特集 “School Compass”を創る〜未来志向の学校経営〜 theme7 未来を創る スクールリーダーシップ

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2021.08.09

特集 “School Compass”を創る〜未来志向の学校経営〜 theme7
未来を創る
スクールリーダーシップ

横浜市立日枝小学校長
住田昌治

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.1 2021年4月

エージェンシーを身につける

 「これからは、予測不能な時代が到来し、エージェンシーが求められます。エージェンシーとは、『自ら考え、主体的に行動し、責任をもって社会変革を実現していく力』のことだと文部科学省は説明しています。これからの社会を生き抜いていくための中心的な概念として考えられています。学校現場で、このエージェンシーを子どもが身につけていくことが不可欠です」と、拙書『「任せる」マネジメント』(学陽書房2020)の冒頭に書いています。

 そして、その続きに、「子どもがエージェンシーを身につけるためには、まず、教職員がエージェンシーを身につけなければならない」と続けています。しかし、コロナ禍において、予測不能な時代を実感する中で、まずエージェンシーを身につけなければならないのはリーダーであり、学校では校長だということが明らかになりました。そして、そのことに気付いているリーダーと気付いていないリーダーとでは、学校運営に大きな隔たりが出てきているようです。

サーバントリーダーシップ

 サーバントリーダーシップという考え方があります。これまでのような「支配型」のリーダーから「支援型」のリーダーになることです。トップダウンからボトムアップに変えることで示されることもあります。しかし、サーバントリーダーシップの考え方は、立ち位置を変えるということです。今までピラミッドの頂点にいたリーダーが、逆ピラミッドを支える立場をとります。たくさんの情報を一方的に流すのではなく、逆にみんなの情報を引き出し、まとめて提案する形をとることです。「言うは易し、行うは難し」ですが、自分が持っている知識やアイデアより、さまざまな年代の教職員から出てくるアイデアの方が、量が多く質は高いのです。自分には気がつかないようなこともたくさんあるわけですから、学びも多いわけです。サーバントリーダーシップは、教職員も校長も共に成長することができるモデルになるのです。

 サーバントリーダーシップを表す最高の言葉があります。それを私は校長室に飾って毎日見ています。

 「やってみせ 言って聞かせてさせてみて 誉めてやらねば人は動かじ
  話し合い 耳を傾け承認し 任せてやらねば人は育たず
  やっている姿を感謝で見守って 信頼せねば 人は実らず」 山本五十六

 リーダーシップのキーワードが、ここにすべて述べられていると思います。一行目はよく見る言葉ですが、これでいい指導をしたと思っていないでしょうか。いつもやって見せて、やらせることで、評価するという関係ができてしまうだけです。ここで止めてしまったら、教職員としての自立はありません。一行目は成熟度の低い教職員に対するマネジメントです。教職員としての経験と成長による成熟度に合わせて「承認・任せる」「感謝・信頼」を心がけることが、自らの仕事への自覚を持ち、任された仕事に対して意思決定ができる力を育みます。こうなれば校長はいなくても学校は回るようになります。いちいち校長に判断や決定を委ねないので対応が早くなります。問題解決も早くなり、事態の悪化も防げるので多忙解消にもつながります。学校としてのビジョンが共有されていれば、大きな判断ミスも起こりません。自分で選んだり、決めたりできるようになった教職員は、働き方も主体的になり、外部とのコラボレーションも主体的に行うようになります。学校に多くのサポーターが訪れるようになるので、自ずと活性化します。来校者から本校が元気な学校だと言われるのは、それが理由なのです。私は、ただ感謝して見守るだけです。

 リーダーが凄すぎたり、リーダーが一人で頑張りすぎたりするために、付いていくだけで精一杯。何のためにやっているのか分からない、変だと思っても進言できない、そして、リーダーが去った後は持続不可能に陥っている学校があります。これからの学校は、リーダーがフォロワーを活かし、リーダーは、自分と自分の周囲の世界を俯瞰して観察するゆとりをもち、隠居のように学び、時に問いを発するようにするのがいいと思います。教職員がいくら学んでも、校長が学ばず変化に臆病であれば、教職員は、やる気を失い、疲弊します。また、強いリーダーシップを勘違いして、自分の考えを押しつけ、先頭に立って改革を推進し、何にでも口を出しているようでは、先生たちのエネルギーを削ぎ落とします。そんなことなら、何もしないほうがまだましです。

校長が学ぶこと

 教育改革が進められているこの時期に一番必要なこととは、校長がリーダーシップとマネジメントを学ぶことです。「働きやすい職場をどうやって創るか」「働きがいをどうやって育てるか」「自ら動く教職員をどうやって育てるか」「持続可能な学校をつくるためにどのような環境整備をするか」今こそ、持続可能な学校文化をつくるために、サーバントリーダーについて、全てのスタート地点で語られるべきでしょう。いくら大学で教員養成に力を入れても、初任者研修で缶詰にしても、管理職研修で重要なことが抜け落ちているので、古い学校文化を変えていくことができません。「校長が替われば、学校が変わる」この言葉が、悪い意味で使われないようにしなければなりません。校長のリーダーシップの在り方の極論を言うならば、「校長は存在感を消す、任せるリーダーシップ」だと思います。

 「未来を創るのはだれ?」と聞かれたらどう答えるでしょう。非常に大きなテーマで、一言では答えられないと思いますが、おそらくこれまでは大人が中心になって考えていたのだと思います。学校においては、子どもを教育する教職員だったでしょう。しかし、コロナ禍で子どもの限りない可能性や頑張りを見るにつけ、この社会をエンパワーしているのは子どもたちで、決して大人に教えられるだけの存在ではないことが明らかになりました。場合によっては大人以上のアイデアを持ち、行動力を発揮した子どもたちもいます。そう考えると、未来を創る変化の主役は「子ども」だと言えます。未来を創る子どもが、スクールリーダーシップを発揮できるようにすることが校長を中心とした教職員の重要な役割になっていくのだと思います。

 

 

Profile
住田 昌治 すみた・まさはる
 2010年〜2017年度横浜市立永田台小学校長、2018年度より現職。ユネスコスクールやESD・SDGsの他、学校組織マネジメントやサーバントリーダーシップ、働き方等の研修講師や講演、記事執筆等を行い、元気な学校づくりで注目されている。オンラインサロン「エンパワメント」講師、神奈川県ユネスコスクール協議会会長、横浜市ESD推進協議会委員、横浜市ミニバスケットボール連盟参与等を兼務。主な著書に『カラフルな学校づくり』(学文社)、『校長の覚悟』(教育開発研究所)、『「任せる」マネジメント』(学陽書房)など。

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