愛媛県:デジタル総合戦略とデジタルマーケティングの活用(特集:本格化する自治体DX ~計画フェーズから実行フェーズへ~)

地方自治

2022.01.13

この資料は、地方公共団体情報システム機構発行「月刊 J-LIS」2022年1月号に掲載された記事を使用しております。
なお、使用に当たっては、地方公共団体情報システム機構の承諾のもと使用しております。

愛媛県:デジタル総合戦略とデジタルマーケティングの活用
(特集:本格化する自治体DX ~計画フェーズから実行フェーズへ~)

愛媛県企画振興部デジタル戦略局デジタルシフト推進課 デジタル推進グループ担当係長
重松 朋孝

月刊「J-LIS」2022年1月号

1 愛媛県におけるデジタル化の取り組み

 愛媛県では、2021年3月に、本県のデジタル変革の指針となる「愛媛県デジタル総合戦略」を策定し、「デジタルでつなぎ切り拓く、活力と安心感あふれる愛顔のえひめ」を基本理念としてデジタル変革(DX)にチャレンジしています。

 この戦略の特徴として、
① 県政全般にわたる総合的なDX を推進するための戦略であること
②「 市町との協働」を戦略の基本方針に掲げていること 
③「 官民共創」で DX を推進する具体的な仕掛けを導入していること

の3点が挙げられ、この仕掛けとして、官民共創デジタルプラットフォーム「エールラボえひめ」1)を構築し、本県のDX 推進基盤として2021年4月から運用を開始しています。

1)https://yell-lab.ehime.jp/

 デジタル化の取り組みは、新型コロナウイルス感染症の拡大もあり、「DX」という言葉とともに全国に一気に広がりましたが、本県ではそれ以前からマーケティング分野での取り組みに着手しており、その積み重ねがこの戦略の策定や、現在の取り組みにつながっています。

2 デジタルマーケティングの始まり

 愛媛県でのデジタル化に向けた取り組みの本格的なスタートは2018年度に遡ります。全国に先駆けてデジタルマーケティングの専担部署として「プロモーション戦略室」を設置し、まず、プロモーションのデジタル化に取り組むこととなりました。

 もとよりこの分野での知見を有する職員はおらず、他の自治体にも先行事例はほとんどなかったため、まさに暗中模索の日々であり、導入に向けて職員の理解を広げていくためには、基本的な知識や手順等を理解し共有するとともに、デジタルマーケティング手法を活用した具体的な事例を手掛け、庁内に周知していく必要がありました。

 このため、初年度は、専門的な知見を有する人材をデジタルマーケティングアドバイザーとして登用するとともに、デジタルプロモーションの統一的なルールや具体的な手順等を整理した「愛媛県デジタルマーケティング基本戦略」を策定し、セミナー等を通じてその理解促進に努めました。

3 モデル事業の実施

 さらに、行政に馴染みのないデジタルマーケティングの活用事例を示し、導入を促進するため、インバウンド誘客促進、サイクリスト誘致促進、県産品販売促進の3分野でモデル事業に順次着手するとともに、セミナーや導入にあたっての相談対応等を通じた横展開を図り、データやデジタル技術を活用したプロモーション手法の高度化と施策効果の最大化等を目指して取り組みを進めました(図-1)。

図-1 デジタルマーケティングの推進

2) データマネジメントプラットフォーム(DMP)とは、外部や自社にある情報データを一元管理・分析し、マーケティング活動を最適化するための基盤のことをいいます。

(1)インバウンド誘客促進事業
 デジタルマーケティング活用モデルの第一弾として、2018 年度からインバウンド誘客施策に着手しました。

 まず、海外での本県の「認知」を高めるための動画広告配信を実施し、「サイクリング」「お遍路」などが有効な地域資源であるとの結果が得られたことから、2019年度は、その次のステップとなる本県への「来訪意欲」へ深化させる取り組みに移行し、ターゲットとする欧米やアジア等の7か国・地域で、初年度の2倍以上となる4,000万回超の動画視聴を得ることができました。また、海外向けの観光ウェブサイト「Visit Ehime Japan」3)閲覧データの分析により、約120万人の方々が愛媛を認知するとともに、ウェブ滞在時間も前年度より長くなり、観光情報やホテル等の検索が増加するなど、来訪意欲の醸成につながりました。

3)https://www.visitehimejapan.com/en/

 2020 年度は、新型コロナウイルス感染症の収束時期が見通せなかったことから、それまで2年間の取り組みにより拡大してきた本県に対する認知を維持するため、感染収束後の来訪を促すメッセージを添えた上で、当時としては、感染の収束が比較的早期に期待できる国に対して広告配信を行ったほか、関係部署と連携し、ウェブサイトのコンテンツ充実等により、コロナ禍でも楽しめる本県への旅行意欲の醸成に努めました。加えて、ウェブ広告による認知を起点として宿泊予約という旅行に至る行動までをオンライン上でつなぎ、効果を計測できる事業スキームを構築したところです。

(2)サイクリスト誘致促進事業
 また、本県ではサイクリングを切り口とした地域活性化に精力的に取り組んでおり、デジタルマーケティングを効果的に活用してサイクリストの誘致を促進するため、2019年度から、新たにサイクリングポータルサイト「CYCLINGEHIME」4)を構築し、ポータルサイトのキービジュアル(HPトップの一番目立つ画像)に、サイクリストの聖地として世界的な注目を集めている「瀬戸内しまなみ海道」を配置し、その魅力をフルに活用したほか、サイクリストの走行スキルやレベルに応じたモデルルートの紹介や関連記事の掲載等を行うことで、県内全域でのサイクリングや、四国一周サイクリング等について紹介する分野別サイトへの誘導強化も図りました。

