“ふるさと”と私 失敗も成功も体験と経験が大事!

トピック教育課題

2022.11.04

“ふるさと”と私 失敗も成功も体験と経験が大事!

タレント・医学博士
佐藤弘道

『教育実践ライブラリ』Vol.2 2022年7

本物の「社会科見学」

 こんにちは。NHK「おかあさんといっしょ」第10代体操のお兄さん、佐藤弘道です。私は父の実家が東京都新宿区にあったため、新宿区に生まれ、大学一年生まで中野区で育った。子どもの頃は友だちが住んでいるマンションの敷地内やデパートの中で「鬼ごっこ」をし、よく大人に捕まって叱られた。まさに「鬼ごっこ」だ。都会の公園は小さくてボールあそび(野球やサッカー)などは出来ない。塾にはほとんど通わず、体操教室、水泳教室、トランポリン教室など、運動中心の生活だった。そんな少年時代、一番夢中になって通っていたのは柔道だ。中野警察署内にある道場に通っていた。道場が開くまで署内のベンチで座って待っていると、時々、警察に捕まった犯人が手錠を掛けられたまま目の前を通ることがあった。その犯人からすれ違い様に「何、見てんだ! 小僧!」と言われた時は、子ども心ながら「絶対に捕まるより、捕まえる人になりたい」と思った。これこそ活きた本物の「社会科見学」だった。

 そして、私のもう一つのふるさとは母の実家があった埼玉県秩父の山奥にある「小鹿野町」だ。つい数年前までコンビニエンスストアが無かった(笑)。しかし、ここには都会には無い山や川という大自然がある。夏休みにはじいちゃんと一緒に山の中を散歩をしたり、友だちと山道の下り坂を誰が一番遠くまで転ばないで走れるか競争をしたり(この遊びのお陰で足のさばきが早くなり、走る歩幅が広がり、小学生の頃はいつもリレーの選手だった)、カブトムシや山菜を取ったり、川に潜って魚を取ったり、冬休みは大きな田んぼが自由に走り回れるグラウンドとなり(足場の悪い田んぼの中やあぜ道を走ることでバランス感覚を養えた)、凧揚げやキャッチボールで日が暮れるまで思う存分遊んだ。子どもの頃の私は、都会と田舎が最高のふるさとで、自分自身の運動能力を向上させる絶好の遊び場だった。

「失敗をしてもいいんだよ」

 こうした自由奔放に活発に動き回れる環境の中だったので、失敗も数多くある。例えば、小学生の頃に川へ魚を取りに行く時に「モリ」を持って行く。魚を探して川の中を歩いている途中でつまずき、持っていたモリが足に刺さったことがある。多摩川(登戸)に釣りに行った時は大きなコイが釣れ、釣り針を外している最中にコイが暴れ、その釣り針が自分の指に刺さって抜けなくなり、そのまま病院に駆け込んだこともある。幼児期は自宅のポストに手を突っ込み取れなくなり、無理やり手を引いたら指紋がズレるほど指を切った。一人でヨチヨチと自宅の隣の犬と遊ぼうとしたら、突然首を噛まれ血だらけになった。命に関わるような怪我も経験した。高校一年生の時に体操のつり輪の練習中に頭から落ち、頸椎の4番目と5番目がズレて、元に戻す大きな手術をした。その他、大学の体操発表会の最中に左手を強打して手首の舟状骨が折れて手術、社会人になっても鎖骨の剥離骨折や足の腓骨の骨折、最近では膝の半月板が割れて除去手術をした。今では笑い話の一つでもあるが、これは命があってのことだ。

 今の世の中「失敗をしたくない、させたくない」という人が多く見受けられるように感じる。自分自身の失敗や我が子の受験なども含めて失敗をさせないようにする。気持ちは分かるが、失敗を恐れては成長はない。そして何より、「失敗を恐れすぎて何もしないこと」が一番怖い。失敗をして、そこから成功に向かう気持ちが大事だ。親も子どもの目の前で失敗をし、そこから這い上がる姿勢を見せることで子どもに勇気を与える。先生も同じだ。生徒の目の前で失敗をしても、そこから前に進むことで生徒から共感を得る。「失敗をしてもいいんだよ」。完璧な人間は世の中にはいない。だからこそ、少しでも余裕を持った「心」を育みたいものだ。体験と経験は多い方がよい。育児にも失敗はつきものだ。私の経験上、第一子と第二子では育て方もガラッと変わる。それは第一子が子育ての勉強をさせてくれたからだ。ふるさとでの思い出と数々の大失敗は、今では私にとって人生の最高の財産となっている。

 

 

Profile

佐藤弘道 さとう・ひろみち
 1968年7月生まれ。NHK「おかあさんといっしょ」第10代体操のお兄さんを12年間、NHK「あそびだいすき!」を3年間、計15年間教育番組にレギュラー出演。有限会社エスアールシーカンパニーを設立し、幼稚園・保育園・こども園の体育指導や課外体操教室で指導。その他、全国で親子体操教室や指導者実技研修会、講演会を行う。日本体育大学体育学部卒業。弘前大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。大垣女子短期大学客員教授。朝日大学客員教授。名城大学薬学部特任教授。日本体育大学非常勤講師。

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