ユーモア詩でつづる学級歳時記
ユーモア詩でつづる学級歳時記[第10回]
特別支援教育・生徒指導
2020.11.18
ユーモア詩でつづる学級歳時記[第10回]
白梅学園大学教授 増田修治
(『学校教育・実践ライブラリ』Vol.10 2020年2月)
笑顔で子どもを育てる秘訣が満載!『子どものココロが見えるユーモア詩の世界 親・保護者・教師のための子ども理解ガイド』(ぎょうせい、2020年9月刊)の著者 増田修治氏が、埼玉県の小学校教諭時代から長年取り組んできた「ユーモア詩」。珠玉の75編と増田氏の的を射たアドバイスは、笑いながら子どもの思い・願い・成長が理解でき、今日からの子育て、保育、教育に生かせること請け合いです。ここでは、『学校教育・実践ライブラリ』(2019-2020年)の連載「ユーモア詩でつづる学級歳時記」をご紹介します。(編集部)
■今月の「ユーモア詩」
負けた
永森 航汰(3年)
日曜日に
サッカーのしあいがあった。
ぼくは前半にでれなくて
後半からでた。
ぼくのチームは、
前半に1点入れた。
でも相手チームに
後半に1点入れられて
同点になった。
さいごはPK戦になり
ぼくのチームは負けてしまった。
みんながくやしくて泣いた。
でもぼくは泣かなかった。
勝った時に泣くと
きめたからだ。
でも本当はくやしい!
■子どもの詩が、親の心を耕す
詩集の感想
「自分のおろかさにおちこみました」倉木 麻衣(仮名)
どの子もとてもよく書けていて感心しました。中でも衝撃的だったのは、永森航汰君の「負けた」でした。このときの試合は、前半勝ちでおりかえしていました。だから、勝っているのだから、後半メンバー変更なしでいって欲しいと思いました。だって航汰君は普段練習でふざけていてまじめにやっていなかったよね......と。そして逆転をくらい、「ほぅ〜らね。」と思ってしまったのです。航汰君のこの詩を読むまでは......。
私は自分のおろかさに2〜3日落ち込みました。
「航汰君、本当にゴメンね。こんな風に思いがんばっているなんて知りませんでした。これからもガンバロウね。応援しているよ。」今はこの気持ちでいっぱいです。
子ども達の心の成長は、すばらしいですネ。もっともっとみんなの事が知りたいです。
倉木さんは、この感想を封筒に入れて渡してくださいました。ちょっぴり恥ずかしそうに......。
私は、読んでいるうちにすがすがしい気持ちになりました。クラスの他の子どもの詩を読んで、自分の未熟さに気がつき反省するなんて、なかなかできることではありません。
倉木さんの息子さんも出場していた試合ですから、勝負にこだわる気持ちはよくわかります。しかも、航汰はちょっといい加減に見えるところがある子ですから、「メンバーを変える必要がない」と考えてしまったのでしょうね。
「みんながくやしくて泣いた。/でもぼくは泣かなかった。/勝った時に泣くと/きめたからだ。/でも本当はくやしい!」と書いた航汰。すごく勝ちたい気持ちで一生懸命取り組んだ航汰の気持ちが、倉木さんの気持ちを動かしたのです。本当は、いいかげんな気持ちでやっていたわけではなかったと分かったのです。
■2月の学級づくり・学級経営のポイント
子どもを多面的に見て、とらえ方を変える!
すでに2月です。残りは、1か月半くらいです。次の学年に送るためには、子どもたち同士の関係性をもう一度見直す必要があります。「あの子は、こんな子だよね」と、否定的に見ている子どもたちもいるかと思います。そのまま次の学年に送って終わってしまってはいけないのです。子どもに限らず、大人も多面的な存在です。その多面性を見させることが大切なのです。
ピグマリオン効果という言葉を知っていますか。子どもに対して、肯定的な見方をすることで、学習者の成績が向上する効果のことを言います。別名、「まなざし効果」とも言います。「この子は、勉強熱心な子だな」というまなざしで見ることで、勉強ができるようになります。
その逆が、「ゴーレム効果」です。「この子は、ダメな子だな」と見れば、ダメな子になってしまうのです。問題行動の多い子どもは、教師からも友達からも「ダメな子」というまなざしで見られていることが多いのです。
「ジョハリの窓」という心理学の考え方があります(図)。今の子どもたちに一番の問題は、「開放の窓」が小さいことなのです。「開放の窓」には、自分と他者のまなざしが入り込みます。他者のまなざしが入ることで、自己はより成長していきます。その際、否定的なまなざしを肯定的なまなざしに変えていくことが、大きなポイントです。
どの子どもも大切にするとは、否定的なまなざしを肯定的なまなざしに変えていくことです。残りの時間でやっていきましょう。そのことが、次の学年に送るための大切な準備なのです。
Profile
増田修治 ますだ・しゅうじ
1980年埼玉大学教育学部卒。子育てや教育にもっとユーモアを!と提唱し、小学校でユーモア詩の実践にチャレンジ。メディアからも注目され、『徹子の部屋』にも出演。著書に『話を聞いてよ。お父さん!比べないでね、お母さん!』『笑って伸ばす子どもの力』(主婦の友社)、『ユーモアいっぱい!小学生の笑える話』(PHP研究所)、『子どもが伸びる!親のユーモア練習帳』(新紀元社)、『「ホンネ」が響き合う教室』(ミネルヴァ書房)他多数。