最新法律ウオッチング
最新法律ウオッチング―性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律(2023年6月23日施行)
自治体法務
2024.02.07
※2023年12月時点の内容です。
最新法律ウオッチング 第127回 LGBT理解増進法
(『月刊 地方財務』2024年1月号)
2023年の通常国会において、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」(LGBT理解増進法)が成立した。
性的指向やジェンダーアイデンティティの多様性について、国民の理解が進んでいるとはいえないのが現状であり、全ての国民が、性的指向やジェンダーアイデンティティの多様な在り方を互いに自然に受け入れられるような共生社会、すなわち、LGBTといった性的マイノリティーはもちろんのこと、マジョリティーの人も含めた全ての人が互いの人権や尊厳を大切にし、生き生きとした人生を享受できるような社会の実現を目指して、多様性に関する理解の増進を目的とした諸施策を講ずることが必要との指摘がある。
このような状況を踏まえ、衆議院の議員立法として、そのための法案が国会に提出された。衆議院には、3案が提出されたところ、「性同一性」の文言を用いる案について、この文言を「ジェンダーアイデンティティ」に改める等の修正が行われ、この法案が成立した。
LGBT理解増進法
●目的
性的指向(恋愛感情や性的感情の対象となる性別についての指向)やジェンダーアイデンティティ(自己の属する性別についての認識に関するその同一性の有無や程度に係る意識)の多様性を受け入れる精神をかん養し、これらの多様性に寛容な社会の実現に資することを目的とした。
●基本理念
性的指向やジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策は、全ての国民が、その性的指向やジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向やジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならないとの認識の下に、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを旨として行われなければならないこととした。
●国・地方公共団体の役割等
国は、基本理念にのっとり、理解の増進に関する施策を策定し、実施するよう、地方公共団体は、基本理念にのっとり、国との連携を図りつつ、その地域の実情を踏まえ、理解の増進に関する施策を策定し、実施するよう努めるものとした。
また、事業主による労働者の理解の増進や学校の設置者による児童等の理解の増進の努力についても定めた。
●実施状況の公表・基本計画
政府は、毎年1回、理解の増進に関する施策の実施の状況を公表しなければならないこととした。
また、政府は、理解の増進に関する基本計画を策定しなければならないこととした。
●学術研究、知識の普及等
国は、理解の増進に関する施策の策定に必要な研究を推進するものとした。
また、国・地方公共団体による知識の着実な普及等についても定めた。
●連絡会議
政府は、関係行政機関の職員で構成する性的指向・ジェンダーアイデンティティ理解増進連絡会議を設け、施策の推進を図るための連絡調整を行うものとした。
●措置の実施等に当たっての留意
措置の実施等に当たっては、性的指向やジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとし、政府は、その運用に必要な指針を策定するものとした。
●施行期日
この法律は、公布の日(2023年6月23日)から施行された。
国会論議等
国会では、女性トイレ等の女性用の施設の在り方を変えることにならないかについて質問があり、法案提出者から、憲法14条で差別が禁止されている一方で、合理的な区別として、戸籍上の性別ないしは身体的な特徴によって判断される男女の性別に基づき施設が区分されてきたところ、この法律は理念法であり、男女という性別に基づく施設の利用の在り方を変えようというものではないとの説明がされた。
また、「ジェンダーアイデンティティ」の文言を用いることについて質問があり、法案提出者から、「性自認」や「性同一性」と意味は同じであり、文言について争点化させ混乱を生じさせないようにしたとの説明がされた。
法案に反対する立場からは、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう留意する旨の規定を設けたことについて、多数派への配慮を要するとされるのであれば、かえって少数派への差別を増進することになるとの指摘がされた。