Leader’s Opinion~令和時代の経営課題~

鈴木廣志

Leaderʼs Opinion 〜令和時代の経営課題〜 今月のテーマ 学校への期待×地域への期待 学校と地域の原風景

トピック教育課題

2021.11.22

Leaderʼs Opinion 〜令和時代の経営課題〜
今月のテーマ 学校への期待×地域への期待
青木信二+鈴木廣志

学校と地域の原風景
麦秋の風景から見えてきたこと

栃木市地域政策課社会教育指導員(前栃木県栃木市立大平中央小学校長)
鈴木廣志

『新教育ライブラリ Premier II』Vol.2 2021年6月

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、学校と地域の関係も厳しい現実を突きつけられている。昨年の今頃、学校の子どもたちは3か月もの間、自宅で過ごし、授業は勿論、運動会や修学旅行、校外学習などの学校行事も大幅な変更を余儀なくされた。学校経営を預かる校長として、その舵取りの難しさを痛感した一年であった。そして今、学校現場を離れ、社会教育指導員として再び、社会教育の現場に身を置き、両方の立場から見えてきた「学校と地域の原風景」を話題にしたい。

コロナ禍での学校の現状は

 先日、ある校長が「チーム学校でここがゴールだと思って頑張り、シュートも決まったものの、ともに喜びあうこともできず、よく見たらゴールの後ろにまた別のゴールがあった」と嘆いた。学校教育で大切にしてきた「達成感をともに味わうこと」や「節目を大切にすること」もままならずである。コロナ禍での主体的で対話的な学びの授業実践として、タブレット端末を使ったICTの授業創りも始まったばかりだ。終わりの見えない喪失感、DVや不登校児童へのケア、感染症対策をしながらの授業創り、放課後の消毒作業、保護者への変更メール等、このリアルな学校の現状をまず地域の皆さんと共有することから始めなければならないと思う。

学校から地域への3つの期待

 そのような中でも学校の経営者として地域とともに大切にしてほしいことは、①子どもの小さな声に耳を傾けること②子どもの思いを形にすること③子どもの学びを止めないことの3つの思いである。

 そんな思いで、コミュニティ・スクールの学校運営協議会の皆さんと熟議を重ね、実現した事例をいくつか紹介したい。

「運動会」「読み聞かせ活動」の動画配信

 子どもたちは、「運動会」や「読み聞かせ」を毎年楽しみにしている。しかし、「運動会」も「読み聞かせ」も保護者や地域の皆さんを制限しての開催だ。何かできないかと熟議した結果、実現したのが、運動会の動画配信や読書週間での読み聞かせやブックトークの動画配信の試みだ。地域のWEBデザイナーさんの協力で、練習風景から当日の様子までをドローン撮影も交えて動画撮影を行い、期間や配信者を限定しYouTubeで配信を行った。運動会で頑張った子どもたちと一緒に、家族でその様子を見ることができ好評であった。運動会を参観できなかった祖父母にも大いに喜ばれた。特に、ドローンによるダンス動画は圧巻で新たな感動を与えた。

 また、読書週間の「読み聞かせ」の動画配信は、普段は対面で子どもたちを前にして行われる「読み聞かせ」の活動の様子を、自宅で保護者が子どもたちとともに見ることで読み聞かせの良さを広く紹介する機会となった。また、ボランティア同士が自分たちのスキルを学びあう場にもなり、さらに地域の図書館で撮影を行ったことで図書館のPRにもなりALL-WINの関係にも繋がった。

音楽祭の中止とオリジナルソングの完成

 毎年参加していた地区の音楽祭の中止により、6年生の子どもたちは貴重な発表の場を失った。がっかりしていた子どもたちが、有志を募りその思いを生かしたメモリアルソングの制作に挑戦し、オリジナルソング『Dream Forever—希望の光—』を完成させた。さらに、その曲をプロの音楽家に見てもらったところ、素晴らしい楽曲として提供してもらい、卒業式に発表する形で実現した。子どもたちにとって忘れられない一曲となった。子どもたちの思いを深く受け止め、大切にしてくれたからこその地域のサポートであった。

公民館での体験活動支援

 そして、今、公民館の仕事に携わって3か月。学校教育で中止になってしまった体験活動を支援しようといくつかの講座を企画している。先日も昔の道具を使ったビール麦の収穫や脱穀体験、麦秋の風景を親子で歩く「麦笛の道ウォーク」を実施し、地域の皆さんと子どもたちの交流の機会を作った。感染症対策を講じての実施であったが、参加した地域の皆さんから「久しぶりに沢山の子どもたちの笑顔に接することができた」と喜ばれた。

 「地域とともにある学校づくり」や「学校を核にした地域づくり」の理念は、コロナ禍でこそ、その真価が試されている。そのときの校長やスクールリーダーの役割は、「子どもの思いを受け止め、学びを止めない」「学校はコロナ禍を理由に自己完結する学校に逆戻りしない」「大変なときこそSOSを出す勇気をもつ」ことだと考える。

 一方地域も、メディアからの情報だけではなく、自分の地域の学校の現状を理解することを大切にしてほしい。学校の困り感を共有できるとき、地域との信頼関係は更に深まる。「地域の皆さんと学校をつなぐことこそが子どものセーフティネットとなる」これは、私の信頼する地域コーディネーターの重い言葉だ。こんなときこそ「何か私にできることはないか」と学校に訊ねてほしい。今こそ、地域の底力に期待したい。

 

Profile
鈴木廣志 すずき・ひろし
 1960年生まれ。昭和59年から平成8年まで栃木県内の公立小中学校教諭。平成9年から12年間、栃木市教委、栃木県教委で社会教育主事として社会教育・生涯学習行政に携わる。平成21年から12年間、公立小学校教頭、校長を歴任。令和元年から文部科学省CSマイスター委嘱。その間、NPOハイジ理事、NPO山本有三記念会理事、文教大学教育研究所客員研究員、田村律之助顕彰会会長を歴任。日本生涯教育学会・日本学習社会学会・日本教育経営学会所属。『地域教育力の活性化と生涯学習─駄菓子屋合校の試みと可能性─』『まちづくりスタートブック』『地域とともにある学校づくりの一考察─栃木市におけるコミュニティ・スクールの導入を巡って』等の著作。学校と地域の在り方について、幅広く研究実践を続けている。NHK『ラジオ深夜便』にて、ビール麦の父田村律之助顕彰会の活動を報告し話題となった。

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