ここがポイント!学校現場の人材育成
ここがポイント!学校現場の人材育成[第10回]学校管理職の確保・育成〈その3〉
学校マネジメント
2020.04.07
ここがポイント!
学校現場の人材育成
[第10回]学校管理職の確保・育成〈その3〉
明海大学副学長
高野敬三
(『学校教育・実践ライブラリ』Vol.10 2020年2月)
●本稿のめあて●
学校管理職候補者や現職の学校管理職の育成の現状に関して、国立教育政策研究所が実施した調査報告書の概要をもとに、その課題等について紹介します。その上で、教育委員会が実施する研修について、今後の方向性を考えていきます。
前号においては、学校の管理職候補者の減少という大きな課題に対して、どのように解決して管理職候補者を確保するかという視点を中心に見てきましたが、今回は、管理職候補となった教員や現職の学校管理職となっている校長、副校長・教頭に対する育成はいかにあるべきかを中心に考えていきます。
学校管理職候補者及び現職学校管理職に対する育成方策
学校の管理職候補者選考試験に合格したからといって、すぐに現場の管理職としての力量が発揮される保証はありません。また、現に学校現場で管理職として毎日業務をこなしているからといって、管理職としての資質・能力に磨きをかける取組をしなければ、保護者や地域社会から期待される学校づくりはできないと考えます。
このことに関して、興味深い調査があります。それは、「学校管理職育成の現状と今後の大学院活用の可能性に関する調査報告書」(平成26年3月)というもので、現・(独)教職員支援機構次世代教育推進センター長の大杉昭英氏が研究代表者として、全国67ある都道府県教育委員会と指定都市教育委員会や教育センターに対して調査を実施してまとめたものです。ここでは、いくつかのポイントを紹介します。
①10年前と比較して学校管理職に特に求める資質・能力が変化していると回答した教育委員会は約4割、重視する資質・能力として、危機管理、地域連携、マネジメント、人材育成を挙げている。
②学校管理職候補者の育成・確保に課題が多い(課題がある)とした教育委員会は約6割であり、課題の内容としては確保方策や若手教員の資質・能力の向上となっている。
③学校管理職候補者の育成・確保の手立てとして取り組んでいるものは、「将来の学校管理職育成における自らの役割の重要性を現職学校管理職に喚起する働きかけ」などが多くなっている。
④現職学校管理職の育成に課題が多い(ある)とした教育委員会は3割に止まり、7割の教育委員会は学校管理職育成について肯定的に捉えている。
⑤現職学校管理職の育成の手立てとして取り組んでいるものは、「任用初年度に新任学校管理職研修を行う」「新任か否かを問わず学校管理職全員を対象とした研修を行う」「新任学校管理職に対して教育委員会が訪問指導を行う」などが多くなっている。
⑥7割の教育委員会は、学校管理職候補者が実際に学校現場の管理職となる前に行う研修(任用前研修や着任前研修)を行っていない。
調査報告書からみえる課題と解決方策
まずは、学校管理職候補者の育成・確保です。多くの教育委員会で課題があるとしているものの、現職学校管理職に対する若手教員の発掘喚起に腐心をしているだけで、仕組みづくりがあまりなされていません。将来、学校管理職として嘱望される若手教員に手を伸ばし、行政または大学等教育機関がその仕組みづくりをすることが今以上に求められます。東京都では、かなり前から、教育行政研修として、学校管理職予備軍に、直接、手を入れて管理職を育てたり、教職大学院派遣研修を実施しています。
次に、現職学校管理職の育成についてです。多くの教育委員会で任用初年度に新任学校管理職研修を実施したり、全管理職に対して研修を実施して、あまり課題はないとしていますが、どうでしょうか。研修の成果はどのように検証しているのでしょうか。また、現職学校管理職は満足しているのでしょうか。残念ながら、あまりそのような評価は私のところには届きません。管理職選考を合格して現に管理職として学校を治めているのですから、児童生徒、保護者や地域社会から「教育者」として尊敬されるような人材とする研修内容としなければならないと思います。決して、「教育行政受けする」現職学校管理職だけを育成してはいけないと考えます。
さらに、学校管理職候補者が管理職として自立する前に実施する任用前研修または着任前研修についてです。約7割の教育委員会ではそのいずれも実施していないということに驚きを感じます。多くの「候補者」は、実際、学校現場で「候補者」が取れて、正に、学校管理職となったときには、現実との乖離に戸惑い、悩み、自己の適性に疑問が生じることもあります。東京都では、教育管理職候補者に対して、原則4年間または2年間(教育管理職候補者A、B)研修を実施しています。
今後の学校管理職等に対する育成方策
まずは、研修をだれが行うかです。どの教育委員会でも、研修講師となっているのは、教育委員会や教育センターの指導主事、行政系の管理職が主です。場合によっては、外部の一般企業や大学の教員を講師とすることもあります。もっと多彩な外部人材を講師とすべきです。
次に、研修内容です。残念ながら、研修内容が、国や当該教育委員会の実施又は実施予定の教育行政の施策の説明やその手続きに関すること、人事関係、教育課題に関することが大半を占めていると聞いています。学校管理職を集めて行う研修では、日ごろの学校経営から離れて、そもそも「教育とは」「学校とは」に関して洞察を深める内容とすべきです。
さらに実施方法も課題です。多くの場合、集合研修という形式をとり、研修時間の節約のため講義型、説明型が多いのも実情です。研修のコマの中には、演習型も取り入れ工夫している教育委員会もありますが、どうも管理職候補者や現職の学校管理職にとって、あまり自分の学校に還元できるものではないことが多いと聞いています。昨今の学校における働き方改革を推進するためには、集合研修という形態ではなく、所属校に居るままで研修受講ができるオンラインといった形態をとることも必要です。
特に、平成28年11月に「教育公務員特例法等の一部を改正する法律」が公布され、公立の小学校等の校長及び教員の任命権者に、国の指針を参酌して、校長及び教員としての資質の向上に関する指標及びそれを踏まえた教員研修計画を策定することが義務付けられました。こうした状況の中にあっても、上に述べたことを基本として学校管理職候補者及び現職学校管理職の育成を行うことが必要です。
Profile
明海大学副学長
高野敬三
たかの・けいぞう 昭和29年新潟県生まれ。東京都立京橋高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、都立飛鳥高等学校長、東京都教育庁指導部長、東京都教育監・東京都教職員研修センター所長を歴任。平成27年から明海大学教授(教職課程担当)、平成28年度から現職、平成30年より明海大学外国語学部長、明海大学教職課程センター長、明海大学地域学校教育センター長を兼ねる。「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会議」委員、「中央教育審議会教員養成部会」委員(以上、文部科学省)を歴任。