政策形成の職人芸  その15 手段の具体化①

キャリア

2022.12.20

★本記事のポイント★
①政策の手段を決定するには、手段の基本的な型(手法)に関する知識と問題とされた分野における施策に関する知識を総合して考える必要がある。 ②政策の手法は、人の行動を変容させるための強制、誘導、自主性の助長などの手法と、社会保障給付、公共財の提供などの公共サービスの提供に区別できる。人の行動を変容させるための手法の長所、短所、有効な分野について理解を深める必要がある。 ③手段の決定のプロセスは、問題の解決のための手法を決めるところから始まり、その手法を執行する主体、基準などの細部を詰めていく。手法の決定は、手法の長所、短所、有効な分野等を考慮して、政策課題に適するものを決める。

 

1.手段の決定に必要な知識

 次に、政策の内容である手段について考察します。

 政策において、どのような手段を採るかということは、重要な要素ですが、種々の知識と応用力が必要です。また、手段についての知識は、解決の方向性のイメージを持つことや、そのイメージを形にすることに、最も役立つものだと考えています。

 政策法務や公共政策学の書物では、手段の基本的な型(便宜的に「手法」と呼びます。)に関する知識が解説されることが多いです。しかし、政策の手段を決定するには、それとともに問題とされた分野における施策に関する知識を総合して考える必要があります。

 本稿は、政策形成の一般的理論の解説ですので、各分野における施策に関する知識については、その分野の法制や白書、政策評価等にある施策を参照していただくことにして、手段を検討する際に必要となる、それぞれの場面に有効な手法についてお示ししたいと思います。

 

2.手法の類型

 手法に関しては、政策法務や公共政策学の書物の中で、著者によって分類の方法は異なるものの、解説がされており、皆さんもご存知だと思います。公式見解と言えるかは分かりませんが、環境基本計画の中に、環境政策の実施の手法として、次のようなものがあるとされていますが、政策一般の手法とも言えるでしょう。

手法 説明
直接規制的手法 法令によって社会全体として達成すべき一定の目標と遵守事項を示し、統制的手段を用いて達成しようとする手法
枠組規制的手法 目標を提示してその達成を義務づけ、又は一定の手順や手続を踏むことを義務づけることなどによって規制の目的を達成しようとする手法
経済的手法 市場メカニズムを前提とし、経済的インセンティブの付与を介して各主体の経済合理性に沿った行動を誘導することによって政策目的を達成しようとする手法
自主的取組手法 事業者などが自らの行動に一定の努力目標を設けて対策を実施するという取組によって政策目的を達成しようとする手法
情報的手法 環境保全活動に積極的な事業者や環境負荷の少ない製品などを、投資や購入等に際して選択できるように、事業活動や製品・サービスに関して、環境負荷などに関する情報の開示と提供を進める手法
手続的手法 各主体の意思決定過程に、環境配慮のための判断を行う手続と環境配慮に際しての判断基準を組み込んでいく手法
事業的手法 国、地方公共団体等が事業を進めることによって政策目的を実現していく手法

 なお、環境省のHP「環境政策の各手法の特徴と有効性」の中では、環境政策を直接規制的手法、枠組規制的手法、経済的手法、自主的取組に分類し、それぞれの特徴、長所、短所、有効な分野、課題について論じています。ここに記載されている長所、短所、有効な分野等については、環境政策だけでなく政策一般についても当てはまることが多いと思います。

 政策の手法は、ある程度種類が限定されており、概括的に区別するなら、人の行動を変容させるための強制、誘導、自主性の助長などの手法と、社会保障給付、公共財の提供などの公共サービスの提供です。このうち、前者は、人の行動を変容させるための手法であり政策形成の一般的理論で取り扱うべきものと考えられますが、後者は、政策形成の一般的理論で扱うよりも社会保障、公共財の提供といった個別の分野として論じた方が理解しやすいと考えます。皆さんは、環境省「環境政策の各手法の特徴と有効性」や学説により、人の行動を変容させるための強制、誘導、自主性の助長などの手法の長所、短所、有効な分野について理解を深めてください。

 人の行動を変容させるための手法については、強制の程度を考えると有効な分野も理解しやすいと思います。目的を迅速・確実に達成するためには、義務づけや禁止などのような強制の程度の強い手法を採るべきでしょうし、多様なニーズにきめ細かく対応するためには、補助金、情報などにより行動変容を誘導するような強制の程度の弱い手法を採るべきでしょう。それぞれ有効な場合がありますが、できる限り強制の程度の弱い手法で対処するのが望ましいと考えます。なぜなら、自由を尊重するということだけでなく、国民・住民の自主的な判断(自律)を前提に協力を求めることや、官民協働で目的を達成することは、民主主義社会にとって望ましいと考えるからです。

 また、実際の政策実務においても、第11回で紹介した「規制の政策評価の実施に関するガイドライン」が、規制を行う場合には、規制をしない場合や規制以外の手段と比較して妥当性を示すとして、規制手段を選択することには制限をかけています。

 解決の方向性のイメージとしては、行為の義務づけ・禁止などの目的達成のために直接的な効果があり強制の程度の高い手法が最初に思いつくことが多いでしょうが、政策形成のためには上記の考えを基本として持つ必要があると思います。

 

3.手段の具体化 - 手法の決定

 次に、手段はどのように具体化されるかについて考察します。

 手段の具体的内容は、個別具体的な政策ごとに決定されます。政策形成の一般的理論の役割は、手段の決定のプロセスと考慮事項を示すことでしょう。

 手段の決定のプロセスは、問題の解決のための手法を決めるところから始まり、その手法を執行する主体、基準などの細部を詰めていくことになるでしょう。ここでは、問題の解決のための手法の決定について考察します。

 簡単に手法の決定過程を示せば、次のようになるでしょう。

 これは、本稿の前半で示した政策形成のプロセスと同様ですので、そこでのスキルが役立つでしょう。そして、第13回で示した目的達成の時期と目的達成の程度や手法の長所、短所、有効な分野等を考慮して、政策課題に適する手法を決定することになります。その際、政策課題についてどの程度の強制力を持つ手法を用いるのが妥当かを考慮することが重要です。

 

1 「第5次環境基本計画」(平成30年4月17日閣議決定)13頁以下参照。

 

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(元)参議院常任委員会専門員・青山学院大学法務研究科客員教授 塩見 政幸

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