を交えながら考察したいと思います1。
2.問題発見力
「政策形成の職人芸」の第2回で、問題の設定のスタートとなる問題の発見には、社会の現実・社会状況に通じていることと、社会的正義・公共性といった高次の目標から、現状を改善しようとする問題意識を持ち続けることが必要だとしました。
公共政策学の書物の中にも、「現実のなかに、ある価値基準に反する部分があるからこそ、われわれはそれを「問題」として認識することができる」として、規範の有する「問題発見力」の重要性を論じるものがあります2。
そこで、「政策形成の職人芸」の第2回では、法令の目的規定、理念規定などから公共政策の理念を探っていくなら、社会的正義・公共性の内容の理解が進むのではないかとして、価値基準あるいは規範の内容を考えるヒントに関する私見を述べました。
もっとも、四六時中、問題意識をもって公共的な課題を考えることや、すべての分野の公共的な課題を考えることは、難しいでしょう。自らの関心のある分野の公共的な課題について、報道等に接した際など折に触れて考えることが現実的です。
おそらく、皆さんは日々のお仕事の中で、公共的な関心を涵養されているでしょうから、これ以上は触れませんが、これらの論述から、公共的な関心が明確化・深化することを期待します。
3.社会の現実・社会状況に通じていること
次に、社会の現実・社会状況に通じていることについて考えてみます。
問題意識を持って報道等に接すれば、報道された事項についてさらにつっこんで調査し、考えてみようとするのではないでしょうか。これも社会の現実・社会状況すべてを知るということではなく、公共的な関心を持っている分野について、事実を知るだけでなく、その事実が生じた原因や望ましい状況を考えることではないかと思います。
4.事例で考えましょう
<事例>
最近、大雨特別警報が発令されたという報道にしばしば接することがあります。環境問題についての問題意識を持っているなら、どのような対応をすべきか検討しましょう。
<考察>
筆者が考える対応としては、このような場合、「大雨特別警報」の意味や、最近、大雨特別警報がしばしば発令されている原因などについて調べることになるでしょう。
気象庁が平成25年8月30日から運用している「特別警報」は、警報の発表基準をはるかに超える大雨や、大津波等が予想され、重大な災害の起こるおそれが著しく高まっている場合に発表し、最大級の警戒を呼びかけるもので、大雨特別警報は、台風や集中豪雨により数十年に一度の降雨量となる大雨が予想される場合に発令されることになっています3。
しかし、最近では大雨特別警報がしばしば発令されています。ある報道では、「熊本県南部を襲った記録的豪雨からわずか1週間の間に、気象庁が最大級の警戒を呼び掛ける「大雨特別警報」が3回発表された。「数十年に一度の大雨」に相当するレベルだが、運用開始から7年間で計16回出ている。今回はインド洋の海水温の高さに遠因があり、専門家は「地球温暖化が進み、これまでの防災の常識が通用しなくなりつつある」と警鐘を鳴らす」とされています4。
ここから発展して、地球温暖化の影響、対策などを調べます。このようなことは、インターネットによる検索をすればそれほどの労力もかからないと思います。
これまで、政策形成にとって原因・結果や目的・手段の因果関係の流れを把握することの重要性をしばしば取り上げましたが、単に報道される事実を知るだけでなく、その事実に纏わるこれらの因果関係の流れ(先ほどの例ですと、「地球温暖化 → 海水温の上昇 → 大気中の水蒸気量増加 → 大雨の可能性増大」)を考えることが重要だと思います。そして、このような積み重ねをすることで、社会の現実・社会状況に通じていることになるのではないでしょうか。
公共政策学の書物の中には、「「なぜ」と問い、原因を考えること」の重要性を論ずるものがありますが5、上記の論述と通じるところがあると思います。
また、日常から問題意識を持って報道等に接することは、政策形成に必要なマインドであるとともに、どのような現状があれば公共政策の問題となるか、ある政策を採ればどのような結果が生ずるかなどが理解でき政策形成に必要なスキルの向上にも役立つと考えます。
1 政策思考力に関する書物の中には、政策基礎力としての観察力、分析力、思考力などに関する詳細な論述がありますので、本稿の内容と関連付けて紹介したいと思います。宮脇淳・若生幸也『地域を創る!「政策思考力」入門編』(ぎょうせい、2016年)(以下「政策思考力入門」と略します。)89頁以下参照。 2 佐野亘『公共政策規範』(ミネルヴァ書房、2010年)12頁。 3 気象庁HP参照。 4 西日本新聞 2020年7月12日。 5 伊藤修一郎『政策リサーチ入門(増補版)』(東京大学出版会、2022年)15頁以下参照。
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