教師のためのメンタルケア入門

奥田弘美

リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[第4回]ストレスサインが出現し始めた時のセルフケア〈その1〉

学校マネジメント

2020.05.12

新型コロナウイルス感染症対策に伴う急激な環境の変化や病気への不安により、いわゆる自宅でコロナ鬱(うつ)に悩む方が増えています。ご自身やご家族に問題がなくとも、一緒に働く方の心の健康は大丈夫でしょうか。ここでは、精神科医・産業医として活躍する奥田弘美先生が学校の管理職層向けにメンタルヘルスを親しみやすく解説した「リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門」(『学校教育・実践ライブラリ』連載)を12回にわたってご紹介いたします。(編集部)

リーダーから始めよう! 
元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[第4回]
ストレスサインが出現し始めた時のセルフケア〈その1〉

精神科医(精神保健指定医)・産業医(労働衛生コンサルタント)
奥田弘美

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.4 2019年8月

心身のケア法

 前回はストレスが蓄積し始めたときに、心や体から発生する「ストレスサイン」について解説しました。イライラする、涙もろくなる、コーヒーやタバコの量が増える、体が気だるくなる......などなど、身体面、行動面、精神面に現れるストレスサインは、人それぞれで違います。自分自身に発生しやすいストレスサインを「マイ・ストレスサイン」として予め自覚しておくと、ストレスの早期発見・早期対応がしやすくなります(詳しくは前号をご参照ください)。

 さて、今回はこのマイ・ストレスサインをキャッチしたときに自分で行う心身のケア法についてお伝えしたいと思います。

 マイ・ストレスサインが発生し始めたときというのは、心と体のエネルギーレベルがどんどん低下し始めている状態です。イメージとしては、ストレスによるエネルギーの消費が続いているために、供給が追いつかない状態になっていると考えてください。こういった「エネルギー消費>エネルギー供給」状態を放置しておくのは危険です。本格的な心身の病に移行する前に、速やかにエネルギー消費を減らし供給を増やすことが大切です。今回は、まず「心身のエネルギーの消費を減らすための手法」についてお伝えしましょう。

《心身のエネルギー消費を減らすための手法》
(手法1)可能な限り、ストレスの原因を取り去る。
 ストレスの原因がはっきりしている場合は、できるだけ、その原因を取り去ったり、関わりを薄めたりすることが大切です。例えば何かの担当を任されたことがストレス源となっている場合は、その担当を降ろしてもらうなどスッキリ取り去ることができれば一番の解決法です。
 しかし仕事上ではどうしても関わりをなくすことができない場合も多いでしょうから、そういう場合は無理せずに、上司や同僚にヘルプを求めて「関わり方を薄める」ことを考えます。例えば担当を複数にしてもらい交代して役職に当たる、自分1人だけでなくグループで対応するなど、関わり方を薄めます。
 またストレス源に関わっている間は、できるだけ物理的にも心理的にも遠ざかる時間を捻出することも大切です。そのストレスから全く無関係な場所や時間を、毎日確保してみましょう。例えば家庭で何らかのトラブルが発生している場合は、仕事からの帰り道に、30分でもカフェや本屋などでリラックスできる時間をもつ。職場がストレスの場合は有給休暇を活用して一週間の途中で半日だけでも休んでみる、といったことでもOKです。

(手法2)できるだけ体の疲労を癒す。
 ストレスで心が弱っているとき、体までも疲労していると、さらに心のエネルギーレベルが下がってしまいます。ストレスサインを感じ取ったら、速やかに体の疲れを普段より入念に癒しましょう。しっかり栄養の良いものを食べて、しっかり寝る。そして、できるだけ休息する時間をつくるということが大切です。
 食事は、肉、魚、大豆製品、卵といったたんぱく質と野菜類を普段より多めにしっかりとり、疲労回復物質であるアミノ酸、ビタミン、ミネラルの摂取を強化します。ほどよく糖質も摂取する必要がありますので、過激な低糖質ダイエットをしている方はお休みしてください。睡眠も最低7時間以上は、しっかりとれるように、夜遅くまで残業したり、付き合いで飲み会に参加したりすることは、避けましょう。

(手法3)生活上での余分な変化を増やさない。
 ストレスの正体は、「変化」が元になっています。そのためストレスサインが出ているときには、新しい変化を増やさないようにすることが大切です。
 例えば新しい仕事を引き受ける、ダイエットや禁煙にチャレンジする、習い事を始めるなど、新たな変化はしばらく避けた方が無難です。

(手法4)「ねばならない思考」をできるだけ減らす。
 ストレスサインが現れているときは、できるだけ自分の「〜したい」を優先させ、「〜ねばならない」を極力減らします。「〜ねばならない」「〜すべき」思考は、自分に鞭を当て、無理やり動いていることが多いためエネルギーの消耗度が概ね高くなります。
 ストレスサインが出てきたときは自分に甘くなって「〜したい」思考を優先させ、ちょっとわがままに生活していきましょう。

 このようにして心身のエネルギー消費を意識的に減らしたのちに、エネルギーを供給するための行動を実践します。このことについては次回に詳しくお伝えする予定です。どうぞお楽しみに。

Profile
おくだ・ひろみ
平成4年山口大学医学部卒業。都内クリニックでの診療および18か所の企業での産業医業務を通じて老若男女の心身のケアに携わっている。著書には『自分の体をお世話しよう~子どもと育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

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奥田弘美

精神科医(精神保健指定医)・ 産業医(労働衛生コンサルタント)

平成4年山口大学医学部卒業。都内クリニックでの診療および18か所の企業での産業医業務を通じて老若男女の心身のケアに携わっている。著書には『自分の体をお世話しよう~子どもと育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

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