教師のためのメンタルケア入門

奥田弘美

リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[第9回]ストレスに対抗する心の力をつける その②「マインドフルネス瞑想を活用しよう」(前編)

学校マネジメント

2020.05.17

リーダーから始めよう! 
元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[第9回]
ストレスに対抗する心の力をつける その②「マインドフルネス瞑想を活用しよう」(前編)

精神科医(精神保健指定医)・産業医(労働衛生コンサルタント)
奥田弘美

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.9 2020年1

新型コロナウイルス感染症対策に伴う急激な環境の変化や病気への不安により、いわゆる自宅でコロナ鬱(うつ)に悩む方が増えています。ご自身やご家族に問題がなくとも、一緒に働く方の心の健康は大丈夫でしょうか。ここでは、精神科医・産業医として活躍する奥田弘美先生が学校の管理職層向けにメンタルヘルスを親しみやすく解説した「リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門」(『学校教育・実践ライブラリ』連載)を12回にわたってご紹介いたします。(編集部)

心のトレーニング法

 前回からは、ストレスに対抗するための心の力をアップするヒントをご紹介しています。

 今回から2回に分けて、今話題の心のトレーニング法であるマインドフルネス瞑想について解説したいと思います。

 数年前より心の安定法や集中力アップ法として雑誌やウェブサイトなどでマインドフルネス瞑想が取り上げられるようになっています。

 「マインドフルネス」というのは、一言で説明すると「今という瞬間に起こっていることに注意を向けて適切に気づくこと」です。「今ここに対する適切な気づき」があれば、私たちは未来や過去に向けた不安、心配、怒り、後悔、緊張といった様々なストレス感情にどっぷり飲み込まれず、心を整えて落ち着いて目の前の現実に対処しやすくなります。

 この「今ここに対する適切な気づき」を育てるために、瞑想を活用して心のトレーニングを行っていくメソッドがマインドフルネス瞑想法なのです。マインドフルネス瞑想法の源流は2500年前にブッダ(お釈迦様)が説いた理論と瞑想法にあります。1960年代ごろから欧米(特にアメリカとイギリス)に仏教系瞑想ブームが起こり、盛んに精神安定法として愛好されるようになりました。

 現代では精神科領域でうつなどの病状を和らげる心理療法として確立されたり、欧米のトップ企業で集中力を高める方法として導入されたり、イギリスでは学校教育に導入されたりと様々な分野での活用が広がっています。

 実際にマインドフルネス瞑想効果の解明は科学的にも進んでいて、「注意力や思いやり、共感などのプラスの心理機能が向上する」「ストレスホルモンであるコルチゾールが減少し免疫力が高まる」「怒り、不安、恐怖などの感情を低下させる」など様々な効果が報告されています。

 昨今、日本でも欧米からの流れを受けて医療やビジネス領域において急速にマインドフルネスへの注目が高まっています。

 今回は日常生活の中で簡単にできる深呼吸瞑想とイーティング瞑想をご紹介したいと思います。

●深呼吸瞑想

 腹式深呼吸そのものにも心を落ち着ける効果がありますが、しっかりと体の動きに意識を集中させながら深呼吸を行うと、未来や過去に囚われている心が「今ここ」に戻り、マインドフルネス瞑想の一つになります。

 何か心配事やプレッシャーを感じて緊張がとれないとき、不安や焦りを覚えてピリピリ感が取れないときなどには、まずマインドフルネスの要素を取り入れた次のようなやり方で腹式深呼吸をしてみましょう。

① 立位の場合は肩幅程度に両足を開き、安定して立ちます。椅子に座る場合は、背もたれにもたれかからず、背筋を伸ばして深く座ってください。
② お臍から下腹にかけて両手のひらを当てます。
③ 手のひらでお腹が凹んでいくのをじっくり感じとりながら、しっかりと息をできるだけゆっくりと鼻から吐き出します。
④ お臍中心に大きくお腹を膨らませながらゆっくりと息を鼻から吸い込みます。このときもお腹がぷう~っと風船のように膨らんでいくのを手のひらで感じます。
⑤ お腹が膨らみきったのを手のひらで意識しながら一時停止し、今度はゆっくりとできるだけ長く鼻から息を吐き出します。このときもお腹が凹んでいくのを手のひらで感じましょう。
⑥ このようにゆったりとした大きな腹式呼吸を3回以上繰り返しましょう。

●イーティング瞑想

 食事時間を活用してマインドフルネス瞑想を行うことができます。

 スマフォや書類を眺めながらの「ながら食べ」を数分間だけでもストップして、はじめの数口は次のような要領でマインドフルネス瞑想を行ってみてください。

① 何か一つ、食事メニューの中から瞑想を行う食べ物を決めます。
 ここではご飯を例にしてみましょう。
②「ご飯を食べます」と心の中でつぶやき、ゆっくりとお茶椀のご飯を見る。
③ はじめてご飯を食べる赤ちゃんになったようなつもりで、お茶椀の中の米の色や形、湯気などをしげしげと眺めてみる。普段は気がつかないような様々な色合い、形状などにできるだけ注意を向けよう。
④ 箸でご飯を一口分とる。
⑤ 鼻先に持っていってご飯の香りをしっかりと感じる。
⑥ ゆっくりとご飯を口に入れたら、口の中で飯と触れた舌や口腔粘膜の感覚をじっくり感じる。
⑦ ゆっくりとひと噛みひと噛み噛んでいき、このときも歯触りや形状の変化をできるだけ感じとる。
⑧ 口腔内に広がるご飯の香りや、味もじっくり感じる。
⑨ ゆっくり咀嚼しながら、ご飯が唾液を含んでなめらかな液状に変わっていく歯触り、舌触りを感じとろう。
⑩ 最後に、ゆっくりと咀嚼したご飯を飲み込む。
 他の食べ物についても同じように行うことができます。珈琲やお茶などの飲み物でも、もちろん可能です。

 食事中もあれこれ仕事や人間関係のことを考えてしまいがちですが、はじめの数口だけでもマインドフルネスイーティングを行うと、脳の思考から離れ「今、ここ」に心を戻すことができます。その結果、心を落ち着かせたりイライラや不安を和らげたりといった効果が期待できます。

 また今まで気がつかなかった食べ物の微妙な味の変化や深い味わいを感じることで、早食いや食べすぎの予防にもなります。

 ぜひ日々の食事タイムにもマインドフルネス瞑想を取り入れてみてください。

 

Profile
おくだ・ひろみ
平成4年山口大学医学部卒業。都内クリニックでの診療および18か所の企業での産業医業務を通じて老若男女の心身のケアに携わっている。著書には『自分の体をお世話しよう~子どもと育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

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奥田弘美

精神科医(精神保健指定医)・ 産業医(労働衛生コンサルタント)

平成4年山口大学医学部卒業。都内クリニックでの診療および18か所の企業での産業医業務を通じて老若男女の心身のケアに携わっている。著書には『自分の体をお世話しよう~子どもと育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

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