不登校児童生徒への支援に関する最終報告 ~一人一人の多様な課題に対応した切れ目のない組織的な支援の推進~(抜粋)
トピック教育課題
2019.07.01
目次
3 不登校の理由に応じた働き掛けや関わりの重要性
不登校児童生徒が、主体的に社会的自立や学校復帰に向かうよう、周囲の者は、その環境づくりや働き掛けを行うことが必要である。「平成18年度不登校実態調査」においても、「不登校のきっかけ」と「不登校の継続理由」の関連や「不登校だった当時にほしかった支援」と「現在必要としている支援」の関連は強い相関が示されたところであり、児童生徒自身を見守ることも大切だが、その環境づくりのためにも適切な支援や働き掛けをする必要がある。
不登校のきっかけや継続理由は様々であり、その支援も個々の児童生徒によって異なる。例えば、「無気力型」には、達成感や充実感を繰り返し味わうことで自己有用感・自己肯定感を高めることが登校につながる。また、「遊び・非行型」には、まずは決まり事を守らせるき然とした教育的な指導を行うことや、規則的な生活リズムを身に付けさせること、学ぶことに興味を持たせることが登校につながる。「人間関係型」には、まずはきっかけとなった人間関係のトラブルを解消することが登校につながる。なお、いずれの場合も、不登校期間における学習の遅れは同時に改善しなければならない。また、不登校の類型は一つの状態を示しているにすぎず、児童生徒の成長過程や、関わりにより状態が変化していくことに留意する必要がある。
4 家庭への支援
家庭教育は全ての教育の出発点であり、人格形成の基礎を培う重要な役割を担っており、家庭の教育力の向上を目指して様々な施策の推進を図ることは極めて重要である。しかし、不登校児童生徒への支援を行う上では、不登校の要因を一部の保護者の固有の事情のみに見いだそうとするのではなく、子育てを支える環境に変化が生じている社会全体の状況にも目を向けつつ、不登校児童生徒の保護者の個々の状況に応じた働き掛けをしていくことが大切である。
第2章1(3)に記載したとおり、家庭への直接的な働き掛けが不登校児童生徒への支援において最も効果があるが、不登校の要因・背景は多様化しており、虐待等の深刻な家庭の問題などにより、福祉や医療行政等と連携した保護者への支援が必要な場合もあれば、児童生徒の非行への対応や生活習慣、教育環境の改善のための支援を必要としている場合、保護者自身が子育てに対する自信を失っていたり、就労等の事情で子育てに関わる余裕がなく、支援を必要としている場合等もある。また、保護者自身に、不登校となった児童生徒への支援に関する情報がなく、対応が遅れている場合もある。
このような場合には、児童相談所、市町村及び要保護児童対策地域協議会等の福祉機関を活用して家庭の状況を正確に把握する必要がある。その上で、時機を失することなく児童生徒本人のみならず家庭への適切な支援や働き掛けを行うため、家庭と学校、関係機関の連携を図ることが不可欠である。その際、保護者への働き掛けが保護者の焦りや保護者自身を追い詰めることにつながり、かえって事態を深刻化させる場合もあることから、保護者に対しては、児童生徒への支援等に関して、課題意識を共有して一緒に取り組むという信頼関係をつくることが重要である。その意味から、不登校に関する相談窓口の情報提供、不登校児童生徒への訪問時における保護者への助言、家庭教育支援チーム等による相談対応や訪問型支援等、不登校児童生徒の保護者が気軽に相談できる体制を整えることが求められる。また、その際、既存の保護者同士のネットワークとの連携協力を図ることや、そのようなネットワークづくりへの支援を通じて、保護者を支援することも考えられる。なお、そのようなネットワークに学校の教員やスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー等が積極的に参加し、意見交換をするという姿勢も大切である。
さらに、不登校となった児童生徒の保護者のみならず、保護者全般に対して不登校への理解を深めるセミナー等の実施、就学時健診や乳幼児健診等の保護者が集まる機会を活用した家庭教育学級・子育て講座の実施、思春期の子供を持つ保護者向けに作成された資料等の活用など、子育てについての悩みや不安を持つ保護者に対する支援の充実を図ることが重要である。
「平成18年度不登校実態調査」において、中学校3年時に不登校を経験した生徒の5年後の状況を調査したところ、8割を超す生徒が「学校に通っている」又は「働いている」と回答している。不登校に関する悩みや不安について、保護者が一人で悩まず、焦らず、学校の教員やスクールカウンセラー、地域の教育相談機関、子育て支援機関等に相談することが第一歩であり、その行動が、結果的に児童生徒の適切な支援につながる。