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「こころ」を詠む

髙柳 克弘

「こころ」を詠む ことごとく

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2021.01.27

「こころ」を詠む

『新教育ライブラリ Premier』Vol.4 2020年11月

ことごとく

 未踏なりけり

     冬の星
克弘

リモートで行われた俳句甲子園

 私が夏に楽しみにしているイベントに、二つの甲子園があります。一つはもちろん野球の甲子園、もう一つは俳句甲子園です。このイベント、全国の高校生がチームを組み、自作の句を出し合って優劣を競うというもので、地方予選を勝ち抜いたチームは、西宮ならぬ俳句のメッカ、松山に集まります。私は審査員として十年近くこのイベントにかかわり、俳句甲子園の閉幕とともに、「ああ、夏が終わったなあ」と感じるようになりました。

 野球の甲子園も中止になった今年、俳句甲子園も開催は困難だろうと思っていました。この大会、ディベートが行われるのです。自分たちの句の良さを語り、相手の句の弱さを突くディベートは、批評の言葉とともに飛沫も飛び交うわけで、檀上は新型コロナウイルスにとって都合の良い環境になってしまう可能性も。しかし、関係者の方々の工夫で、作品のみを対象にした審査を行い、リモートで表彰式を行うことになったのです。

 関係者の誰にとっても初めてであるリモート表彰式、なかなか面白いものでした。優勝校が発表されたあと、壇上に賞状と賞品を載せた台が運び込まれてきたので、どうやって東京の高校生に渡すんだろう、まさかサンダーバードの秘密基地よろしく、ここからロケットに載せて発射するのか……? などと注視していると、プレゼンターは賞状を持っておもむろにカメラに近づき、レンズの前で一礼、賞状を渡す仕草をします。なるほど、これなら中継を見ている受賞校のメンバーも、まるで自分たちに向かって賞状が差し出されたように思えるでしょう。俳句甲子園は、地元商店街の青年団が中心になって開催している、手作りの大会。彼らが、高校生に少しでも俳句甲子園の雰囲気を味わってほしいと苦心したことがひしひしと伝わります。

 大会に提出されたすべての句を対象に、審査員の総意で選ばれた最優秀賞は、次の一句。

 太陽に近き 嘴 蚯蚓(くちばし みみず)を垂れ
海城高等学校 田村龍太

 土をせせっていた鳥が、ぱっと飛び立つ。高く、太陽にまで舞い上がった鳥の嘴に、何か垂れさがるものが。それは太々とした「蚯蚓」(夏の季語)だったというのです。食い、食われる自然界の営みを生々しく描いたところが評価されました。うまいのは、「鳥」という言葉を、省略しているところ。手品でも消したコインがより気になってくるように、あえて伏せることで、その言葉の存在感が高まるということがあるのですね。

 ちなみに私の一押しだったのは、同じ海城高校の生徒の作品で、

 箸が冷奴通つて皿の音
海城高等学校 江島朋之

というもの。冷奴を食べるときの、箸が皿に触れるかすかな音が聞こえるくらいですから、いわゆる〝孤食〟の場面とわかります。この連載の第三回で書いたように、妻子が〝コロナ疎開〟をし、私自身も一人の食事が多かった時期なので、こういう句につい惹かれてしまったのかも。

学校にもいるジジとモモ

 一人で皿の音を聞く生活が続く中、児童文学を書く仕事があったので、古典の名作をあれこれ読み直していました。ミヒャエル・エンデの『モモ』も、その一冊。子供のころは不思議な力を持つモモに憧れたものですが、いま再読してみると、モモの友達のジジの方に肩入れしてしまいます。モモは浮き世離れしているというか、神さまから愛された子です。比べてみてジジは、想像力は豊かなのですが世俗的な成功を夢見るふつうの少年で、時間どろぼうの策略にみごとにはまり、作家としての名声は獲得するのですが、思いつく物語は生彩を失い、同じパターンの繰り返し。親近感が持てます。ひょっとしたら、エンデが自戒をこめて生み出したキャラクターなのかも? ジジとモモとは、子供の中に潜む二つの可能性の人格化なのではないでしょうか。

 俳句甲子園の選者をしたり、新聞で小学生の俳句の選評を書いたりしていると、日本の学校にもモモがたくさんいることがわかります。でも、圧倒的に多いのはジジです。「子供の感性はすばらしい」という声をよく耳にしますが、私は信じていません。子供はまずは大人の模倣をしますから、扇風機に向かって宇宙人の声を出すとか、虹の根っこを探したいとか、そういった世間にあふれる「子供らしさ」をなぞった句がほとんどです。でも、ちょっとしたきっかけで─まわりの大人が「子供らしさ」にとらわれなくてもいいよと言ってくれるだけで──ジジだった子供はたちまちモモに変身します。大人も思いつかないような発想の句を作ってくれます。

 俳句甲子園で子供たちの作品に出合うことは、私にとっても大きな刺激になっています。俳句に年齢は、関係なし! 私にとって、子供たちは生徒ではなく、ライバルなのです。

 

 

Profile
髙柳 克弘
俳人・読売新聞朝刊「KODOMO俳句」選者
1980年静岡県浜松市生まれ。早稲田大学教育学研究科博士前期課程修了。専門は芭蕉の発句表現。2002年、俳句結社「鷹」に入会、藤田湘子に師事。2004年、第19回俳句研究賞受賞。2008年、『凛然たる青春』(富士見書房)により第22回俳人協会評論新人賞受賞。2009年、第一句集『未踏』(ふらんす堂)により第1回田中裕明賞受賞。2016年、第二句集『寒林』(ふらんす堂)刊行。2017年度Eテレ「NHK俳句」選者。2018年、浜松市教育文化奨励賞「浜松市ゆかりの芸術家」を受賞。現在、「鷹」編集長。読売新聞朝刊「KODOMO 俳句」選者。全国高等学校俳句選手権大会(俳句甲子園)選者。早稲田大学講師。

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俳人・早稲田大学講師

1980年静岡県浜松市生まれ。早稲田大学教育学研究科博士前期課程修了。読売新聞朝刊「KODOMO俳句」選者。

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