特集  誰一人取り残さない“スクールネット”の構築 多様性を尊重し、差別を生まない学級づくり

トピック教育課題

2022.07.20

特集 誰一人取り残さない“スクールネット”の構築
テーマ6 多様性を尊重できる集団の育成
多様性を尊重し、差別を生まない学級づくり

神田外語大学客員教授
嶋﨑政男

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.6 2022年3月

カウンセリングマインドを基盤とした担任の姿勢

 学級の成員が相互に「違い」を認め合い、級友の「良さ」を尊重し合える学級づくりを行うためには、日頃の担任の姿勢が大きな影響を与える。個々の児童生徒をリスペクト(Respect=尊重)し、リレーション(Relation=人間的ふれあい)を通じて、リソース(Resource=資源・良さ)を生かす姿勢は、児童生徒の良いモデルとなり、学級全体を温かな雰囲気で包み込んでいく。 

 この「3つのR」の実践は、カウンセリングマインド(教育相談の基本姿勢・態度)を生かした学級経営の基盤となるもので、「自他の個性を尊重し、互いの身になって考え、相手のよさを見付けようと努める集団」(『生徒指導提要』、文部科学省)づくりには欠かせない。 

 カウンセリングマインドは、1980年頃から唱えられた「教育相談の基本姿勢(心)」を表す和製英語である。教室に入るなり最前列の机を全て倒してしまった児童を例にとろう。「どうしたの?」との質問に、「父ちゃんに殴られた」と答えた児童に、しっかり耳を傾けて(傾聴)「痛かったろ。辛かったね」とその子の心理的事実(気持ち)を受容。続けて「友達の机を倒してしまったのはいけなかったね。どうするかな」と、アイ・メッセージで自分の気持ちを伝え、叱責ではなく、子供自身に事後のことを考えさせる「訊く」姿勢。自分で机を元通りにして級友に謝罪した子に「責任を果たしたね。(先生は)うれしいよ」と勇気付けの言葉かけ。 

 このような「信」(心理的事実の受容)、「伝」(アイ・メッセージでの気持ちの伝達)、「任」(解決法を自身に考えさせる)、「認」(良さを認める)の姿勢がカウンセリングマインドの中核と言える。担任の「信・伝・任・認」を大切にする指導や「3つのR」の率先垂範が「差別を生まない学級」づくりの第一歩である。

カリキュラム・マネジメントに基づく全校体制

 児童生徒に「多様性を尊重し、差別を許さない心情」を育むには、学校の教育目標に「多様性の尊重・差別の否定」を掲げ、その実現のために教育課程を編成し、実施・評価し改善していくことが重要である。カリキュラム・マネジメントの推進・充実である。 

 いじめ撲滅への取組は学校教育目標の大きな柱の一つである。「多様性の尊重・差別の否定」の心情を育むことは、いじめの予防的取組である「いじめに向かわない態度」の育成に直結する。この視点から各教科等の指導内容を整理し、指導計画・方法を具体的に位置付け、実践・評価・改善することが求められる。 

 「協働的に取り組むとともに、互いのよさを生かす」(総合的な学習の時間)「互いのよさや可能性を発揮」「多様な他者と協働」「合意形成」(特別活動)等、「多様性の尊重」に直結する目標を掲げているものもあるが、各教科においても、学習の過程で級友の多様な見方・考え方に触れる中で、「みんな違ってみんないい」を実体験する機会は多い。

コラボレーションの意図的導入

 「3共かん(汗・歓・感)」という言葉がある。共に汗し、共に歓ぶ体験をする中で、お互いの気持ちを共感し合えるようになるという意味で使われる。協働体験をすることで相互理解が深まり、リレーション(感情交流等の人間関係)が深化するのである。 

 学校では、このような協働体験(コラボレーション)の良さが無意図的に行われることがあるが、全教育活動を通して意図的に行われることも多い。その中心的役割を果たすのが特別活動である。学級活動、児童会・生徒会活動、学校行事の三つの内容(小学校では、クラブ活動が加わる)では、話合いによる合意形成のプロセス、児童会・生徒会活動での異年齢集団との協働、学校行事での連帯感の感得等により、多様性を尊重することの大切さを学ぶ。 

 特に、級友らの興味・関心や能力・特性等を目の当たりにすることが多い学校行事では、人間関係の葛藤を味わったり、相手の寛容の心に触れたりする経験をする機会が多い。集団的・実践的活動の意義を認識したコラボレーションの機会の確保は重要である。 

 実際に、相互理解を深める、良好な人間関係を築く、いじめを許さない等、コラボレーションの体験を積む多様な方策が工夫されている。学校全体、学年単位、学級経営の一環。進め方は各学校の状況によって違って良い。年間計画に位置付け、計画的に実施すると、その効果はてき面である。 

 心理教育として開発された構成的グループエンカウンター、対人コミュニケーションを円滑にするためのソーシャルスキル・トレーニング、カウンセリングから派生したピア・サポート、アドラー心理学を基盤とする「クラス会議」。数え上げたらきりがない。このような手法を各教科等で効果的に活用することにより、「多様性を尊重する子」「差別をしない子」は確実に育っていく。 

 現行学習指導要領「総則」には、「児童生徒の発達の支援」が新設され、「特別な配慮を必要とする児童生徒」として、「障害のある」「日本語の習得に困難のある」「不登校」「学齢を経過した」児童生徒等が挙げられている。このような児童生徒等の多様性を尊重した個に応じた指導・支援に努めるとともに、全ての児童生徒が連携協働できる活動を積極的に取り入れたい。

 

 

Profile
嶋﨑政男 しまざき・まさお
 神田外語大学客員教授。公立中学校教諭・教頭・校長、東京都立教育研究所指導主事、福生市教育委員会指導室長・参事を経て神田外語大学教授。日本学校教育相談学会名誉会長、千葉県青少年問題協議会委員、千葉県いじめ対策調査会会長、9県市でいじめ対策委員長等を務める。主な著書に『学校崩壊と理不尽クレーム』集英社、『「脱いじめ」への処方箋』ぎょうせい、『いじめの解明』第一法規、『ほめる・しかる55の原則』教育開発研究所等。

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