with/postコロナにおけるこれからの学校行事

トピック教育課題

2023.01.23

introduction with/postコロナにおけるこれからの学校行事

獨協大学教授 
安井一郎

『教育実践ライブラリ』Vol.3 2022年9

 令和2(2020)年1月に国内で最初の感染者が確認されてから2年7ヶ月を経た現在、我が国では第7波と呼ばれる過去最大規模の新型コロナの感染状況に直面している。この間、学校は、令和2年春の一斉休業を挟み、コロナ禍の児童生徒にとってどのような教育が望ましいのか、その在り方を模索し続けてきた。特に、児童生徒の集団的、実践的な活動を特質とする特別活動は、その特質故に大きな影響を受けてきた。中でも、全校又は学年の児童生徒が一堂に会して活動する機会となる学校行事は、感染リスクが高いと考えられ、子ども相互の交流が制限されたり、中止や延期に追い込まれたりするなど、深刻な影響を受けた。そうした中にあっても、各学校の教師たちは、学校生活を彩る学校文化の象徴とも言える学校行事をなんとかして実施しようと工夫を重ねてきた。本稿では、そのような実践を踏まえながら、with/postコロナにおけるこれからの学校行事をどのように創り上げていくことが求められるのか、その課題についてICTの活用を中心として考察する。

特別活動におけるICT活用のポイントは何か

 我が国では、従来から、学校教育におけるICTの活用が遅れていると指摘されてきた。OECDの2020年のレポートでは、「頻繁に生徒にICTを活用させているかどうか」について、OECDの平均53%に対して日本は18%と極端に低いことが指摘されている。文部科学省の令和3(2021)年の調査では、令和2年3月の時点で教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数4.9人、普通教室の無線LAN整備率48.9%であったが、令和3年3月にはそれぞれ1.4人、78.9%とハードの整備は進んでいるものの、教員のICT活用指導力については、授業にICTを活用して指導する能力69.8%(「できる」+「ややできる」の4項目平均)、児童生徒のICT活用を指導する能力71.3%(「できる」+「ややできる」の4項目平均)であり、十分ではないことが示されている2

[注]
 OECD(2020):School education during COVID-19:Were teachers and students ready? Country Note Japan, P.1.ただし、データは、コロナ禍以前のTALIS 2018のものである。
https://www.oecd.org/education/Japan-coronavirus-education-country-note.pdf
 文部科学省(2021):令和2年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)(令和3年3月1日現在)〔確定値〕、pp.4-5、p.23
https://www.mext.go.jp/content/20211122-mxt_shuukyo01-000017176_1.pdf

 このような状況の中で、令和2年3月から約3ヶ月に及ぶ一斉休業以降、各自治体・学校では、ICTを活用したオンライン授業、あるいは対面とオンラインを併用するハイブリッド授業の開発、実践に取り組んできた。すなわち、GIGAスクール構想に基づいて整備が進んだICTのハードを、学習のツールとしていかに効果的に活用し、児童生徒の学びの質的向上を図るかという課題に直面することとなったのである。

 特別活動も例外ではない。むしろ、集団的、実践的な活動を特質とする特別活動は、知識やスキルの習得・活用を基盤とする学習としての性格を強く持つ教科や総合的な学習(探究)の時間とは異なり、児童生徒が自らの学校・学級生活の質的向上を図る上で、ICTをどのように効果的に活用することができるかという問に答えることが求められている。

 文部科学省の「特別活動の指導におけるICTの活用について」では、ICTを活用する際に求められる観点として、次のように述べられている3

[注]
 文部科学省(2020):特別活動の指導におけるICTの活用について、p.2
https://www.mext.go.jp/content/20200911-mxt_jogai01-000009772_17.pdf

 「特別活動の指導に当たっては、その方法原理である『なすことによって学ぶ』直接体験が基本であるが、指導内容に応じて、適宜コンピュータや情報通信ネットワークなどを適切に活用し、児童生徒の学習の場を広げたり、学習の質を高めたりすることができる。

