不登校児童生徒への支援に関する最終報告 ~一人一人の多様な課題に対応した切れ目のない組織的な支援の推進~(抜粋)

トピック教育課題

2019.07.01

不登校児童生徒への支援に関する最終報告
~一人一人の多様な課題に対応した切れ目のない組織的な支援の推進~(抜粋)

平成28年7月
不登校に関する調査研究協力者会議

(『新教育課程ライブラリ Vol.9』2016年9月

第3章 不登校児童生徒への支援に対する基本的な考え

1 支援の視点

 不登校児童生徒への支援の目標は、児童生徒が将来的に精神的にも経済的にも自立し、豊かな人生を送れるよう、その社会的自立に向けて支援することである。その意味において、不登校児童生徒への支援は、学校に登校するという結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指すことが必要である。

 児童生徒によっては、不登校の時期が、いじめによるストレスから回復するための休養時間としての意味や、進路選択を考える上で自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つこともある。しかし、同時に、現実の問題として、不登校による学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在する。

 実際、「平成18年度不登校実態調査」では、379人の不登校経験者にインタビュー調査を実施しているが、「行かないことも意味があった」という不登校に対する肯定的な意見が回答者の32.6%、「行けば良かったと後悔している」という否定的な意見が回答者の39.4%、「仕方がない又は考えないようにしている」等の中立的な意見が、28.1%という結果になっている。不登校であったことに対する肯定的な意見では、「不登校を経験したおかげで今の自分がいる」や、「不登校を経験したことで出会いや友人の大切さを知った」というものがあった。不登校であったことについて否定的な意見では、「当時は授業が嫌いで遊ぶのが好きというだけだった」、「一般知識や対人関係の経験に乏しい点が悔やまれる」や、「不登校となったことで友人関係もなくしてしまった」というものがあった。中立的な意見は、「当時は不登校をするしかなかったから仕方がなかった」、「過去のことは考えても仕方がない」などであった。同調査におけるインタビュー結果は本来、単純に「肯定・否定・中立」などと分類できるものではないが、不登校経験者が様々な気持ちを抱えながら当時を振り返っていることが分かる。同調査時点において、肯定的に捉えている者がいる一方で、何らかの後悔をしている者もいることから、教育関係者は不登校児童生徒一人一人の課題や立場に寄り添いつつ支援することの重要性を改めて認識する必要がある。

2 学校教育の意義・役割

(1)学校教育の責務

 不登校児童生徒への支援の最終的な目標である児童生徒の将来の社会的自立を目指す上で、対人関係に係る能力や集団における社会性の育成などの「社会への橋渡し」を図るとともに、学びへの意欲や学ぶ習慣を含む生涯を通じた学びの基礎となる力を育てる「学習支援」の視点が重要である。そのような「社会への橋渡し」や「学習支援」の視点から、特に義務教育段階の学校は、各個人の有する能力を伸ばしつつ社会において自立的に生きる基礎を培い、また、国家及び社会の形成者として必要とされる基本的な資質を養うことを目的としており、その役割は極めて大きい。したがって、学校・教育関係者は、全ての児童生徒が、学校に自己を発揮できる場があると感じ、自分と異なる多様な特性を受容し合えるような集団づくりを通して、楽しく、安心して通うことができるよう、学校教育の一層の充実のための取組を展開していくことが重要である。同時に、児童生徒が不登校となるきっかけには学校に起因するものもあることから、その改善に向けて取り組むことが必要である。

(2)児童生徒の可能性を伸ばす取組

 学校は、全ての児童生徒が自己の能力を発揮でき、楽しく通える学びの場であるべきである。特に、義務教育においては、一人一人の能力・適性、興味・関心等に応じた教育であることが求められ、児童生徒に対し基礎的・基本的な知識・技能を確実に習得させるとともに、自ら学ぶ力や創造的な能力などを育成し、児童生徒個々の可能性を伸ばす教育が必要である。

 学校になじめない児童生徒の社会的自立を支援する観点から、学校内外を通じた支援を充実することが必要である。既存の学校教育になじめない児童生徒については、学校としてどのように受け入れていくかを検討し、なじめない要因の解消に努める必要がある。児童生徒の才能や能力に応じてそれぞれの可能性を伸ばせるよう、本人の希望を尊重した上で場合によっては、教育支援センターや不登校特例校、ICTを活用した学習支援、フリースクール、夜間中学での受入れなど様々な関係機関等を活用し社会的自立への支援を行うことが考えられる。

 また、学習支援については、地域人材による学習支援(地域未来塾等)などを活用することも考えられる。

 なお、フリースクールについては、国において不登校児童生徒の状況に応じた教育支援体制を図るため平成27年度補正予算においてモデル事業を実施しているが、多様な教育機会確保の観点から引き続き実施することが適切である。

(3)個別の児童生徒に応じたきめ細やかな組織的・計画的支援

 不登校児童生徒への支援については、個々の児童生徒ごとに不登校となったきっかけや不登校の継続理由が異なることから、それらの要因を的確に把握し、個々の児童生徒に応じたきめ細やかな支援策を策定することや、社会的自立へ向けて進路の選択肢を広げる支援をすることが大切である。そのためには、学校関係者や家庭、必要に応じて関係機関が情報を共有して、組織的・計画的に支援することが重要である。

 また、関係機関と連携した支援においては、不登校児童生徒への支援を担う中心的な組織として新たなネットワークを構築することも一つの手段であるが、不登校児童生徒を積極的に受け入れる学校や関係機関等からなる既存の生徒指導・健全育成等の会議等の組織を生かすなどして、効果的かつ効率的に連携が図られるよう配慮することが重要である。

 その際、学校や教育行政機関が、多様な学習の機会や体験の場を提供するフリースクールなどの民間施設やNPO 等と積極的に連携し、例えば、学校の教員等が民間施設と連絡を取り合い、互いに訪問する等の具体的行動をとるなど、相互に協力・補完し合うことの意義は大きい。

 また、当該ネットワーク組織においては、不登校児童生徒への事後的な対応のみならず、幼稚園(保育所)・小学校・中学校・高等学校・高等専門学校及び高等専修学校等の縦の連携を重視して、個々の児童生徒が抱える課題に関して、情報交換し、必要に応じて対策を協議するなどして、一人一人の児童生徒が自己の存在感や自己実現の喜びを実感できる学校教育の実現に向けて、日頃から連携を図ることが望まれる。

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