theme 1 次代につなげる校長の構想力

授業づくりと評価

2023.07.10

theme 1 次代につなげる校長の構想力

一般財団法人教育調査研究所研究部長
寺崎千秋

『教育実践ライブラリ』Vol.6 2023年3

校長の構想力とは

 社会の激しい変化に対応し、新たな社会の創り手となり未来を拓く子どもたちを育成する学校づくりが求められている。これまでの日本型学校教育のよさの継承とともに新たな課題に対応する令和の日本型学校教育の実現に向けた改革を推進し、全ての子どもたちの可能性を引き出す個別最適な学びと、協働的な学びの実現、さらにはそれを担う新たな教師の学びの姿の実現、多様な専門性を有する質の高い教師集団の形成が求められている。これらの実現、学校改革のリードが校長の責務である。

 新たな社会の創り手となり未来を拓く子どもたちを育成する教育の実現を目指した学校づくりをどのように進めるか、校長はその構想を示し、実現をリードしなくてはならない。

 学校づくりの構想力は、次代や社会の変化を捉える先見性、学校経営ビジョンの構築、リーダーシップの発揮、学校マネジメントの充実等の総合的なものであるとともに、実現に向けた道筋を示すものである。紙に書いた図面に示して終わりではなく実現に向けた取組、実践を含めて構想力と考える。すなわち、校長一人のものではなく、教職員等全ての関係者を含めての構想力である。

時代の先端を見通す先見性

 変化の激しい時代では校長も変化に応じて職能を高めなくてはならないが、それだけではついていくだけ、言われたことをやるだけで末端になる。変化の先を見通し必要と考える力を身に付け自らが先端に立って学校づくりをリードする校長でありたい。

 現に進行している社会の変化を表すキーワードに「Society5.0(超スマート社会)」「IoT(Internet of Things)」「AI(Artificial Intelligence)」「第4次産業革命」「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発な目標)」等がある。これらが示す状況は今も社会の中でどんどん進展している。

 新型コロナウイルス感染症の拡大、自然の猛威による災害、ロシアのウクライナ侵略等世界各地での戦争や紛争、これらが国民の生活に多様で多大な影響を与えておりよそ事ではなくなっている。学校では、GIGAスクール構想によりICT(Information and Communication Technology)の活用が推進されている。教員のICT能力の向上、ICT環境の整備、子どもたち1人1台端末の配備等々により各教科等の学習での活用が期待され、今後の教育DX(デジタルトランスフォーメーション)の目指す先が示されている。また、働き方改革も進められている。

 校長としてこれらを多角的・多面的、そして総合的に見つめ、教育はどのように関わるのか、影響を受けるのか、どう対応していけばよいかなどを見通し、見極め、判断することが必要であり、その力が求められる。自分なりの見方・考え方や方法を確立
し構想力を発揮して、受け身ではなく学校改革の主体者になって取り組んでいく校長でありたい。

構想力を発揮する

(1)学校経営ビジョンの構築
 学校経営ビジョンは、校長の学校づくりの目標像や展望を公に示すものであり、未来を拓く子どものために学校をどのような学びの場にしていくかなどを表現し提示するものである。そこには校長の夢やロマンも包含されていよう。校長の識見、先見性、専門性、リーダー性、人間性、教養等々を総合し統一して創出し構築するものであり構想力発揮の出発点である。学校経営ビジョンの構築は、例えば以下のように意図的、計画的・組織的に組み立てる。

