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【新刊紹介】これからの社会と学習指導要領の改訂 (『新教育課程を創る学校経営戦略―カリキュラム・マネジメントの理論と実践』(天笠 茂/著)より)

NEWトピック教育課題

2020.10.12

【新刊紹介】これからの社会と学習指導要領の改訂 (『新教育課程を創る学校経営戦略―カリキュラム・マネジメントの理論と実践』(天笠 茂/著)より)

新学習指導要領を学校経営の視点から詳解――『新教育課程を創る学校経営戦略―カリキュラム・マネジメントの理論と実践』(ぎょうせい 2020年3月刊)は新しい新学習指導要領改訂のポイントをスクールリーダー向けに丁寧に解説する書です。「社会に開かれた教育課程」「資質・能力の育成」など、学校管理職だからこそ押さえておくべきポイントが明らかになる本書より、ここでは第1章1節「このたびの学習指導要領改訂の歴史的意義」を抜粋してご紹介します。歴代の学習指導要領が築いた知見を振り返りつつ、新学習指導要領の目指すところを概説しています。(編集部)

 

第1章 これからの社会と学習指導要領の改訂

 積み重ねられてきた学習指導要領の改訂。このたびの2017(平成29)年に改訂された学習指導要領もまた改訂の歴史に新たなページを加えることとなった。

 表1は、1947(昭和22)年以来の改訂の歩みをまとめたものである。それぞれの時代の課題を背負い、改訂を重ねながらこのたびの改訂に至った。改めて、その歩みを俯瞰することを通して、学習指導要領の存在が、その改訂の積み重ねが、わが国の教育課程行政の中枢に位置付けられ、戦後の学校教育を牽引してきたことがとらえられる。

 その意味で、学習指導要領は、改訂を重ねて次に引き継ぐことを通して、命脈を保ってきたとみることもできる。改訂は、1回ごとに完結された営みというよりも、前の学習指導要領で残された課題を引き継ぎ、また、残された課題を次に引き渡す営みということもできる。さしずめ、このたびの改訂は、前の学習指導要領で掲げられた“言語活動の充実”を、改訂を通して“言語能力の確実な育成”としてバトンを引き継いだとみることができる。

表1 幼稚園、小学校、中学校、高等学校学習指導要領の変遷

「生きる力」が目指した到達点

 この学習指導要領改訂の歴史のなかで、「生きる力」が登場するのは、平成10 年版学習指導要領からである。総合的な学習の時間などを創設した学習指導要領の改訂の方向性を示した教育課程審議会の答申は、21 世紀に求められる資質・能力として「生きる力」を提起した。

 1996(平成8)年、平成10 年版学習指導要領の基本的な理念を打ち出した中央教育審議会第一次答申は、「『生きる力』の育成を基本とし、知識を一方的に教え込むことになりがちであった教育から、子供たちが、自ら学び、自ら考える教育への転換を目指す」と述べ、育成すべき資質・能力を次のようにあげた。

・国語を尊重する態度を育て、国語により適切に表現する能力と的確に理解する能力を養うこと。

・我が国の文化と伝統に対する理解と愛情を育てるとともに、諸外国の文化に対する理解とこれを尊重する態度、外国語によるコミュニケーション能力を育てること。

・論理的思考力や科学的思考力を育てること。また、事象を数理的に考察し処理する能力や情報活用能力を育てること。(以下略)

 しかし、その後の「生きる力」の歩みは、必ずしも順調とはいえなかった。その概念の曖昧さが多くの関係者を戸惑わせ、その意味するところを明確にすることが課題とされた。また、何よりも学習指導要領に盛り込まれた教育内容の量的削減について、広く社会的な合意を得られず修正を迫られる経験をすることになった。教育内容の量的あり方が問われるなか、「生きる力」は「ゆとり教育」か「脱ゆとり教育」かという構図のもとでの論議の波に飲み込まれることになった。

 その結果、「生きる力は変わりません。学習指導要領は変わります」という文部科学省のフレーズのもとに、先の平成20 年版学習指導要領が生まれた。

改めて、「生きる力」の歩みを振り返ると、まずは、その受け皿として総合的な学習の時間を誕生させたところから始まった。そして、平成20 年版学習指導要領では、「生きる力」と各教科等の目標との関連が詰められた。すなわち、「生きる力」を構成する理念や育てたい資質・能力に関わる基本的な考え方をふまえて各教科等の目標は立てられた。その意味で、この時点で「生きる力」は、各教科等の目標にまで達したとみることができる。

 しかし、目標に続く教育内容については、従来からの考え方のもとに取り扱われ、各教科等の目標と教育内容との間に溝を抱え、「生きる力」も各教科等の目標止まりということになってしまった。「言語活動の充実」が各教科等に“横串し”をさすまでには至らなかったのも、このような目標が教育内容まで浸透しきれなかったところに大きな要因があったとみられる。

 このたびの改訂は、この各教科等の目標と教育内容との“距離”を縮める取組であったということができる。「生きる力」は、“育成を目指す資質・能力”として精緻化され、そのもとに、各教科等の目標と教育内容との関連をはかることによって、学習指導要領の全体を整えたということになる。まさに、「生きる力」が学習指導要領全体に届いたということになる。

