教師のためのメンタルケア入門

奥田弘美

リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[第8回]ストレスに対抗する心の力をつけるその①「視点の転換」

学校マネジメント

2020.05.16

新型コロナウイルス感染症対策に伴う急激な環境の変化や病気への不安により、いわゆる自宅でコロナ鬱(うつ)に悩む方が増えています。ご自身やご家族に問題がなくとも、一緒に働く方の心の健康は大丈夫でしょうか。ここでは、精神科医・産業医として活躍する奥田弘美先生が学校の管理職層向けにメンタルヘルスを親しみやすく解説した「リーダーから始めよう! 元気な職場をつくるためのメンタルケア入門」(『学校教育・実践ライブラリ』連載)を12回にわたってご紹介いたします。(編集部)

リーダーから始めよう! 
元気な職場をつくるためのメンタルケア入門[第8回]
ストレスに対抗する心の力をつける その①「視点の転換」

精神科医(精神保健指定医)・産業医(労働衛生コンサルタント)
奥田弘美

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.8 2019年12

 今回からは、ストレスに対抗するための心の力をアップするヒントを4回に分けてご紹介していきます。

 まずは「視点を転換する」方法について述べたいと思います。私たちは大きなストレスに遭遇したとき、寝ても覚めてもそのことで頭の中がいっぱいになってしまいます。そのストレスが大きければ大きいほど、頭の中は混乱していますから、柔軟なものの見方ができず一つの視点に凝り固まってしまいやすくなります。

 そんなときは、まずは凝り固まった(フリーズした)視点の転換を図っていくことから始めましょう。次に大きなストレス下におかれたとき、陥りやすい視点のフリーズ・パターンと、転換のヒントを示します。全てがそのときの状況に当てはまらないかもしれませんが、自分にしっくりくるものがあれば、ぜひ活用してください。

●視点の転換その1

フリーズパターン
「完全に失敗してしまった」
「ああもう全く駄目になった」
→転換のヒント
「99%駄目でも、1%残っていることはないだろうか?」
「10%でもできたこと、得たことはないだろうか?」

 思うような結果がでなかったとき、「完全に失敗した、駄目になった」というのは、完璧主義の人ほどとらわれてしまう考え方です。物事が完璧にできなければ、決してOKを出すことができません。この傾向のある人は、特に大きな挫折や失敗に直面したときには、できなかったことやマイナス面ばかりに視点が向いてしまい、過剰な絶望感に陥ってしまいます。

 こんなときは、例のように1%の可能性でもいいから目を向ける、もしくは10%でも達成できたこと、得たことを認めてあげるという視点の転換をしてみましょう。今回の経験で何か一つでもできたことや、学んだこと、自分に残っている可能性などをひねり出して、書き上げてみましょう。次第に心が落ち着いてきます。

●視点の転換その2

フリーズパターン
「いつも私はこうなのだ」
「これからも、きっと上手くいくはずがない」
→転換のヒント
「上手くいかない原因が分かった。ここを改善すると次はきっと良くなる」
「人生で、全く同じことは絶対に起こらない」

 大きな失敗や挫折を経験したとき、自分への自信がなくなって、「私は、いつもこうなのだ」と過度に一般化したり、「きっとこれからも、上手くいかない」と将来をも決め付けてしまったりするときがあります。

 こんな気持ちにとらわれてしまったときは、「次はきっと良くなる」「まったく同じことは起こらない」というセリフを、声に出して唱えてみましょう。今回失敗したということは、上手くいかない原因が一つ判ったということですから、冷静に考えると次に成功する確率は増えています。また実際、一日として同じ日がないように、人生で同じことが起こることは、滅多にありません。それらを、まずは自分自身に気付かせてあげましょう。

●視点の転換その3

フリーズパターン
「あ〜あ、もうどうにでもなれ。私には所詮、無理だったんだ」
「こんな状況には耐えられない。もう投げてしまえ」
→転換のヒント
「朝の来ない夜はない」
「終わりのないトンネルはない」
「冬のあとには必ず春がくる」
「今は虹を出すために、雨が降っているだけ」

 大きなストレスを抱えているときは、病的に悲観的な心理状態となります。自分の未来が真っ暗に見えて、絶望的になったり、全て投げ出してしまいたくなります。そんなときこそ、上記の4つのフレーズうち、ピンとくるものを声に出して、何回も唱えてみてください。

 これらの言葉には、未来に向かって前進していくためのポジティブなパワーがこもっています。今の状況が永遠に続くものではないということに気が付くと、捨て鉢になったり、あきらめてしまったりする気持ちにブレーキがかけられます。

●視点の転換その4

フリーズパターン
「みんなが私を非難している」
「全て自分のせいだ」
→転換のヒント
「みんな、全て、誰も、ということは、絶対にありえない」

 ストレスによってエネルギーレベルが下がっていくと、気持ちが抑うつ的となり、被害的な思考が湧きやすくなります。例えば周りの人が全て自分の悪口を言っているように思えたり、みんな自分のせいだと過度に決め付けてしまったり......。

 そんなときには自分自身に、はっきりと「全て、みんな、誰もが、では、決してない」と宣言してあげましょう。そして、「たしかに一部は、そうかもしれないが、そうじゃない人(部分)も存在する」と視点を転換します。

 実際に、その集団から一歩出れば、自分のことを知らない人がほとんどです。また友人、家族といったプライベートな人間関係には、自分の味方が必ずいるはず。そのことに気付くと、過度な被害妄想から立ち直りやすくなります。

 

Profile
おくだ・ひろみ
平成4年山口大学医学部卒業。都内クリニックでの診療および18か所の企業での産業医業務を通じて老若男女の心身のケアに携わっている。著書には『自分の体をお世話しよう~子どもと育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

この記事をシェアする

特集:気にしたい子供への指導と支援~外国につながる子・障害のある子・不登校の子の心をひらく~

お役立ち

学校教育・実践ライブラリVol.8

2019/12 発売

ご購入はこちら

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中

関連記事

すぐに役立つコンテンツが満載!

ライブラリ・シリーズの次回配本など
いち早く情報をキャッチ!

無料のメルマガ会員募集中

奥田弘美

奥田弘美

精神科医(精神保健指定医)・ 産業医(労働衛生コンサルタント)

平成4年山口大学医学部卒業。都内クリニックでの診療および18か所の企業での産業医業務を通じて老若男女の心身のケアに携わっている。著書には『自分の体をお世話しよう~子どもと育てるセルフケアの心~』(ぎょうせい)、『1分間どこでもマインドフルネス』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

閉じる