session 5 校内研究を核にした教員研修で、ICT活用技能格差を解消

トピック教育課題

2022.10.31

session 5 校内研究を核にした教員研修で、ICT活用技能格差を解消

東京都中央区立阪本小学校

『教育実践ライブラリ』Vol.2 2022年7

 

 本校ではICT活用とプログラミング教育を研究しており、校内研究授業を核にタブレットPC活用の実践と教員研修に取り組んでいることが特色である。ICT活用技能を高めるための教員研修には様々な方法があると思うが、その実践事例を紹介し、教員の活用技能格差の解消にも触れたい。

 教員研修の具体的な方法については、追って四つの視点から述べる。

本校のICT活用とプログラミング教育の概要(研究の経過)

 本校は全校194名の小規模校であり、ICT機器を活用し、「学びの充実につながる指導法の工夫」について研究を始めた。平成30・令和元年度は、東京都教育委員会プログラミング推進校、中央区教育委員会研究奨励校の指定を受け、「学びの質的改善につながる指導法の工夫〜ICT機器を活用した授業実践とプログラミング教育の推進〜」の研究発表を行った。4年間の実践研究を通して、ICT機器活用の体系表、プログラミング教育の年間指導計画もまとまった。校内研究授業を核にタブレットPCを活用し、その実践を通して、事実上の教員研修が進んだ。

校内研究授業でのICT機器の活用

 令和3年度に年間で5回の研究授業を行った。活用したICT機器は全てタブレットPCとBIG PADの組み合わせ。使用したアプリケーションは、SKYMENU、プログルである。

【5年生 算数科「プログルを使って正多角形を描く」】
 児童一人一人がタブレットPCを用いて、プログルというアプリケーションを操作することで、正多角形の描き方について学習した。

【1年生 生活科「生活リズムを見直す」】
 児童一人一人がタブレットPCを用いて、自らの生活を振り返り、どうしたらよりよい生活を送ることができるかを、SKYMENUを使って、友達と意見交換しながら考える学習をした。

【2年生 算数科「三角形と四角形を弁別する」】
 児童一人一人がタブレットPCのカメラ機能を使用して、校内にある三角形や四角形の形を見つけて撮影した。SKYMENUを使って、その弁別方法について、友達と意見交換しながら考える活動をした。

【4年生 体育科「マット運動の技を練習・録画し、組み合わせを考える」】
 グループごとに、SKYMENUのカメラ機能を使って、技を撮影して練習に取り組んだり、技の組み合わせを考えたりする活動を行った。また、練習の過程で、模範動画を保護者のタブレットPCに送信し、家庭での練習・声かけの協力を求めた。


写真1 研究授業の様子(4年体育科)

【特別支援教室 自立活動「サーキット運動を児童が自ら考え行う」】
 児童が考えたサーキット運動を行う活動を通して、動画を撮影し、自分や友達の動きを確認しながら、よりよい方法を追求する活動に取り組んだ。

 以上の5本の研究授業を通して、タブレットPC等ICT機器を活用し、次の三つの視点(①深い学びにつながる対話的な学習、②プログラミング的思考を育成する学習、③ICT機器を効果的に活用した指導と評価)から深い学びと授業改善を目指した。

教員研修の実際と教員の活用技能格差の解消方法

(1)校内研究授業でICT機器の活用を必須として取り組み、技能を高める
 前項で述べた研究授業を通して、効果的なICT機器の活用を集中的に行うと、児童のICT機器活用技能の向上と教員の活用技能向上の二つが狙える。児童のICT機器活用への意欲はもともと高いが、授業の中で、ICT機器を使う必然性、必要感をもたせると、その技能は飛躍的に向上する。それは教員についても同様で、「必要は発明の母」の言葉どおり、階段を一気に駆け上るが如く技能は仕事を通して見事に向上する。

 例えば、算数の研究授業でムーブノートというアプリケーションを活用した機会があった。なかなか優れたソフトで、児童同士が考えを共有し、意見を書き込むことができるなど、有用性が確認された。授業を行った教員の活用技能が高まったのはもちろんだが、参加した教員もムーブノートに興味を示し、自分でも活用しようと、教員同士で教え合い学び合って研修する場面が見られた。研究授業を核とし、波及効果として、研修し技能が高まる一例である。

