トラブルの芽を摘む管理職の直覚
トラブルの芽を摘む管理職の直覚 [第5回]「えっ!どうして…」学校給食のヒヤリ・ハット
学校マネジメント
2019.03.18
「えっ! どうして……」
保幼小連携がいわれ、小学1年生が“お店”を開いて招待した5歳児と一緒に遊ぶといった活動がよく実践されています。本校でも園児と縦割り班を組み“お店”をして店番とお客を交代して活動しています。過去にこの活動で、ヒヤリ・ハットがありました。アレルギーで牛乳パックや小麦粘土に、また、耳の手術で磁石に触れると危険な子供がいるにもかかわらず、それらを使ったお店があり、その対応策が十分ではなかったのです。当日朝にそれが分かり、安全が確認できるまで開始時刻を延ばしました。
食物アレルギーのヒヤリ・ハット
アレルギーを誘発するアレルゲンの量には個人差があり、ごく微量でも症状を起こしたり、食物アレルゲンは接触や吸入でも起きたりすることはよく知られた事実です。
平成25年8月の文部科学省の悉皆調査では、何らかの食物アレルギーがある公立小中高校の児童生徒は全国で約45万4千人(全体の4.5%)おり、約5万人(全体の0.5%)が特定の物質や食品に対し呼吸困難などのアナフィラキシー症状を起こした経験を持っていると報告されています。平成16年調査では、食物アレルギー疾患の児童生徒は約33万人(2.6%)、アナフィラキシーの経験者は0.14%でしたので増加しています。
アナフィラキシーは、より重篤な「アナフィラキシーショック」に進行すると死に至る危険性があるのはこれまでに学校給食で起きた痛ましい死亡事故が示しています。本校でも以前に、弁当があるのに普通食を配膳してしまった、保護者が大丈夫と言っていた魚で蕁麻疹が出たなどがありました。命にかかわることですので、その都度、誤食予防や緊急時の対応に関してマニュアルを改善し校内研修を強化しています。
事例を知る 事例から学ぶ
誤食事故の一因に、食物アレルギーに関する理解不足が指摘されています。そこで、給食が始まるまでに、食物アレルギーに関するヒヤリ・ハットや事故の事例の中から色々なものを選び、どのような事故がどのように起きたかを知る研修会を位置付けています。例えば、次のような内容(注)です。
○ 担任が不在時の給食で、アレルギー対応をすべき児童に普通食が配膳された•卵の調理をした鍋を十分洗わずに別の料理をして発症した
○ 親からサクランボは大丈夫と言われていたが口唇が腫れた
○ 小麦粘土をさわった友達の手に触れて発症した
○ これまで食べていたスパゲティーの給食の後に授業でサッカーをしていたら、蕁麻疹が出て意識を失くして病院へ搬送された
事故は起き得るものですので、緊急時には、誰もがエピペンの使用を含めた対応ができないといけません。先の文部科学省の調査では、エピペンを保持している子供は約2万7千人とのことです。アレルギー疾患における緊急時のエピペン使用は、医師法違反にはならず罪や賠償責任を負わないことや、副作用が問題になるのは稀で命の危険と天秤にかけると躊躇するよりは「迷ったら打つ」ことへの理解を徹底しています。研修会では、シミュレーションやロールプレイを取り入れています。先生の「残さないように」で果物を無理やり食べて発症した例もあります。子供の「大丈夫」「食べたことがある」「エピペンを打たないで」は額面どおりに受け取らないことも大切です。ボールが目に当たったら子供が「大丈夫」と言っても病院へ運ぶのと同じことです。
なお、こういった研修会の他に、関係教職員、給食調理員・委託業者、学校薬剤師とPTA委員で構成するアレルギー対応委員会を月1回開いています。
情報の把握と共有
担任不在時の対応や保護者の見落とし、思い込みなど、教職員間、教員と家庭との情報の共有不足も誤食事故の原因です。アレルギー対応の基本は、その子供の状態について医師の診断を踏まえた正確な把握(管理指導表の利用)、事故につながるリスク情報の収集、そしてその共有です。
事故予防では、給食の工程のチェックはもちろんのこと、事故リスクの評価、予防策の改善が求められます。とりわけ誤配といったヒューマンエラーをどう組織的に防ぐかが問われます。本校では、ヒヤリ・ハットがあった場合は、その経緯と改善策を全保護者に知らせています。これまでの改善例をいくつか以下に挙げます。
○ 「日報」(朝配付の職員用プリント)に、アレルギー対応を載せ全教職員が確認し、情報の共有化を図る。
○ アレルギー対応一覧表に加え、学年ごとに「給食前点検表」を作成。担任が前日にチェックし、学年主任と管理職が確認。不明点は保護者に連絡をとり、安全確認ができるまで給食をとめる。
○ 給食時間は、決められた確認作業(指さし声出し)を確実に行い、誤食を予防する。
こうした改善もマンネリ化が危惧されます。子供の自己管理能力を付けることに加え、外の目も入れて、定期的に安全対策を見直しています。
中山校長の目
- ❑ アレルギーに関して個々の子供の状態を正確に把握し、担任が不在でもサポートに入る教員が同等の対応ができるようになっているか
- ❑ 教職員の意識と行動に「疑わしきは確かめる」が徹底されているか
- ❑ 学校給食に限らず、授業や活動、校外学習でアレルギー症状が出る場合があることへの注意を常に払い予防に努めているか
[注]藤田保健衛生大学小児科免疫アレルギーリウマチ研究会「食物アレルギーひやりはっと事例集2017」や東京都教育庁「学校における食物アレルギー対応ヒヤリハット・ヒント事例集」など