 特別活動の特質『集団活動、実践的な活動』の代替としてではなく、特別活動の学習の一層の充実を図るための有用な道具としてICTを位置付け、活用する場面を適切に選択し、教師の丁寧な指導の下で効果的に活用することが重要」

 学校行事におけるICTの活用も、その教育的意義を損なわず、より明確に発揮して、特別活動としての学びの質をより高めることができるように考えられる必要がある。

学校行事の教育的意義は何か

 学習指導要領では、学校行事の目標について、次のように規定されている4

[注]
 文部科学省(2017):中学校学習指導要領(平成29年告示)、p.164
https://www.mext.go.jp/content/1413522_002.pdf

 「全校又は学年の生徒で協力し、よりよい学校生活を築くための体験的な活動を通して、集団への所属感や連帯感を深め、公共の精神を養いながら、第1の目標〔*特別活動の全体目標(筆者注)〕に掲げる資質・能力を育成することを目指す」

 学校行事では、全校、学年、異学年で構成される集団等において、「学校行事の事前の計画・準備・実践・事後の活動に分担して取り組んだり、活動をよりよくするための意見や考えを出し合って話し合ったり、課題や困難な状況を乗り越え、解決したりすること」により、以下のような資質・能力を育成することが求められている5

[注]
 文部科学省(2017):中学校学習指導要領(平成29年告示)解説特別活動編、pp.92-93
https://www.mext.go.jp/content/20210113-mxt_kyoiku01-100002608_2.pdf

○ 各学校行事の意義について理解するとともに、行事における活動のために必要なことを理解し規律ある行動の仕方や習慣を身に付けるようにする。

○ 学校行事を通して集団や自己の生活上の課題を結び付け、人間としての生き方について考えを深め、場面に応じた適切な判断をしたり、人間関係や集団をよりよくしたりすることができるようにする。

○ 学校行事を通して身に付けたことを生かして、集団や社会の形成者としての自覚を持って多様な他者を尊重しながら協働し、公共の精神を養い、よりよい生活をつくろうとする態度を養う。

 学校行事は、学校生活を彩る学校文化の象徴とも言える教育活動である。自治と文化の創造を核とする生活づくりの活動としての特別活動を一本の木と見立てた場合、学校行事は、花・実にあたる活動である*。花は木を美しく彩り、実は豊かな実りをもたらし、それを見て、味わう人々に感動と恵み、潤いと希望を与えるとともに、新しい命を育み、次の世代を生み出していく。花・実としての学校行事は、「他の活動の成果をまとめ上げ、総合的に発揮することによって、学校文化の集大成と学校生活の意味の再発見を図るとともに、新たな活動や学校生活の活力を生み出す」6
学級・ホームルーム活動が根、児童会・生徒会活動が幹、クラブ(・部)活動が枝・葉にあたる。部活動は、教育課程編成上特別活動の内容ではないが、ここではそれに準ずる活動として扱っている。(筆者注)〕

[注]
 山口満・安井一郎著『改訂新版特別活動と人間形成』学文社、2010年、p.139

 学校行事は、学校が計画し実施する教育活動であるが、重要なことは、児童生徒と教師の協働による自主的、実践的な活動として学校文化の創造に資する活動を展開することである。それによって、児童生徒が、仲間をみつけ協力し合うこと、集団や社会の形成者として他のメンバーの存在を認め合い支え合うこと、何かを創って表現すること、心安らぐ居場所をみつけること等の生きる喜びを実感し、そこから自分たちの現在を分かち合い、未来を切り開く場としての学校という意識を共有することが重要である。そうした日常的な生活の内実を積み重ね、多様な集団と交流することによって学校文化の形成につながっていく。ここに学校行事の教育的意義がある。「学校行事を見れば、その学校が何を大切にしているかがわかる」と言われるように、学校行事は、一過性のイベントでも、特別な催事でもない。学び、遊び、仕事によって構成される児童生徒の日常生活の場としての学校における彼ら自身の「不断の文化創造の過程」として捉えることが必要である。

with/postコロナにおけるこれからの学校行事をどのように創り上げていくか

 令和2年春の一斉休業明けに行われた日本特別活動学会の調査7では、学校行事に関して、行事の中止や延期、時間短縮、プログラムの変更、参加者の縮減・交替制等三密の回避を優先する取組が目立った。ICTの活用については、Zoomを活用した学級活動の実践等に比べると、動画の作成・配信、校内放送の活用等が主だったものであった。「実施可能性があるとしたらオンラインによるものではないかという未知の領域への若干の希望」「対面の次善策として、つながることのツールとしてICTが使える」等の記述にも見られるように、この時点では、学校行事の教育的意義を踏まえたICTの活用については、十分に深められてはいない状況が見られた。