 本校では、今年度異動してきた教員のうち3人が授業者となった。結果として活用技能が向上し教員間の格差は生じなかった。教員の技能格差を心配する学校も多いと思うが、校内研究の教科は何であれ、ICT機器活用を必須の条件として授業に取り組めば、この問題もある程度は解消できるのではないか。研究主題の副題に「〜タブレットPC・ICT機器の活用を通して〜」等を入れてもよいと思われる。

●研究協議会でJamboardを活用した教員研修例
 本校では、研究協議会でJamboardという機能を使って話し合いを行っている。つまり、教員各自がタブレットPCの画面上に感想・意見を記入して整理し、それを教員全体が共通に見られるという機能である。初めてこれを行った時は、各自のパソコン活用技能を高める教員研修の一環であったとも言える。この方法を用いれば、模造紙も付箋もいらず、時間的にも効率的に情報を整理でき、協議を深めることができる。


写真2 Jamboardを活用している画面

 

(2)校内OJT研修や初任者研修でICT機器の活用を必須とし、その視点からも指導し、技能を高める
 この研修の前提として教育委員会主催のICT研修への参加は必須である。教育委員会発行の「ICT機器活用の通信」などがあれば、そこで謳われる技能は必ず身に付けさせる。

 また、最近のコロナ禍にあって、meet等を活用したオンラインの研修や研究の機会が多く、ICT機器を活用する体験の充実が見られたことも記憶に新しい。

 校内のOJT研修や初任者の授業指導は、単発ではなく、2週間に1回など数回連続して実施すると効果が大きい。上記(1)で述べた集中の原理がここでも生きると思う。また、「基本活用技能(目標)体系一覧表」「教員ICT機器活用チェックリスト」等があれば、児童の到達段階や今教員の自分がどの段階にいるか客観的にわかるし、次に何をできるようになればよいか、その努力の目標も明確になる。

①教育委員会作成の冊子や技能到達目標一覧を活用した自主学習会
 本校の属する区教育委員会では、学校と連携して「区立学校タブレット端末活用事例集」と「区タブ
レット端末の基本技能到達目標一覧」を作成した。前者は、学校ごとに各教科の単元でICT機器を活用した優れた取組例をA4にまとめた約50ページの事例集である。学年会等でこの冊子を参考にICT機器を活用した学習指導計画を立て、教材研究をすることができる。すでに実践済みの事例なので、無駄なく効率的、効果的に準備でき、有効な教員研修と言える。

 後者は、低中高学年ごとに、タブレット端末の基本的な操作技能やSKYMENUやミライシードといった主なプラットフォームの児童の技能到達目標一覧表である。児童が身に付けねばならない技能であるから、教員には当然それを指導できるだけのより高い技能が求められる。これも学年会や低中高学年会ごとに、その内容を確認し、時間を見つけて自主的に研修して技能を磨き、教材研究をする必要がある。

②教員各自が始めに体験する校内OJT研修の実際
 自分がパソコン操作等ICT機器の活用に堪能であればよいが、そうでない場合は、自分でその操作スキルを身に付けなければならない。つまり、ここに職場のOJTが登場する。職場のICT機器に堪能な同僚・先輩に聞いたり、書籍を参考にしたりしながら、実際にICT機器を試行錯誤で操作し、そのスキルを身に付けていく必要がある。そこに一定の時間はかかると思うが、「習うより慣れよ」で、それほど特別に難しいことではない。実際に授業で使っているうちに自然に身に付いてくるし、操作方法を子どもが教えてくれることもある。少し面白くなってくると、もうしめたものでそのスキルは飛躍的に向上することが十分期待できる。さらに職場の同僚に、より高度な活用方法をOJTしてもらえば、スキルはさらに伸び、気が付いてみると、自分がOJTをされる側からする側に変わっている。ICT活用の技能の習得は、職場のOJTを受けながらも、一定の自己努力が必要になると思う。

