不登校児童生徒への支援に関する最終報告 ~一人一人の多様な課題に対応した切れ目のない組織的な支援の推進~(抜粋)
トピック教育課題
2019.07.01
目次
第4章 不登校児童生徒に対する支援における重点方策
第3章の不登校児童生徒への支援に対する基本的な考え方に基づき、今後の不登校施策の中で重点的に取り組むべき方策として、次のことが必要であると考える。
○困難を抱える児童生徒には、「児童生徒理解・教育支援シート」を作成するなど、個々の児童生徒に合った支援計画を策定し、その児童生徒を支援する関係者により、組織的・計画的な支援を実施すること。
○学校での教育の実施を原則としつつ、特別な事情がある児童生徒には、児童生徒の特性に合った一人一人の学び方を尊重し、多様な教育環境を提供できるよう、教育委員会等において学習機会を保障すること。
○市区町村教育委員会における教育支援センターの整備を含めて、不登校児童生徒個々に応じた支援や学習機会を確保する体制を整備すること。
1 「児童生徒理解・教育支援シート」を活用した組織的・計画的支援
(1)先進事例における取組
本協力者会議において、不登校児童生徒への支援の改善に先進的に取り組んでいる自治体や学校からのヒアリングを行った。その中で、学校において不登校児童生徒一人一人の欠席状況、不登校となったきっかけ、関係機関との連携状況、本人及び保護者の希望、具体的な支援策、成果や見直しの経過を記録し、共有することで、学校内外と組織的、計画的に支援を行っている自治体(東京都、横浜市)の事例が紹介された。学校からは「本人に寄り添った支援ができた」、「教職員の役割分担が明確になり、意識が深まった」、「様式を活用することで、支援のアイディアが増えた」、「書き加えたり、変更したりすることで、引継ぎがスムーズになる」などといった効果があったことが示された。なお、横浜市では、不登校児童生徒数(小・中学生)が、平成21年度は3,862人、平成25年度は3,411人であり、4年間で451人減少している。
(2)基本的考え方
不登校児童生徒への効果的な支援については、学校及び教育支援センターなどの関係機関を中心として組織的・計画的に実施することが重要であり、また、個々の児童生徒ごとに不登校となったきっかけや不登校の継続理由を的確に把握し、その児童生徒に合った支援策を策定することが重要である。そのためには、状況に応じて学級担任、養護教諭、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等の適切な学校関係者が中心となり、児童生徒や保護者等と話し合うなどして「児童生徒理解・教育支援シート」を作成することも有効な施策であると考えられる。その際、必要に応じて関係機関によるコンサルテーション(より良い支援の在り方についての検討)を行うことが重要である。また、その進捗状況に応じて、項目の見直しなど定期的に「児童生徒理解・教育支援シート」を見直すことも必要である。
「児童生徒理解・教育支援シート」の作成については、不登校の定義である年度間で30日以上の欠席に至った時点では確実に作成することが望ましい。ただし、欠席日数のみに捉われず、遅刻や早退などにも着目し、不登校が危惧された時点で迅速に組織的な計画を立てて支援することは、非常に有効であることから、児童生徒の状況に合わせて柔軟に作成することも期待される。例えば、初期段階では、欠席が目立つ児童生徒の記録として事実関係を記載できる範囲で記載し、その児童生徒の状態に合わせて段階的に作成・活用していくことも有効と考えられる。
また、不登校を生じさせない観点から、いわゆる教務日誌等において、全ての児童生徒を対象として、学級担任が日常観察の中で把握した学習上の課題や社会的自立に当たっての課題を他の教員等からも情報を得ながら記録・保管し「児童生徒理解・教育支援シート」の作成に当たって活用することも有効である。なお、教務日誌に記録・保管する際には、個人情報の保護に留意する必要がある。
なお、「児童生徒理解・教育支援シート」の作成について、全国的な実施を促す観点からモデル的なフォーマット(ひな型)として「児童生徒理解・教育支援シート」(試案)(別添参照)を掲げた。この(試案)は共有すべき必要最低限の情報を盛り込んでいるが、今後、各学校において記載項目をカスタマイズ(実態に応じた改良改善)して使用されることが望まれる。
(3)留意事項
学校においては、指導要録や出席簿のほか、特別な教育的支援を必要とする児童生徒に対する「個別の教育支援計画」や外国人児童生徒に対する指導計画等、児童生徒の課題の状況によって様々な表簿や支援計画が作成されている。それらの基本的情報は共通した内容もあることから、校務の効率化の観点から、現在整備が促進されている「統合型校務支援システム」も活用し、記載内容が連動する仕様とすることで、共通する内容の記述を反映させるなど、作成に係る業務を効率化することも重要である。