① 自らの教育信条等を確認する。例:「敬天愛人」「教育は人なり」「教育は実践にあり」「子ども第一・全ては子どものために」など。 ② 諸事象から教育の未来を見通す。 ③ 子ども・学校等の実態を把握しよさや課題を明らかにする。 ④ 学校経営の目標を設定し簡潔で分かりやすく表現する。例:「夢を育む子どもが主役の楽しい学校」「誇りと自信をもち社会の創り手となる子どもが育つ学校」「誰一人取り残さない学校」「子どもがつくり手となる学校」など。 ⑤ 学校経営方針を明確かつ簡潔に示す。例:「わかる・できる・つかう・つくる教育課程」「聞いて・助けて・任せて・見守る学習支援」「あんぜん・あいさつ・あつまり・あとしまつの生徒指導」「一人を皆で・優しく・仲良く・温かくの学級・学年経営」。 ⑥ 取組の先後の決断をし、何から取り組むか、重点を何にするかを示す。 ⑦ 中長期(2~5年)ビジョン及びそれに向けた短期的(1年、学期、月)ビジョンを提示する。

 以上の過程において教職員等にビジョン構築への参画を促し、ビジョンについての意見や要望等を聴取する。必要に応じて意見交換してビジョンの精査を図り再構築する。ビジョンを浸透させるためには、年度初めの表明だけでなく、折々に必要な部分を説明し共通理解と共有を図るように工夫する。また、教育活動、学校運営の成果や課題を判断する物差しとして常時活用して認識を深めるようにする。

 ビジョンは示して終わりではなく、「ビジョンの構築→説明→意見聴取→理解・共有と協力→協働・実践→振り返り」のラセン型サイクルを確実に行うことで実現していくものであり、校長も自らのビジョン構築力を高めていくことができる。

(2)リーダーシップの発揮
 学校組織における校長のリーダーシップは、ビジョン実現・目標達成に向けた教育活動や学校運営等においてリーダーとして発揮すべき影響力であり、校務分掌等の役割と遂行の指示・要望、督励等の統率力や、教職員等のメンバーの理解と集団の心理的基盤の維持の機能が重視されている。

 経営ビジョン、目標や方針・計画を提示する段階は実現全体の5%。残りの95%が実施・実行であり、実現に向けて学校組織を指導・支援し、統率していくのが校長である。5%の段階には夢やロマンがあるが、95%には現実の厳しさがある。遂行には多くの問題や障壁がある。これを解決し乗り越えビジョンを実現させていくのがリーダーシップの発揮である。

 教育課程実施や学校運営推進において、どうリーダーシップを発揮すれば効果的か、諸要素や条件を踏まえ、やるべきことを判断し決断する。ときには英断して実行・実践を強力にリードしていくことが求められる。「判断」は頭でクールに考え、物差しに則して決めていくこと。「決断」は「よしっ」とこれまでの経験を信じて腹をくくって決めること。優柔不断、独断・専断は避けたい。嫌われ憎まれる校長となること必定であり、ひいては子どものためにならない。リーダーシップ発揮の判断・決断の第一の物差しは、「それが本当に子どものためになるか」である。「子どものためになることをする」「子ども第一」で思考し判断していけば大きく間違えることはない。

 学校組織のリーダーとして考えることは、学校は今、教育改革の真っただ中にいるということ。これまでの教育を踏襲するのではなく、根本的・抜本的に見直し、やり方を変え、子どものための変化を目指すことである。先端に立つ校長は、それらが本当に子どものためになるのかを常に考えながら実践していくことを大切にし、リーダーシップを発揮したい。

 リーダーとしての校長は学校経営者、学校管理者、教育者の三つの顔をもつ。これらは「経営者×管理者×教育者」の掛け算であり、どれが欠けてもゼロになることを心したい。学校経営者は未来志向で、ビジョン、進むべき方向、方針(戦略)を示し、実現に向けて行動・実践する。学校管理者は現在思考で、執行管理、危機管理(教育課程、施設設備、服務、健康等々)を確実に遂行する。そして教育者は過去に学び、未来を見通し、よりよく現在を生きる姿、現在を創る姿を示すことである。三つの側面の調和と統一を大切にしたい。

(3)学校マネジメントの充実
 校長の学校マネジメントの充実とは、学校経営の執行・推進を効果的に行い、学校経営ビジョンの実現を図ることであり、もって学校の教育目標を一人一人の子どもに実現させることである。学校経営ビジョンを示すだけで事が動きすべてうまくいくことなど、今日の学校ではあり得ない。

