教師のためのメンタルケア入門

奥田弘美

リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[第6回]ストレスに対抗するための心の基礎体力づくり1「食事」

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2020.05.14

新型コロナウイルス感染症対策に伴う急激な環境の変化や病気への不安により、いわゆる自宅でコロナ鬱(うつ)に悩む方が増えています。ご自身やご家族に問題がなくとも、一緒に働く方の心の健康は大丈夫でしょうか。ここでは、精神科医・産業医として活躍する奥田弘美先生が学校の管理職層向けにメンタルヘルスを親しみやすく解説した「リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門」(『学校教育・実践ライブラリ』連載)を12回にわたってご紹介いたします。(編集部)

リーダーから始めよう! 
元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[第6回]
ストレスに対抗するための心の基礎体力づくり1「食事」

精神科医(精神保健指定医)・産業医(労働衛生コンサルタント)
奥田弘美

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.6 2019年10月

食生活について

 同じストレスに対してもメンタルがダウンしてしまう人と、元気に乗り越えていける人が存在します。心がストレスに強いか弱いかについては、様々な要素が複雑に絡み合うために単純に論じることはできませんが、ストレスに対抗できる心の力をもっている人にはいくつかの共通点があることも確かです。そこで今回からは「心に、ストレスに対抗する体力をつける」というテーマでお話ししていきたいと思います。

 第1回目の今回は、食生活についてです。

「心と食生活? 関係あるの?」と感じる方も多いでしょうが、実は心と身体のエネルギーは大きく相関しています。心の働きの多くは脳が司っていますが、その脳が栄養としているのは、身体が栄養としているのと同じ「食事」です。そもそも脳自体が、筋肉、内臓、骨などといった体の組織の一部であるわけですから、当たり前といえば当たり前のことです。しかし不思議なことに、ほとんどの方が、心と身体を切り離して考える傾向があります。

 栄養不足となり疲労困憊している脳では、前向きな意欲や思考、イキイキした行動力が沸き上がるはずがないのです。このように考えていくと、ストレスに強い心の体力をつくろうと思えば、体の栄養を整えて体力をつけなければいけないことがわかると思います。

 まずは心と体の健康を維持するために重要な栄養の知識を、簡単に御紹介しますので、ぜひ頭に入れていただきたいと思います。

①タンパク質
 身体の根本的な栄養源となっているのは、タンパク質です。冷静な思考や判断力を作り出すセロトニン、意欲を作り出すドーパミンといった脳内物質の主原料も全てこのタンパク質が基本です。もちろん体の体力を維持し疲労を回復するためにも、筋肉や免疫物質、血液などの原材料であるタンパク質は欠かせません。

 基本的に成人男女が1日に必要なタンパク質は、50gとされています。ただし、これは肉50g、魚50gというようなことではなく、純粋なタンパク質だけにした正味量です。食品に換算すると、1日当たり手のひらに乗るぐらいのタンパク質食品3〜4個分は最低必要となります。手のひら1つ分に相当するタンパク質は、卵なら1個、赤身肉なら約80g前後、魚なら大き目の切り身1つ程度、納豆なら50gパック1個程度、豆腐なら半丁程度となります。働く世代には、肉、魚、卵といった動物性タンパク質が特に重要です。できるだけ多種類のタンパク質を組み合わせ、1日に手のひら3〜4個分はしっかりと食べましょう。

②糖質・炭水化物
 ブドウ糖は脳の唯一のエネルギー源です。そのためストレスがかかると脳が疲労感を覚え、ブドウ糖の即効的供給源となる炭水化物や糖質が欲しくなってきます。このことからも、ご飯やパン、麺などの炭水化物・糖質は過剰に控えることなくきちんと摂取して、脳にエネルギーを送ってあげることが大切です(低糖質ダイエットが流行していますが、朝食・昼食の糖質を控えすぎると思考力や意欲に悪影響があることも指摘されていますので、もし低糖質にするのであれば夕食のみにした方が安全です)。