また、これらの情報は関係者間で共有されて初めて支援の効果が期待できるものであり、児童生徒を支援するネットワークとして、「横」は学校、保護者を始め、教育委員会、教育支援センター、医療機関、児童相談所、警察などの関係機関、「縦」は幼稚園(保育所)、小学校、中学校、高等学校、高等専門学校及び高等専修学校等で情報を共有し、広く組織的・計画的な支援ができるようにすることが重要である。なお、関係者での情報の共有に当たっては、共有する関係者を明らかにするとともに、相手方が守秘義務を負っているか否かをあらかじめ確認しておく必要がある。
なお、個人情報保護条例などで一般的には非開示となっている個人情報のみを記載した純然たる内部用文書や教務日誌等についても、任意の様式により、必要に応じて作成し、保管・共有することも考えられる。
このような取組を推進するため、不登校を生じさせないための学校内における計画策定、学級担任、養護教諭や生徒指導主事、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーとの連絡調整、「児童生徒理解・教育支援シート」の取りまとめ等、学校として組織的な対応を行うため不登校対策について中心的かつコーディネーターとしての役割を果たす教員を明確に位置付けることが必要である。実際に、本協力者会議においても不登校児童生徒への効果的な支援として、学校に、関係者並びに部署との連絡調整、情報収集及び連携協力を担うコーディネーターを配置した事例が示されており、連携協力の要となるこのようなコーディネーター等の人的措置の充実が必要である。
2 不登校児童生徒に対する多様な教育機会の確保
不登校児童生徒一人一人の状況に応じて、教育支援センター、不登校特例校、フリースクールなどの民間施設やNPO、ICTを活用した学習支援など、多様な教育機会を確保する必要がある。また、多様な学習機会の確保の観点から、例えば、夜間中学において、本人の希望を尊重した上での受入れも可能である。
都道府県と市町村がよく連携し、不登校特例校の制度を活用した学校や分校、分教室の設置を検討していくことも重要なことである。
また、不登校児童生徒が自宅においてIT等を活用した学習活動を行った場合に、一定の要件のもとで指導要録上の出席扱いとすることができるとされており、平成17年7月6日付け文部科学省初等中等教育局長通知(17文科初第437号)においてその要件や留意事項を示している。国は、通知で示した内容や事例等について引き続き学校関係者に周知を図るとともに、取扱いの実態や課題等を把握することが必要である。また、例えば、学校関係者が、不登校児童生徒に対して、学習支援につながる情報等をICT等を活用して積極的に発信することも考えられる。
このような現行制度内で行うことができるICTを活用した取組については、国の通知の発出等によりそれを明確化することが考えられるほか、現場のニーズを施策に的確に生かしていくための調査研究等を行っていくことが考えられる。
さらに、ICT教材開発やそれらの情報配信なども含め、制度の活用を促進する必要がある。
3 教育支援センターを中核とした体制整備
教育支援センターについては、「平成15年報告」において「適応指導教室整備指針(試案)」を作成し、不登校児童生徒の学校復帰を支援する機関として整備してきたところ、平成5年度の設置数372か所に対して、平成18年度は1,164か所、平成26年度は1,324か所と着実に整備が進んでいる。また、小中学校の不登校児童生徒の教育支援センターの利用状況は、平成5年度は8.0%であり、平成18年度は13.0%、平成26年度は12.1%となっている。
これまでの教育支援センターは不登校児童生徒のうち、通所希望者への支援が中心であったが、不登校児童生徒への支援に関する知見や技能が豊富であることから、今後は、通所を希望しない不登校児童生徒に対しての訪問支援や、地域の人材を活用した訪問型支援を実施することや、「児童生徒理解・教育支援シート」のコンサルテーションを担当するなど、不登校児童生徒の支援の中核となることが期待される。
一方、設置していない自治体が730自治体(全体の約40%)ある。不登校は特定の児童生徒にのみ起こるものでなく、どの児童生徒にも起こり得るものであるという認識の下、不登校児童生徒への学習支援など無償の学習機会を確保するため、また、これから期待される不登校児童生徒への支援の中核的な役割を果たしていくためにも、教育支援センターが設置されてない地域には、教育支援センターの設置、又はこれに代わる、不登校児童生徒を支援する体制整備を促進することが望まれる。既に教育支援センターが設置されている地域においても、訪問型支援など、不登校児童生徒をより一層支援する体制を整備する必要がある。そのためにも、人的措置の充実や不登校児童生徒への指導に関して一定の成果を果たしているスクールカウンセラーの配置等が望まれる。なお、教育支援センターの設置促進に当たっては、例えば、自治体が施設を設置し、民間の協力のもとに運営する公民協営型の設置等も考えられる。
国においては、教育支援センターが設置されていない地域への設置促進や訪問型支援などの教育支援センターの機能強化に関するモデル事業の実施や、通所している児童生徒へのカウンセリングなどを充実させるため、教育支援センターへのスクールカウンセラー配置に関する自治体への財政支援を行っている。教育支援センターのなお一層の設置促進及び機能強化を図る必要があるため、引き続きモデル事業及び財政支援を実施することが適切である。