③初任者に行ったICT活用のOJT研修
 本校では、2週間に1回、初任者の授業を見て、ベテラン教師が「ねらいに迫るために」という1時間をふりかえるための写真入りのA4プリントを作成し指導を行った。「ねらいに迫るために」は年間で25号を数えた。


写真3 指導資料「ねらいに迫るために」

 ねらいが明確か、発問は的確か、児童の思考は練り上げられたか等々、指導の内容は多岐にわたるが、ポイントは、ICT機器の活用について必ずふりかえり、年間を通してその技能が高まるよう指導を続けた点にある。定期的に授業準備を続けることで常にICT機器の活用を意識し、それがリズムとなり、ある意味で自然に、確実にICT活用技能が身に付いたハードな教員研修であったと言える。

 

(3)ICT支援員の活用と外部講師による指導
 各校には派遣回数の差はあるにせよICT支援員がいると思う。ミニ研修会をこまめにタイムリーに設定し必須技能を習得する。また、活用できるソフトの紹介等を聞くことができる。日常的に教員が問題意識をもって、個別にICT支援員に質問し、自分の不足点を埋める。本校ではICT支援員の取り合いのような状況がある。児童に対する授業場面での指導や支援、教員自身に対する指導と支援を日常的に求めている。

 直近の本年6月、ICT支援員を活用した授業の一例を紹介したい。1年生の生活科でアサガオを育て観察する単元で、アサガオの写真の撮り方とそれを発表ノートに貼り付けて編集する技能を指導してもらった。また、観察で気付いたことを手書きの文字入力(変換機能あり)でシートに記入することもできた。1年生でもタブレット端末で写真を撮ったり、それを編集して簡単なまとめのシートを作成したりすることは十分にできる。


写真4 ICT支援員を活用した授業の様子(1年)

 また、本校では校内研究で外部講師に年間を通してご指導いただいている。最近、新しい教育ソフトの紹介と活用方法について外部講師から貴重な研修の機会を頂戴した。それを2例紹介したい。

 ・タブレット端末を使い、グーグルスライドというアプリケーションの活用の仕方を学んだ。ある教科書会社が開発した算数の図形問題の解き方のコンテンツを題材にした。これを使うと児童自身が自由に他の児童の解き方を見ることができ、コメントを記入することもできる。パワーポイントで発表することにもつながる。教師主導でなく、より子どもの主体的な学びを保障するよい教材・方法だと思った。

 ・クロームミュージック(Song Maker)というアプリケーションの使い方を学んだ。音楽の授業で児童が作曲する際に使えるもので、児童が簡単に作曲の音(音階)を決めて、それがすぐに実際に音になって聞ける、使いやすく楽しいものだった。作品の共有が可能で、すぐに授業で活用できると感じた。

 

(4)管理職の毎日の授業観察とICT活用の指導
 管理職は日常的に各クラスを見て回ると思うが、その時にICT機器が活用されているかを点検する。

 本校では、一日に最低1時間は活用することを課している。数回見に行って、1回もICT機器を活用していないクラスと教員は要注意と言える。

 いつも、実物投影機しか使っていない教員もいたので、タブレット端末を活用した授業展開を求めることもあった。ワンパターンの活用が多い場合は、一段高い技能の活用について指導して、多様なICT機器の展開方法を身に付けさせる。

 管理職が校内のICT機器活用を推進する上での役割として、学校経営方針・計画にICT機器の活用を明記して周知することも重要であろう。校内研究、日常の授業実践はもちろん、例えば、保護者が授業を見る学校公開では、ICT機器の活用場面を必ず設定するよう教員に求める。また、自己申告の面接でも、学習指導においてICT機器の活用について必ず記述させ、年間を通してその実践具合をふりかえり点検・指導していく。


写真5 研究授業の様子(5年算数科)

 

 今回取り上げた教員研修は一校だけで進めるものでもなく、常に教育委員会との協力・連携が必要であるし、その情報共有を通して、他校の情報活用の水準も確実に向上する。一教員の取組、管理職の発想、教育委員会の構想、講師の専門性、どれであれ、よい取組は連絡会などを通して組織的に共有し、地区の全学校のICTの活用の水準が全体として上がることを期待したい。

(校長 小川 優)

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