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続・校長室のカリキュラムマネジメント

末松裕基

続・校長室のカリキュラムマネジメント[第6回]異質な若手にどう関わるか

NEW学校マネジメント

2021.01.13

続・校長室のカリキュラムマネジメント[第6回]異質な若手にどう関わるか

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.6 2019年10月

東京学芸大学准教授
末松裕基

 今回も職場におけるコミュニケーションをどのように考えていくかということを検討してみたいと思います。

 職場でのコミュニケーション、もしくは、そもそも社会でのコミュニケーションというのは余裕がなくなればなくなるほど、本来は急いで考えずに、丁寧に豊かに行っていく必要がありますが、現状はどうでしょうか。

 だれしも余裕がなくなってくるほど、コミュニケーションを取っているつもりでも、自分の考えを押し付けたり、対話をしているようであっても、実は一方的なモノローグになっていたりすることも多いと思います。

 わたし自身、ついつい自分の判断や正しさを強引に相手に押し付け、推し進めようとしているなと反省することも多いです。

矛盾を肯定できるか

 コミュニケーションにおいて性急な問題解決を求めてしまう姿勢は、わたしたちの心の余裕に問題があるだけでなく、コミュニケーションを成立させている社会環境がそれらを条件づけていることも多々あります。そのため、私たちが置かれている社会環境、たとえば、どのようなメディアを通じてコミュニケーションを取っているかに目を向けない限り、コミュニケーションは改善しないとも言えます。

 先ほど話題に挙げた「対話」は英語だと「ダイアローグ」ですが、「ローグ」というのは、「ロゴス」を語源として「言葉」を意味し、「ダイア」というのは「〜を通して」という意味ですので、対話的なコミュニケーションを行いたいのであれば、「言葉」というメディアの使われ方に注目をしていく必要があります(前回の、本を読んで専門性を学ぶ意義は、ここにもあります)。

 興味深い学校体験をもち、独特の感性と洗練された品のあるデザインをする装丁家の矢萩多聞さんという方がいます。最近、自らが関わった図書の装丁をまとめた素敵な本を出されましたが、そのなかで彼は次のように述べています。

 かんたんに言葉を投げつけて、人を傷つけ、断罪できるソーシャル・ネットワーキング・サービスではなく、「そんなこともあるよね」と人間の矛盾を肯定できるような生身の場所がほしい。

 本は縁側みたいだ、と思う。一冊の本がきっかけになって見知らぬ人と出会う。なにげなくめくった一ページから会話がはじまる。本のまわりにはいつもにぎわいがあり、ちょこんと腰をおろせる場所がある。

(『本の縁側』春風社、2019年、3-4頁)

 瞬発的な感情にまかせたコミュニケーションは短期的な視点でみると当人は心地よく状況を打破するかのようにも思えますが、コミュニケーションというのは複数の他者を相手としたものですので、やはりそういう刹那的なやり取りでは、うまくいかないことが多いです。ましてや、学校という世界は、子どもを育てるという明確なゴールが見えない仕事を行う場ですし、それぞれの経験や背景に応じて、前提としている教育観が全く異なります。

 経験の浅い若手教員が大量に採用され、多くの学校においてはこれまでの年齢構成や力量形成の環境が戦後のスタイルから大きく変化してきています。

 若手は力量、経験がともに不足しているにもかかわらず、大量退職を受けたのちは、即戦力としての大きな期待を背負いさまざまに悩みを抱えながら日々を過ごしています。

 さらに、向き合うべき子どもや家庭環境は従来以上に多様化、複雑化しています。

 ぎりぎりの状態でプレッシャーを感じながら仕事をしていることも多いのではないかと思います。

 採用倍率が実質的に相当程度下がっているのも事実ですので、いまの中堅層以上の時代よりも、質という点では明らかに落ちていることは否めません。ただ、そうだからといって、能力のなさや、場合によっては、人格を否定するような言動が飛び交う職場では人が育つことは期待できません。

 この状況を正面から引き受けて、どのように異質な若手に関わっていくことができるでしょうか。

新人へのある配慮の例

 写真家の植本一子さんという方がいます。最近のエッセイでは最も清新な文体だと感じ、彼女の著作を私は一気に読んだのですが(二児の母親として、子育てに悪戦苦闘する姿がかなりのリアリティで描かれています。実母との確執、末期癌と向き合う夫、悩み多い子育てと写真家としての葛藤などが、日記の形でリアルに書かれています。最近の子育て、家族問題を考えるには最良の題材だと思い、学生や教員研修でもよく紹介しています。刊行の古い順から読まれることをおススメします)。

 そんな彼女のエッセイに、知人の職場での話題が紹介されています。新入社員である知人・ミツくんは、職場の先輩から個人的な「福利厚生」として次のメッセージを送られたというのです。

 勤続半年おめでとう! 仕事を頑張っているミツくんに、僕から個人的な福利厚生をプレゼントします。以下の4つから好きなものを選んでください。

  1.美味しい中華料理屋で呑み
  2.ランチ三日分
  3.毎月僕のおすすめ本をプレゼント(六ヶ月分)
  4.肩たたき券

 植本さんは「面白くて良い先輩に恵まれたんだな、と思うのと同時に、自分ならどうするだろう」と述べています(『台風一過』河出書房新社、2019年、166-167頁)。当のミツくんは、3の本のプレゼントを選んだそうです。

 なかなか他者というのは簡単に理解できないものですし、あの手この手でコミュニケーションの方法を見出していくしかありません。

 つまり、若手が現時点で有能かどうかということだけが職場で問題となるのではなく、若手を取り巻くコミュニケーションの環境がどのように充実し、具体的な配慮や工夫が周囲によっていかに考えられ、そこに存在するかということも問題になってよいということです。

 

 

Profile
末松裕基(すえまつ・ひろき)
専門は学校経営学。日本の学校経営改革、スクールリーダー育成をイギリスとの比較から研究している。編著書に『現代の学校を読み解く―学校の現在地と教育の未来』(春風社、2016)、『教育経営論』(学文社、2017)、共編著書に『未来をつかむ学級経営―学級のリアル・ロマン・キボウ』(学文社、2016)等。

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2019年10月 発売

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学芸大学准教授

専門は学校経営学。日本の学校経営改革、スクールリーダー育成をイギリスとの比較から研究している。編著書に『現代の学校を読み解く―学校の現在地と教育の未来』(春風社、2016)、『教育経営論』(学文社、2017)、共編著書に『未来をつかむ学級経営―学級のリアル・ロマン・キボウ』(学文社、2016)等。

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