 炭水化物・糖質の基本的な量は体格や運動量によって異なりますが、デスクワークなど軽労働の成人であれば、毎食ごはん軽く1膳(150g前後)または食パン6枚切り1枚程度は食べた方がよいでしょう。

③緑黄色野菜・海草・果物類
 先述したタンパク質や炭水化物・糖質を生体が充分に消化・吸収し栄養として利用していくためには、ビタミン、ミネラルの働きが不可欠です。このビタミン・ミネラルの供給源が野菜、海草、果物類です。特に野菜でも、ほうれん草、人参、ピーマン、ブロッコリー等に代表される緑黄色野菜は各種ビタミンの宝庫です。また海草には、カルシウム、ヨードなどのミネラル類がたっぷり含まれています。できれば毎食、緑黄色野菜中心の野菜にできるだけ海草類も取り混ぜて、タンパク質、炭水化物・糖質と一緒に摂取したいものです。食べる量の目安は、生野菜(サラダ)ならば両手のひら一杯分、茹でた野菜(おひたしや煮物など)ならば片手のひら1杯分と覚えておくと便利です。

 ただし野菜類で注意が必要なのは、イモ類(じゃがいも、さつまいも、サトイモ)、コーンなど。これらは炭水化物がメインですので、炭水化物のグループとして考えてください。

 また果物もビタミン・ミネラルを含みますが、果糖が含まれるためカロリーが総じて高めです。炭水化物と野菜類のミックス食品と捉えてください。多量に食べるとカロリーオーバーになるため、時間のない朝食や昼食、間食などに活用すればいいでしょう。

●オススメ・外食の食べ方&レシピ

 ストレスに関連した重要な栄養の知識がついたところで、次に具体的な食べ方を考えていきましょう。どうしてもコンビニやファストフード類などの外食に頼らざるをえない方のための参考にしていただければと思います。

① カップ麺、菓子パン、弁当などコンビニ食品で済ませるときは、同じ店内で手に入る生野菜サラダやおひたし・煮物などの野菜の惣菜をプラスする。もしなければ野菜ジュースを追加しましょう。また、麺類、パン類、おにぎりなどの、タンパク質が不足しているメニューには、同じく店内で手に入るゆで卵やチーズ、かまぼこ、ソーセージ、おでん(練り製品、卵、厚揚げ)などを利用しましょう。

② 食堂などで、うどんや蕎麦、カレー、ラーメンなどの軽食ですませるときは、具にタンパク質(卵や油揚げ、にしん、肉など)がたっぷり乗ったものを選び、かつ野菜の小鉢やサラダを一品追加する。店になければ野菜ジュースをあとで飲んでおくとよいでしょう。

③ 外食には、サラダバーやサラダメニューの豊富なレストランや野菜の小鉢が豊富な和食レストランがおすすめです。脂っこくない刺身や焼き鳥、冷奴などの良質なタンパク質メニューの多い居酒屋風のお店も良いでしょう。しし唐の素焼き、野菜炒めなどの野菜メニューも忘れずに合わせて注文しましょう。

④ 野菜が不足しているメニューのあとのデザートには、みかんやリンゴといった果物がお勧めです。野菜ジュースもデスクやカバンに常備しておくと、いつでも手軽に野菜不足を補えます。

 

Profile
おくだ・ひろみ
平成4年山口大学医学部卒業。都内クリニックでの診療および18か所の企業での産業医業務を通じて老若男女の心身のケアに携わっている。著書には『自分の体をお世話しよう~子どもと育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

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精神科医(精神保健指定医)・ 産業医(労働衛生コンサルタント)

平成4年山口大学医学部卒業。都内クリニックでの診療および18か所の企業での産業医業務を通じて老若男女の心身のケアに携わっている。著書には『自分の体をお世話しよう~子どもと育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

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