講座・校長学 新しい時代のリーダーシップ[第2回] [校長のビジョン洞察学]展望を開き計画を示す

学校マネジメント

2021.10.18

講座・校長学 新しい時代のリーダーシップ[第2回]
[校長のビジョン洞察学]展望を開き計画を示す

一般財団法人教育調査研究所研究部長
寺崎千秋

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.2 2021年6月

教育の方向性を見極める

 広い視野で未来を見据えた次に校長が取り組むことは、教育の方向性を見極め、学校経営ビジョンを打ち立てることです。世界・社会の激しい変化に応じて、今どのような教育をどのように進めていけばよいかを洞察しビジョンを構築することです。

 そのためには基本を踏まえ足元を固めます。激しい変化に対応すべく教育基本法や学校教育法、学校保健安全法等々、次々と改正、一部改正等が行われています。中央教育審議会は常設となり、矢継ぎ早に諮問・審議・答申が行われ教育改革がスピード感をもって進められています。これらはビジョン構築の前提であり根拠ですから、その趣旨・内容を確実に把握しましょう。以下は特に重要です。

○中央教育審議会答申(平成28年12月21日「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」は、学習指導要領改訂の基本的な方向性、各学校段階、各教科等における改訂の具体的な方向性を示しています。新教育課程の原点です。

○「小学校学習指導要領」「中学校学習指導要領」(平成29年3月31日)は答申を具体化し、「社会に開かれた教育課程、資質・能力の三つの柱、主体的・対話的で深い学び、カリキュラム・マネジメント」が新学習指導要領の理念・ねらい・指導方法であり教育課程編成・学校運営の核といえます。

○第3期教育振興基本計画(平成30年〜令和4年)は、第2期計画の「自立」「協働」「創造」の方向性を継承し、2030年以降の社会の目指すべき姿として、個人については「自立した人間として、主体的に判断し、多様な人々と協働しながら新たな価値を創造する人材の育成」、社会については、「一人一人が活躍し、豊かで安心して暮らせる社会の実現」と「社会(地域・国・世界)の持続的な成長・発展」を指摘しています。目指すところです。

○中央教育審議会答申(令和3年1月26日)「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」は、平成28年12月の答申を、時代の変化やコロナ禍等に対応して強化したものです。これまでの日本型学校教育は、①学習機会と学力の保障、②社会の形成者としての全人的な発達・成長の保障、③安全・安心な居場所としての身体的精神的な健康の保障を果たしてきました。「令和の日本型学校教育」はこれを継承し、社会構造の変化や感染症・災害等も乗り越えて発展し、「全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現」を目指しています。その上で今後の改革の方向性として以下の6点を示しています。(1)学校教育の質と多様性、包摂性を高め、教育の機会均等を実現する。(2)連携・分担による学校マネジメントを実現する。(3)これまでの実践とICTとの最適な組合せを実現する。(4)履修主義・修得主義等を適切に組み合わせる。(5)感染症や災害の発生等を乗り越えて学びを保障する。(6)社会構造の変化の中で持続的で魅力ある学校教育を実現する。

 以上が本連載第1回に見据えた未来を受け止めた方向性です。熟読して今後の学校経営ビジョンの構築、具体的な方針や重点の策定に反映させましょう。

学校経営ビジョンを構築する

 未来を見据え、今後の教育の方向性を踏まえた学校経営ビジョンを構築する際に、何を核にし重視しなくてはならないか、選択や重点、先後の決断が求められます。校長になってやりたいこと、やってみたいことがあると思いますが、「やらなくてはならないこと」を先の答申などから確認しましょう。

 第一が「社会に開かれた教育課程の実現」「資質・能力の三つの柱の育成」「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」「カリキュラム・マネジメントの推進」を視点にした教育課程の編成実施です。これを可能にする学校運営の推進を重点として位置付けます。さらに「令和の日本型学校教育」が示した視点を踏まえます。「個別最適な学びと協働的な学び、その一体的な充実」「連携・分担による学校マネジメントの実現」「これまでの実践とICTとの最適な組合せの実現」「コロナ禍等を踏まえた感染症や災害の発生等を乗り越えて学びを保障」「社会構造の変化の中で持続的で魅力のある学校教育の実現」などです。これらを学校経営ビジョンに具体化して位置付けることが必要です。

 ビジョンの具体化には当然ながら、子供、学校、家庭や地域の実態、それぞれの思いや願い、学校や地域の伝統や歴史等々を踏まえ、これに応じることが必要です。実態と結びつかないビジョンは砂上の楼閣です。この点はこれまでの経験や知見がありますから、それを生かし活用し実態を踏まえて社会の変化に応じた望ましい姿を構築しましょう。

ビジョンの共有化を徹底する

 学校経営ビジョンにはどのような学校をつくるか目的・目標、重点や方針等の展望を示すだけでなく、どう具現していくか、年次計画や各年度の工程表を示すこと、それぞれの取組をどのような組織・役割分担で推進するかを明らかにすることが必要です。そして、教職員にプレゼンテーションし理解してもらうことが大切です。ビジョンが共有化されなければ、学校内の取組はバラバラになりかねません。

 そのためにやるべきことがあります。ビジョンに教職員、保護者、地域の人々を巻き込むことです。一体となってビジョンを構築し実践することです。

 ビジョン案を提示し意見聴取する。ビジョンを一方的に示し押し付けることにならないよう、案として示し意見交換に参画してもらい、教職員等の思いや願い、悩み等を受け止め共感することを大切にします。

 年次計画・工程表、組織・役割分担などを実行・実践するのは教職員であり、ビジョンが共有されてこそ実現することを忘れないようにしましょう。

 学校経営ビジョン(学校づくりビジョン)を共に考え、共有することで教職員は、自分たちが目指すところ、目指す方向、組織・役割分担、自分がやるべきことが分かり、自分から動くようになります。こうしてビジョンは「絵に描いた餅」で終わらずに、確実に子供たちを育む羅針盤、地図、道程となるでしょう。これらを含めてビジョンを考え構築し実現するのが校長の重要な責務です。

 

 

Profile
寺崎 千秋 てらさき・ちあき
 全国連合小学校長会会長、東京学芸大学教職大学院特任教授等を歴任。現在、一般財団法人教育調査研究所評議員・研究部長、教育新聞論説委員、公立小学校2校の学校運営協議会委員、小中学校の校内研究・研修の講師、教育委員会主催の教員研修講師等を務めている。

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