[注]
 日本特別活動学会研究推進委員会コロナ禍下の特別活動に関する学会員対象アンケートWG(2020):新型コロナウイルス予防対策への対応を踏まえた特別活動の課題と今後に関する調査第一次結果報告、pp.7-10参照

 前述の文部科学省調査では、教員のICT活用指導力について、特に低い値を示したのが、授業にICTを活用して指導する能力の「グループで話し合って考えをまとめたり、協働してレポート・資料・作品などを制作したりするなどの学習の際に、コンピュータやソフトウェアなどを効果的に活用させる」(62.3%)と児童生徒のICT活用を指導する能力の「児童生徒が互いの考えを交換し共有して話合いなどができるように、コンピュータやソフトウェアなどを活用することを指導する」(61.2%)であった8。学校行事においてICTを活用する場合も、この点に留意して、効果的な活用法を考える必要がある。

[注]
 文部科学省(2021)、前掲書、p.23

 前述の文部科学省資料では、ICTの活用は、「集団活動、実践的な活動」の代替としてではなく、「より充実した集団活動、実践的な活動、そして自発的、自治的な活動の実現のために学習者端末を活用する」として、「全校などの大きな集団の意思表明、合意形成に向けた学習過程を大きく変え、話合い活動がより充実する」「活動の実態を客観的に把握し、集団においても適時的確に共有できる」「生徒会活動や学校行事ではアイディアを効果的に伝播できる」「イメージしにくい現象を動的にシミュレーションすることで、理解をより深めることができる」また、「集団が大きくなればなるほど、情報共有や意見表明、集計などに学習者端末が効果を発揮」と述べられている9

[注]
 文部科学省(2020)、前掲書、p.3

 当然、これは学校行事だけで実現できるものではない。特別活動の他の活動や教科等の学びの過程においても、情報の収集・共有、資料の作成・提示、意見の表明・交換、合意形成・意思決定の過程の可視化、活動や学びのまとめと振り返り、記録の作成・保存等に、ICTの有効な活用が行われていることが前提となる。ICTの活用は、従来の黒板、紙媒体の資料、アナログのAV機器等の単なる代替ではない。代替としての役割を果たしながらも、対面を基本としてきた活動に見られた非効率的で無駄の多い活動を効率化し、学びの質的向上を図ることができると共に、新たな学びの世界を構築することができる。

 ICTを活用する最大の効果は、時間と空間の制約を超えて、対面だけの学習では実現できない学びの世界を構築できることである。これからの学校行事に求められるのは、対面に固執しないハイブリッド型の行事を工夫することである。ICTの活用により、対面のみの行事では参加が困難であった外国を含む遠隔地の居住者、不登校児童生徒、障がいや言葉の壁などをもつ人々等も等しく参加できる、現在の児童生徒と過去の児童生徒が共演する、現実の世界と仮想現実の世界を組み合わせるなど、文字通り多様な他者と協働する行事を創り、学校行事の教育的意義をより明確に表現することができるようになると考える。

 

 

Profile
安井一郎 やすい・いちろう
 神奈川県横浜市出身。1985年筑波大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。筑波大学、名古屋学院大学を経て、2000年より獨協大学、2019年より国際教養学部長。専門は教育課程論・特別活動論。その他、道徳教育の理論と実践、総合的な学習の時間の理論と実践、教育方法学等の授業を担当してきた。2015年より日本特別活動学会副会長、2021年より同会長。編著書に『改訂新版特別活動と人間形成』(学文社)、編集・解題に『戦後初期コア・カリキュラム研究資料集』(クロスカルチャー出版)など。

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