ここがポイント!学校現場の人材育成

高野敬三

ここがポイント!学校現場の人材育成[第9回]学校管理職の確保・育成〈その2〉

学校マネジメント

2020.04.03

ここがポイント!
学校現場の人材育成

[第9回]学校管理職の確保・育成〈その2〉

明海大学副学長
高野敬三

『学校教育・実践ライブラリ』Vol.9 2020年1月

●本稿のめあて●
学校管理職候補者の減少の要因は、今日的学校教育の課題の複雑化等にあるかと思われます。今回は、誰かが必ずその任につかなければならない管理職候補者の発掘と育成について、その課題解決のヒントを見ていきます。

 前号においては、全国的にみて学校の管理職候補者の減少が大きな課題となっていることを紹介しました。その要因は複雑であり、どの自治体でも苦慮していることと思います。検討委員会を立ち上げ、何とか候補者増を図ろうと取り組んでいることは分かりますが、その多くは、管理職候補者に関する選考の改善や管理職候補者に対する研修に的が絞られているように見えます。本稿では、将来の学校管理職候補者の確保に焦点を当てて考えていきたいと思います。

学校における管理職候補者の確保

 では、如何に管理職受験者を増やすかが課題となります。ここでは、その課題解決のためのいくつかのポイントを見ていきましょう。まずは、現職の校長等による将来の学校管理職候補者の発掘と育成です。

(1)校長、副校長・教頭の人間性の涵養
 学校の管理職が自分の学校の教員の掘り起こしをするといっても、当の本人が人間的魅力をもっていなければ、教員を学校管理職へと導くことは不可能です。学校の教員の人材育成を行う校長、副校長・教頭の人間的魅力、とりわけ幅広い教育観が欠落していては、管理職となりたい教員を発掘・育成することはできません。卑近な例ですが、筆者が平成元年に指導主事試験を受けようと決心したのは、当時のこうした校長からの勧めによるものでした。人間的魅力満載の当時の校長は、「本校の生徒の英語力向上に成果を挙げている君のような方が、都教委育委員会に行って200校の英語の教員を指導して、その結果、すべての教員が君のようになれば、そうした教員に教えられた都立高校生全員の英語の力は格段に上がると思う。指導主事試験を受験してみてはどうか」と言われました。尊敬していた校長から言われた筆者は、当然、試験を受けることとなりました。横柄な校長、権柄づくの校長では、私の心を揺さぶることはできなかったと思います。

(2)校長、副校長・教頭による人材発掘
 学校現場には、様々な教員がいます。まずは、若手・中堅の教員で資質のある教員を見つけることです。そのような教員の中には、必ず将来学校管理職として期待できる教員はいるはずです。東京都では、現在、主任選考→主幹選考→教育管理職選考合格の手順でしか学校管理職とはなれませんが、まずは、主任と主幹候補者として優れた資質・能力のある教員を発掘することです。筆者が1年ではありますが、都立高校の校長として在職していたときには、「親の遺言で学校管理職にはなりません」といった女性教員に対しては、「親の遺言は分かったが、私の話も聞いてから判断してほしい」と言って、頻繁に空き時間を活用して何べんとなく説得したことがあります。私の説得に負けたその教員は、現在、都立高校の校長として勤務しています。もう一人、頑として説得を受け入れなかった男性教員は、現在、都立高校の副校長として勤務しています。校長が一人、副校長・教頭が別の一人の学校管理職候補者を発掘すれば、1校で2名の学校管理職候補者が生まれます。大雑把に都立学校200校とすれば、1年で400人の学校管理職候補者が生まれます。校長、副校長・教頭の職務は多岐にわたっていますが、次代の学校管理職の発掘もまた重要な職務であることを肝に銘じなければなりません。

(3)校長、副校長・教頭による人材育成
 いったん人材を発掘したならば、次は人材育成です。当然、学校管理職はすべての所属職員に対する人材育成の責任を負ってはいますが、学校管理職の道を目指すと決意した教員に対しては、ことのほか、意図的・計画的に精力的に管理職としての「王道」を伝授していかなければなりません。注意しなければならないのは、選考試験合格のための「近道」の勉強会主宰ではなく、管理職としての「モノの考え方」について幅広く吸収させるようにしなければなりません。広く言えば、これからの学校教育の目指すべき方向性、子供の育て方、組織としての学校の在り方、保護者対応、地元住民対応など様々な課題が学校には山積しています。このような課題に対する校長、副校長・教頭の考え方は日ごろの言動で明らかとなるものです。校長、副校長・教頭の「モノの考え方」を通して、学校管理職を目指した教員は成長するのです。

教育委員会における管理職候補者の確保

 次に大切なのは、教育委員会における管理職候補者の発掘と育成です。これは、学校における管理職候補者の確保と両輪を成す取組として重要です。

(1)教育委員会による学校訪問
 日ごろから、教育委員会では、管理下にある学校を訪問(定期訪問、指導訪問等)して、学校現場の実情把握に努めています。校長、副校長・教頭に対する指導助言は大切ですが、教員情報もこまめに集めるべきです。教員に関する情報については、こうした地道な学校訪問でしか得られない情報です。また、指導主事は研修訪問を行ったり、研修センターにおける集合研修をすることが多くあります。そのような場合、教員の授業や発表を参観し、教員と直接話し合うことの利点があります。校長、副校長・教頭からのセカンドハンドの情報ではなく、このような「直接情報」は特に有用です。

(2)管理職候補者育成のためのシステムづくり
 教員の情報収集だけではなく、教育委員会における主体的なシステムづくりは重要です。東京都では、都内小・中・高・特別支援学校の採用4年目以降の教員対象に、原則2年間、各教科・領域、学校経営に関する研修の場として、「東京教師道場」を開設しました。そして、この「道場」修了者のうち、さらに優れた教員対象に「東京都教育研究員」、さらには、「東京都研究開発委員」という指名制の研修制度を設けて、管理職候補者の発掘・育成のシステムづくりをしています。

 これら二つの取組は、別に東京都だけに限ったことではなく、全国的にも同様な取組が実施されてはいますが、特に、現場の教員の資質・能力を見抜くことのできる指導主事の役割が大切です。

 

Profile
明海大学副学長
高野敬三

たかの・けいぞう 昭和29年新潟県生まれ。東京都立京橋高校教諭、東京都教育庁指導部高等学校教育指導課長、都立飛鳥高等学校長、東京都教育庁指導部長、東京都教育監・東京都教職員研修センター所長を歴任。平成27年から明海大学教授(教職課程担当)、平成28年度から現職、平成30年より明海大学外国語学部長、明海大学教職課程センター長、明海大学地域学校教育センター長を兼ねる。「不登校に関する調査研究協力者会議」委員、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会議」委員、「中央教育審議会教員養成部会」委員(以上、文部科学省)を歴任。

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