政策形成力の磨き方 - その3 調査力

キャリア

2024.02.12

★本記事のポイント★
1 原因 → 改善すべき現状 → (解決策) → 望ましい状況 の流れを頭に入れつつ、役立つ資料を探索し調査することが重要。 2 調査は広範囲に行う必要があるが、信頼性の低い資料、偏りのある意見などがあり、それらを見分けることも重要。 3 「エピソード・ベース」と「エビデンス・ベース」の違いを意識して、ゴミ集積場の不法投棄を減少させる政策に関する調査のあり方を考察する。

 

1.何を調査するか

 問題が発見されれば、その問題に関する現状や原因などの調査をすることになります。発見された問題について、どのような原因があり、改善すべき現状があるのか、その現状を改善して望ましい状況にするためには、どのような解決策があるかなどを調査するというものです。その際、次の図のような流れを頭に入れつつ、役立つ資料を探索し調査することが重要だと思います。

2.見分ける

 「政策形成の職人芸」の第3回で、「文献による調査に関しては、各省庁の白書・統計、国・自治体の審議会の答申・議論・配布資料など信頼できる資料を利用することを心掛けなければなりません。また、意見の聴取を行う場合には、公共政策に関するものですから、利害・価値判断が含まれるのはやむを得ませんが、できる限り、いろいろな立場の意見を聴き、実態を客観的に把握する必要があります」と述べました。
 調査は広範囲に行う必要がありますが、信頼性の低い資料、偏りのある意見などがあり、それらを見分けることも重要です。特に、人は、その立場によって、物事の見方、評価が異なることがありますので、注意が必要です。

 

3.観察力

 ところで、『政策思考力入門』には、「観察とは、物事を注意深く知覚することであり、具体的出来事、データ、様々な情報等を注意深く知覚して、日常的・継続的に自らの国、地域や組織などを眺め、その変化と特性を掘り起こすこと」としつつ、観察に最も重要な点は、客観性の確保であり、観察した内容について必ず他の対象と比較することが必要であるとする論述があります
 前述のように、いろいろな立場の意見を聴き、実態を客観的に把握する必要があるとするのも、ある立場の意見を他の立場の意見と比較して客観性を確保するためです。
 ところで、観察した内容について必ず他の対象と比較することが必要ということからも、「政策形成の職人芸」の第4回でEBPMに関連して紹介した「エピソード・ベース」と「エビデンス・ベース」の違いを意識することは重要だと思います。
 「エピソード・ベース」とは、たまたま見聞した事例や限られた経験(エピソード)のみに基づき、政策を立案することをいい、「エビデンス・ベース」とは、変化が生じた要因についての事実関係をデータで収集し、どのような要因がその変化をもたらしたかをよく考え、データで検証して政策を立案することをいいます。

 

4.事例で考えましょう

 <事例>
 統計改革推進会議の中間報告(平成29年4月)の参考資料の中で、「エピソード・ベース」と「エビデンス・ベース」の違いを説明する例としてゴミ集積場の不法投棄を減少させる政策があげられています。
 「エピソード・ベース」による政策形成は、隣町ではセンサーライトが設置されている集積場では不法投棄が少ないことが分かり、集積場にセンサーライトを設置する政策を採るというものです。これに対して、「エビデンス・ベース」による政策形成では、センサーライトを設置した地区では、以前から自治会の啓蒙活動が活発化しており、それに合わせて不法投棄が減少していたことが判明し、不法投棄が減少した原因についてさらに検討するというものです。
 この事例の場合、どのような調査を行うべきか検討しましょう。

 <考察>
 参考となる事例として、「葉山町きれいな資源ステーション協働プロジェクト」があります。
 神奈川県の葉山町では、資源ステーション(資源集積所)に取り残されるごみを無くすために、モニタリング調査による現状把握、対策の検討、対策の効果検証、政策の決定というプロセスを踏みました。対策の効果検証にあたっては、モニタリング対象の資源ステーションを無作為に3つに区分して、①間違いやすいごみを記載したチラシのポスティング、②収集終了の看板の設置、③対策なしという対策を実施して、その効果を検証するというランダム化比較試験RCTを行いました。その結果、効果のあった収集の終了を知らせる看板を町内の全ステーションに設置しました
 この葉山町の事例を参考にするなら、モニタリング対象の集積場を無作為に3つに区分して、①センサーライトの設置、②自治会の啓蒙活動の実施、③対策なしという対策を実施して、その効果を検証するRCTを行うことが考えられます。しかし、RCTは、費用がかかるなどの理由で、実施するのが難しいという指摘もされています。
 そこで、RCTに代えて、不法投棄が減少した隣町の事情について、センサーライトを設置した前後と自治会の啓蒙活動が活発化した前後での不法投棄の状況を調査することが考えられます。

 

5.因果推論

 経済学では、「因果推論」という研究が盛んに行われているようです。
 2つの事柄のうち、どちらかが原因で、どちらかが結果である状態を因果関係があるとし、2つの事柄に関係があるものの、その2つは原因と結果の関係にないもののことを相関関係があるとしています。 
 そして、因果関係なのか相関関係なのかを正しく見分けるための方法論を「因果推論」と呼ぶそうです。日常生活の中でも、因果関係と相関関係の違いを理解し、「本当に因果関係があるか」を考えるトレーニングをしておけば、思い込みや根拠のない通説にとらわれることなく、正しい判断ができるだろうとされています
 先ほどの事例ですと、「エピソード・ベース」による政策形成では、センサーライトの設置と不法投棄の減少の間に因果関係があると捉えているようですが、「エビデンス・ベース」による政策形成では、自治会の啓蒙活動が不法投棄の減少につながった可能性も考慮に入れて因果関係の有無について考えるというものです。
 これまで、いろいろな場面で、原因と結果、目的と手段の因果関係の流れを把握することの重要性を述べましたので、因果推論の重要性はよく理解できます。皆さんにも、因果推論の書物に接することをお薦めしたいと思います。

 

1 同書94頁以下参照。 2 葉山町HP参照。 3 中室牧子・津川友介『「原因と結果」の経済学』(ダイアモンド社、2017年) 2頁、10頁以下参照。なお、近藤清太郎「「真価志向」の政策形成」大竹文雄他編『EBPMエビデンスに基づく政策形成の導入と実践』(日本経済新聞出版、2022年)39頁以下参照。因果関係判断の視点については、『政策思考力入門』123頁以下参照。

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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