みんなでやる だから楽しい!奥深い!――地域のリスクを見える化する『災害から命を守る「逃げ地図」づくり』のポイントとは?

学校マネジメント

2019.11.20

地域の防災意識を高め、信頼関係を構築できる防災活動として、「逃げ地図」が現在注目を集めています。(株)ぎょうせいの近刊『災害から命を守る「逃げ地図」づくり』(逃げ地図づくりプロジェクトチーム/編著)から、ワークショップ実施の際のポイントについて、内容の一部を抜粋してお届けいたします。(編集部)

みんなで逃げ地図をつくる

 逃げ地図は、白地図と色鉛筆と革ひもがあれば、ひとりで作成することもできます。作成する地域や範囲と縮尺、想定する災害によってかかる時間は異なりますが、 2~3時間あれば、作成可能でしょう。黙々と色を塗り、矢印をいれることも。決してつまらない作業ではありませんが、同じ地域に暮らすみんなでわいわい言いながらつくった方が楽しいですし、もっと短時間で作成することができます。何よりも、同じ地域に関わる様々な立場の人々の間で災害からの事案に関する情報を共有することができるし、逃げ地図を作成して気付いたことを意見交換すると、様々な視点からの意見や気付きを得ることができるでしょう。こうした対話や意見交換を通した意思の疎通は、その地域の災害のリスクに関する相互理解を深め、信頼関係の構築にも役立つはずです。

 こうしたリスクに関わる情報共有や意見交換は、リスク・コミュニケーションと総称されています。すなわち、地域のみんなではじめる逃げ地図づくりは、最も近い避難場所までの時間を色で示した地図をつくること自体が目的ではなく、リスク・コミュニケーションを促進することに狙いがあります。つまり、逃げ地図づくりはそのための手段であることを十分に認識して臨むことが重要です。

  逃げ地図づくりのような共同作業を通して、地域が抱える課題について話し合う手法は、まちづくりの分野ではワークショップと呼称して広く普及しています。本章では、同じ地域に関わる様々な立場の人々が自ら参加して、その地域の逃げ地図をつくるワークショップを開催する方法について解説します。

逃げ地図づくりの目的を確認する

 逃げ地図づくりは、リスク・コミュニケーションを促進するために行うものですから、そのワークショップの開催にあたっては、何のために逃げ地図をつくるのか、改めて確認することがとても重要です。その開催目的は、その地域の防災上の課題や避難に関する取り組みの熟度に応じて、いくつかの段階があるといえます。

 住民等の防災意識の啓発は、その第一歩です。地域のハザードマップをよく見て、防災や避難を自分ごととして認識し、地域の課題について話し合う機会を創出するという初歩的な段階です。

 ある程度防災意識が高い地域では、避難場所・避難経路の検討をはじめ、徒歩による避難、要援護者の避難など、避難に関する課題を抽出するためという目的設定でも良いかと思います。例えば、東日本大震災で津波の被害があった岩手県陸前高田市小友(おとも)町では、車を使った避難に関する課題を具体的に把握するため、車による避難と徒歩による避難の 2 グループに分かれて逃げ地図を作成し、交差点における消防団による避難誘導方法、避難経路を表示する標識の設置等の課題を抽出しました。

 すでに避難対策を講じている地域では、市町村などが指定した避難場所が適切な位置にあるかを検証することを目的として設定すると良いでしょう。静岡県下田市吉佐美(きさみ)地区では、吉佐美区(町会に相当する集落コミュニティ)が指定した津波からの緊急避難場所の位置とそこに至る避難経路を検証するために逃げ地図づくりワークショップを開催しました。高知県黒潮町では、町が建設する予定の津波避難タワーの効果や計画されているバイパスの整備に伴う避難時間の短縮効果を検証するために逃げ地図づくりを行ったことがあります。

 さらに一歩すすめると、計画の立案を目的として開催する段階があります。避難場所の指定や避難経路の整備、避難訓練、要援護者の避難方法などを定めた避難計画を立案するため、さらには、地区独自の避難計画などを市町村の地域防災計画において位置づけた地区防災計画を立案するために開催すると効果的です。(一部略)

誰と一緒に逃げ地図をつくるか?

 逃げ地図づくりワークショップは、リスク・コミュニケーションの手段ですから、性別や世代に偏りがなく、できる限り多様な関係主体の参加が望まれます。防災意識を啓発し、避難に関する課題を抽出する上でも、属性や立場の異なる多様な関係主体の参加を得て、様々な意見を出し合い、相互の意思疎通を図ることが望ましいです。特に、青少年と高齢者の両者の参加は、世代間の交流や次世代の育成の観点から重要です。

 先に述べた下田市吉佐美地区では、吉佐美区の理事や民生委員、防災委員のほか、朝日小学校のPTA役員(女性)や下田中学校の女子中学生の参加を得て開催されました。その結果、集落単位の避難ではなく、より近く安全な場所への避難を第一に考える必要であり、指定の避難場所への避難にとらわれないことが重要との意見が出されました。また、参加した中学生からはルールに縛られすぎると危険な場合があるという賢明な意見など、多様な観点から避難に関する意見が出されました。

 逃げ地図づくりワークショップは、指定された緊急避難場所以外の場所への避難や階段・通路等を経た避難も検討するため、それらに関するできる限り正確な情報を得る必要があります。また、災害からの避難のリスクに関する正確な情報を関係主体間で共有するため、避難場所や避難経路に関する地域の実情に詳しい関係主体の参加を得ることが望まれます。陸前高田市広田町では、第一回のワークショップで中学生らが作成した逃げ地図をベースに、第二回のワークショップで消防団員らがそれを点検・修正して、より正確な情報に基づいた逃げ地図を作成したことで、より精度の高い逃げ地図を作成することができました。第三回は漁協女性部のみなさんが参加し、過去二回のワークショップで作成されたコメントを参照しながら議論したことで、より深い議論に発展しました。(後略)

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逃げ地図を学校でやる場合、地域でやる場合など、パターン別に解説!

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災害から命を守る「逃げ地図」づくり2019年11月

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