Q&Aスクール・コンプライアンス
最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選 Q19 児童生徒の個人情報の入ったUSBメモリーを紛失した場合、どのような責任が問われますか。
学校マネジメント
2020.11.19
最新 Q&A スクール・コンプライアンス120選
第1章 教職生活のコンプライアンス
菱村 幸彦
国立教育政策研究所名誉所員
(『最新 Q&Aスクール・コンプライアンス 120選』2020年10月)
Q19 児童生徒の個人情報の入ったUSBメモリーを紛失した場合、どのような責任が問われますか。
◯学校における情報漏えい
学校の情報管理の不備で、児童生徒の個人情報が流出したというニュースをよく目にします。例えば、こんな事故が起きています。
・愛知県内の中学2年生の256人の名前や住所、家庭環境などの個人情報がインターネット上に流出し、一時はだれでも閲覧できる状態になっていた。学校は流出原因は不明としている(平成28年6月7日付「毎日新聞」)。
・佐賀県の教育情報システムに何者かが不正侵入し、生徒の成績や個人情報が大量に流出した。同県教育委員会は、前年に校内システムのサーバーに対する不正侵入を把握していたが、パスワードを変更しただけだったという(同6月29日付「西日本新聞」)。
・京都府の亀岡市と京丹波町の中学校3校に勤務している男性非常勤講師が、生徒計238人分の成績などを記録した書類を紛失した。テストの点数が分からなくなったため、再テストを行った学校もあった(同7月12日付「産経新聞」)。
・千葉県の県立高校の男性主幹教諭が飲酒の帰り道で置引きにあって、生徒172人分の期末考査の答案用紙と個人情報を記録した教務手帳を紛失した(同7月13日付「千葉日報」)。
教育ネットワーク情報セキュリティ推進委員会の調査によると、平成30年度に学校で個人情報の漏えい事故が発生した件数は198件で、漏えい延べ人数は5万7千人余に及んでいます。漏えい事故は、年度始めや学期末・成績処理の時期に多く、事故の約40%が、成績情報を含むものとなっています。また、漏えい経路の大半は、書類とUSBメモリーで、事故数の約70%を占めています。
◯個人情報の安全管理義務
以前なら、教師のかばんが盗まれて個人情報を紛失したといえば、学校側はなかば「被害者」の立場で釈明できました。しかし、今日では、個人情報の漏えい事案が発生すれば、学校の個人情報管理のずさんさが厳しく非難されます。
というのは、法令で個人情報の安全管理を義務付けているからです。すなわち、個人情報保護法(正式には「個人情報の保護に関する法律」)20条は、「個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又はき損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない」と定めています。
個人情報保護法は、民間事業者を対象とする法律なので、学校については、私立学校にのみ適用があり、公立学校には適用がありません。しかし、公立学校には、各自治体が定める個人情報保護条例が適用されます。個人情報保護条例は、個人情報保護法と同様の規定を設けているので、学校における個人情報の管理責任は、私立も公立も変わりはないといえます。
個人情報が流出した場合、その情報を管理していた者は、流出による損害を賠償する責任を負います。現実に民間企業では、個人情報の流出をめぐって損害賠償訴訟がかなり起きています。
このため、個人情報の流出事件が発生したとき、保険会社が損害賠償費用や謝罪広告費用や弁護士費用などを保障する保険がよく売れているといいます。学校にとっても、いまや他人ごとではありません。
Profile
菱村 幸彦(ひしむら・ゆきひこ)
京都大学法学部卒業。昭和34年文部省入省。教科書検定課長、高等学校教育課 長、総務審議官、初等中等教育局長、国立教育研究所長、駒場東邦中学校・高等 学校長などを歴任。現在、国立教育政策研究所名誉所員。
著書に『校長が身につけたい経営に生かすリーガルマインド―身近な事例で学ぶ 教育法規』(教育開発研究所)、『管理職のためのスクール・コンプライアンス』(ぎょうせい)、『戦後教育はなぜ紛糾したのか』(教育開発研究所)、 『はじめて学ぶ教育法規』(教育開発研究所)、『やさしい教育法規の読み方』 (教育開発研究所)など多数。