4)https://cycling-ehime.com/

 このような取り組みとともに配信した動画広告については、日本を含む8か国・地域で1,400万回を超える視聴を得たほか、約58万人のウェブ閲覧データから、国(地域)別のサイクリング嗜好・特性の把握につながりました。

 なお、当事業においても、インバウンド誘客促進事業と同様の事業スキームを構築し、オンライン上で効果を計測しています。

(3)県産品販売促進事業
 県産品の販売促進にもデジタルマーケティングを導入し、実需創出に取り組みました。初年度となる2019年度は、県産品の魅力を伝えるプロモーション動画を制作・配信し、県産品の魅力を発信するポータルサイト「愛媛百貨選」5)への誘導を通じた愛媛ブランドの認知拡大に努めるとともに、楽天グループ株式会社と協働展開したECサイト「愛媛百貨店」6)でのキャンペーンを実施し、目標額3億円に対し約4億円の売上げを獲得できました。

5)https://ehime-hyakka.com/

6)https://event.rakuten.co.jp/area/ehime/product/

 また、取得データの分析により、県内事業者の新たな顧客獲得や全体の底上げにも寄与していることが確認できました。

 この取組結果を踏まえ、2020年度は、売上目標を前年度実績比1割増となる4.4億円とし、楽天の購買データ等を活用したターゲティング広告や、売れ筋である柑橘以外の商品の販促強化など戦略的な取り組みを進めた結果、コロナ禍による巣ごもり消費需要を的確に捉え、広告費は据え置いたままで、対前年度比約45%増の5.7億円超の売上げを得るとともに、柑橘以外のタオルや魚介などの商品についても大幅な売上げ増となるなど、デジタルマーケティングの活用が実需の創出につながっています。

4 データマネジメントプラットフォーム(DMP)の構築と活用

 プロモーションの高度化を一層推進していくために、自治体初の取り組みとして、2020年度に愛媛県独自のデータマネジメントプラットフォーム(DMP)の構築・活用に取り組みました(図-2)。

図-2 愛媛県版DMP概念図

 愛媛県版DMPには、ウェブサイト訪問やウェブ広告閲覧等から得られるデータが蓄積・整理されており、親和性の高い他事業のデータを活用することで、施策をまたいだデータの「水平展開」が可能となるほか、蓄積データの深堀りをする「垂直展開」により、事業ごとに狙うべき中心的なターゲット像を把握することが可能となります。

 まず、具体的な施策での実証運用に取り組んだところ、費用対効果が通常の広告配信と比べて約2倍に向上した実例も得られるなど、DMP活用の有効性が把握できたところです。今後は、活用事例を増やし、施策効果の更なる向上を目指したいと考えています。

5 デジタルマーケティングの広がり

 このように、2018年度以降、基本戦略を基に、3つのモデル事業を実施し、その成果を共有するとともに、愛媛県版DMPの運用を通じて、全庁にデジタルマーケティングの考え方を浸透させてきました。加えて、全庁的なリテラシーの向上も不可欠な要素であることから、理解促進や活用事例の共有を目的としたセミナーのほか、DMPの活用についてのワークショップを開催しており、2020年度は延べ1,600人を超える職員等が受講しています。このような取り組みを通じて、庁内での横展開が進展してきているところです。

 また、デジタルマーケティングを活用した結果の検証がリアルタイムに実施できるというデジタルならではの特徴は、ともすれば前例踏襲で事業を進めることも多い行政の仕事を大きく変革しているとも感じています。

 庁内での導入事例の増加に伴い、モデル事業等によりデジタルマーケティングを運用してきた当課の役割も大きく変化しており、3つのモデル事業は、構築した事業スキームとともにそれぞれの事業所管課に引き継ぎ、当課では、これまでに蓄積したノウハウを基に、専門事業者の知見を活用しつつ、プロモーション戦略の高度化を実現するための相談対応など総合的支援や愛媛県版DMPの運用に注力しています。

 なお、相談対応については、2019年度には37件であったものが、2021年度は100件を超える見込みとなるほか、愛媛県版DMPにデータ連携するサイト数も増加しており、このことは、もはやデジタルマーケティングが特別な手法ではなく、事業実施にあたって活用することが自然に想起される手段として、県庁内で認識されていることを示しているものと受け止めています。

6 今後に向けて

 デジタルマーケティングの専担部署として誕生した「プロモーション戦略室」は職員2名からのスタートでした。それが、今ではDX専担部署となり、2課1室からなるデジタル戦略局にまで拡充が図られました。

 その間も、デジタル技術は進化を続け、そのスピードに対応した取り組みが行政にも求められています。引き続き、各施策で得られるデータ等のDMPへの蓄積や組織横断的な活用に向け、的確な運用に一層努めるとともに、プロモーション戦略の高度化を全庁的に実現するため、事業所管課からの相談対応など総合的なサポートを継続して実施する必要があると考えています。

 今後も、「官民が幅広く連携しながら、失敗を恐れず、積極果敢に挑戦し、愛媛の未来を切り拓く新たな価値を創造する」という愛媛県デジタル総合戦略に掲げる基本姿勢の下、デジタル技術を手段として効果的、積極的に活用するとともに、県内市町はもとより、産学官の様々な主体の方々と幅広く連携、共創しながら、「チーム愛媛」「オール愛媛」でDXに取り組んでいきたいと考えています。

 

 

Profile
重松 朋孝 しげまつ・ともたか
 2003年愛媛県入庁。2021年4月より現職。グループ員5名とともに庁内のデジタルマーケティングの推進や官民共創デジタルプラットフォーム「エールラボえひめ」の運営を担当。

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月刊 J-LIS2022年1月号

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