政策トレンドをよむ 第10回 「共働き・共育て」のできる組織が生き残る ― 経済産業省「なでしこ銘柄」事業のねらい
地方自治
2024.02.08
目次
※2023年12月時点の内容です。
政策トレンドをよむ 第10回 「共働き・共育て」のできる組織が生き残る ― 経済産業省「なでしこ銘柄」事業のねらい
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部
池田 宇太子
(『月刊 地方財務』2024年1月号)
前回の本記事では、我が国の経済分野におけるジェンダー・ギャップがとりわけ大きいことに触れた。日本社会においては、家事・育児などの無償労働の負担が女性に大きく偏っていることがかねてより指摘されている。(1)
〔注〕
(1)「6歳未満の子供を持つ妻・夫の家事関連時間」(2021年)は、共働き世帯で妻391時間に対し夫114時間、専業主婦世帯で妻567時間に対し夫108時間。(内閣府「男女共同参画白書令和5年版」)
近年の若い世代の意識をみると、女性の就業継続に関する意識はこの20年で大きく変わってきたことがわかる(図表)。「(女性は)子供ができても、ずっと職業を続ける方がよい」に賛成する20代の回答は男女とも増加傾向にあり、今後、子育てをしながら夫婦ともに働き続けるモデルを前提とした制度設計や支援策が不可欠といえる。
2021年の改正育児・介護休業法では、「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度が新設された。また、2023年6月公表の「こども未来戦略方針」では「共働き・共育ての推進」として、男性育休の取得促進、多様な働き方と子育ての両立支援といった取組の推進が掲げられている。しかし、2022年の男性の育児休業取得率は民間企業で約17%と低く、「共働き・共育て」の実現には未だ長い道のりがあると推察される。
さて、こうした背景を踏まえて、本稿では経済産業省の新たな取組を紹介したい。同省が実施している「なでしこ銘柄」事業を当法人では2019年度より支援しているが、今年度より、企業価値向上につながる女性活躍のためには、「採用から登用までの一貫したキャリア形成支援」と「共働き・共育てを可能にする男女問わない両立支援」を両輪で進めることが不可欠であるとし、「Nextなでしこ共働き・共育て支援企業」の選定を開始した(発表は2024年3月予定)。
なぜ「共働き・共育て」というテーマに経済産業省が取り組むのか、疑問に思う読者もいるかもしれない。ここで経済産業省の説明を引用しておこう。(2)
〔注〕
(2)経済産業省「令和5年度「なでしこ銘柄」募集要領」
「共働き・共育て」の選択がしやすい企業は、「共働き・共育て」という選択に限らず、自分が望む働き方を選択できる、働きやすい企業でもあります。共働き・共育てに特化した支援のみならず、全ての従業員が働きやすい環境づくりや、全ての従業員が自律的にキャリアを形成しやすい環境づくりもあわせて行っていることを評価対象とします。
ここでは「両立支援」の対象が「男女問わない」ものであることが明示されており、従来型の「女性のみが仕事と家庭を両立できるようにする」ための両立支援制度の拡充とは一線を画す考え方となっている。これは、「個々の従業員のキャリア形成支援と両立支援に対して、その性別によらず提供しうる組織が強くなる」とも換言でき、昨今の「人的資本経営」を促進する流れとも軌を一にするものである。
それでは、具体的に「共働き・共育て」に関する評価項目をみてみよう。数値としては労働時間や平均勤続年数の男女差異、育休取得率・取得日数等がある。これらは概して、「共働き・共育て」に係る取組の「結果」として捉えられるものであり、定点観測して自組織の状況を把握すること自体が極めて重要な取組といえる。
取組については選択式であり、例えば「全ての従業員が働きやすい制度の導入」として、「時差勤務制度」「時間単位で有給を取得出来る制度」「勤務間インターバル制度」「テレワークの環境整備のための設備提供・経済的補助」といった多様で柔軟な働き方に関する選択肢が多く挙げられており、自組織で今後取り入れるべき制度の参考として活用できる。また、「共働き・共育て」の施策によって目指す「全ての従業員の働きやすさの実現」を経営課題として捉え推進しているかを評価項目としている点も、単に両立支援策の数を増やせばよいだけではない、というメッセージと読み取れる。
本事業は上場企業を対象とした取組ではあるが、組織の規模等によらず、「全ての従業員の働きやすさ」を実現ができる組織が「働く側から選ばれる」構造は変わらないだろう。民間企業のみならず、公的組織も含め地域社会全体で「共働き・共育て」を可能とする働き方に取り組むことが、ひいては持続可能な地域づくりにもつながっていくと考えられる。
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