 その要素は「人(教師、子ども、保護者・地域住民等)」「教育課程」「教材・教具」「ICT」「学校予算」「施設・設備」「情報」「限られた時間」などである。「人」を中心にこれらが絡み合って教育活動や学校運営が展開されており、全体を円滑かつ効果的に執行・運営し、管理しビジョン実現の方向に向かって進むようにするのが学校マネジメントの充実である。

 学校マネジメントの方法として「PDCAサイクル」が重視されている。学校ではこの手法を日常的に取り入れて短期、中期、長期それぞれに、日々・毎時の授業や教育課程・指導計画、学校運営等々の実施・評価・改善を行っており、これを折々に形成的・総括的に行うのが学校評価である。これらを系統的、関連的、総合的、総括的に行うことが学校マネジメントをより充実したものにし、教育の質を高める。

 学校マネジメントを実践するのは教職員一人一人である。したがって、日頃から教職員にマネジメントの意識を高め、実践できるように育てていくことも職務である。現在の教育課程では「カリキュラム・マネジメント」を重視しており、教職員も実践している。その考え方を学校運営全体にも生かして実践するようリーダーシップを発揮したい。

構想力をつなぐ人材の育成

 校長の学校経営ビジョンの構築、リーダーシップの発揮、学校マネジメントの充実等は校長一人で行うことはできない。教職員の参画、協働があって実現していく。教職員も実現することのできる力を参画、協働、実践を通して身に付けていく必要がある。今日の学校は若手教師が増えて経験不足が課題であること、ブラックな職場と言われ教員志望が減少していることなどの中で教師の育成が重要な課題となっている。校長の構想力をつなぎ教師力・学校力を高めるためにどのように人材を育成するか。

 「率先垂範」「子弟同行」「啐啄同機」で次代につなぐことを推奨したい。昔から言われている方法であるが分かりやすい。「率先垂範」は、前述の「構想力を発揮する」で示した校長の構想力の発揮の姿、あるいは経験豊かな授業の進め方等を具体的に見せること・示すことである。「子弟同行」は、学校が取り組むべき課題の解決・実現に校長も教職員と共に思考し協働し汗を流すこと。新たな指導課題であるICT関係はまさに共に学び合う課題であろう。「啐啄同機」は、今伸びようとしている教職員の発想や提案、取り組む姿・状況などを認め発揮させることである。「与えて・させて・改善させる」一方的な指導ではなく「聞いて・助けて・任せて・見守る」支援により、主体的・協働的で深い学びを教師自身が実現できるようにリードしたい。

 令和4年12月19日に中央教育審議会が「『新たな教師の学びの姿』の実現と、多様な専門性を有する質の高い教師集団の形成」を答申した。「令和の日本型学校教育」を担う教師を育てるためである。子どもの授業観・学習観の転換とともに教師の研修観の転換を求めている。これを受けて教育委員会が今後の研修の在り方を具体化し学校・教職員に示すことになろう。人材の育成はこの制度をどう生かすかにも関連させる必要がある。教職員にとっての自己実現ができ、学校経営ビジョンの実現に資するものとなるように取り組むことが校長の責務である。

 

 「次代につなぐ校長の構想力」は、以上の他に「人間関係及びコミュニケーションの深化」「ICT教育の推進」「働き方改革の推進」「危機管理のマネジメント」「研修と自己更新、健康の保持・管理」を含めて考えている。参考文献を参照されたい。

[参考文献]
・寺崎千秋著『校長の条件』教育出版、2023年3月1日

 

 

Profile
寺崎千秋 てらさき・ちあき
 全国連合小学校長会会長、東京学芸大学教職大学院特任教授等を歴任。現在、一般財団法人教育調査研究所評議員・研究部長、教育新聞論説委員、公立小学校2校の学校運営協議会委員、小中学校の校内研究・研修の講師、教育委員会主催の教員研修講師等を務めている。

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