 このように、「生きる力」は、三つのステップを経て、今日に至った。まずは、総合的な学習の時間の枠内で「生きる力」を受け止めて、次のステップで、各教科等へ浸透をはかり、そして、このたびの学習指導要領全体への浸透をはかり、教育課程全体を通して達成を目指す段階に至った。

 このたびの学習指導要領改訂に際して、コンテンツベースからコンピテンシーベースへの転換ということがいわれた。それは、「生きる力」の牽引による三代にわたる学習指導要領改訂によって、さらにもう一代遡って「新しい学力観」が話題とされた学習指導要領改訂より引き継がれてきたものが、一つの到達点に達したととらえることができる。

従来型の教科構成をもって現代的課題に挑む

 21 世紀が抱える課題に対して、既存の教科等構成をもって向き合うとしたのがこのたびの改訂である。教育課程を取り巻く諸課題に対して、多くを20 世紀に起源をもつ教科等をもって立ち向かう。このような図式が描けるのもこのたびの改訂の特徴ということになる。

 先の学習指導要領が告示された後、教育課程をめぐる様々な動きとして、防災教育の見直しをはじめキャリア教育など、いわゆる現代的課題の顕在化がある。

 もちろん、環境教育、国際理解教育、福祉教育、食育、安全教育など、以前から様々な動きがあった。その上で、さらに、持続可能な開発のための教育(ESD)への関心が国際的にも持たれ一層高まりを見せるなかで、このたびの改訂を迎えることになった。

 そのような動きのなかで、現代的な課題に対して既存の教科等構成をもって対応するとしたのが、このたびの改訂である。教科等の構成については、基本的に従来を維持し、その再編には踏み込まないというのが基本的な立場であった。その意味で、従来の教科等構成をもって今日的な課題と向き合うというものであった。

 もっとも、この点については、小・中学校と高等学校とでは事情を異にする。すなわち、小・中学校については、小学校において道徳科や外国語科の新設はみられるものの既存の教科等の構成を大きく改変することなく、既存の教科等構成の枠内の一部修正の範囲にとどめて対応をはかったということである。

 これに対して、高等学校については、“歴史総合”など科目の再編成をはかり新しい科目を誕生させるなど、教科・科目の再編成についても手を加えている。その意味で、高等学校においては、教科内において科目の再編によって、また、小・中学校においては、従来の教科等の枠組みを維持しつつ、教科等横断をはかるカリキュラム・マネジメントの導入をもって、21世紀の現代的課題に立ち向かおうとしたのが、このたびの改訂ということになる。

 いずれにしても、21 世紀に求められる資質・能力の育成に向けて、20 世紀に多くの起源をもつ教科等をもってあたる。そのために、教科等間の横断とともに、教科等内の単元・題材・領域間、及び、科目間の連携や横断をはかるカリキュラム・マネジメントの強調が、このたびの改訂ということになり、その運用の仕方がカギを握っていることになる。

歴代の学習指導要領が築いた知見の集成

 このたびの学習指導要領は、改訂を重ねてきた歴代の学習指導要領に組み込まれた知見の集成という性格を有している。

 歴代の学習指導要領改訂によって得られた知見やノウハウが、今日的な課題への対応というフィルターを通して、意味づけられ組み込まれているところも、このたびの学習指導要領改訂の特徴としてとらえられる。

 それぞれの時代の課題への対応として創出されたアイディアが、時代の壁を越えて結び付くことによって融合がはかられ、新たなアイディアとして創設をみる。教科等間の横断にしても、総合的な学習の時間や選択教科が提案された時代のものでもあれば、言語活動の充実が説かれた時代のものでもある。それらがコラボし、互いの触発を通して、教科等横断としてのカリキュラム・マネジメントとして新たな実践を誕生させようとしている。

 学習指導要領と解説書(当初は指導書)の関係をみてみよう。学習指導要領は、当初、いわゆる解説書を併せ持ったものであった。その典型が、昭和26 年改訂の学習指導要領である。

 それが、1958(昭和33)年の告示後は、学習指導要領と指導書は、分離がはかられ、それぞれ精緻化の道をたどることになったことは周知の通りである。できるだけ学習指導要領は精選をはかる。書き加えることは解説書に。その両者の位置付けや果たすべき役割についての基本的な路線は、今回の改訂においても堅持されたものの、総則に解説的な役割を持たせる試みがなされたことに注目したい。

 それは、読みにくい、あるいは、わかりにくい学習指導要領が生まれたことに対する見直しととらえられる。抽象度の高い文言によってまとめられた学習指導要領に対して、これまでの基本路線は堅持しつつ、“読んで理解できる学習指導要領”を目指したのが、このたびの改善の試みであり、総則の見直しということなる。

 詳しくは解説書の記述に委ねるにしても、読みやすい学習指導要領にというのがその立場であり、その際、1951(昭和26)年改訂の学習指導要領に組み込まれたアイディアが時代の壁をかいくぐって浮び上がったととらえられる。「社会に開かれた教育課程」を標榜し、保護者や地域社会の人々との共有を目指すなかで、学習指導要領の在り方もまた問い直す。その一連の動きの一環としてあったことをおさえておきたい。

 一方、このたびの改訂についての諮問のうち一つは、教育目標・内容と学習・指導方法、学習評価の在り方を一体としてとらえ、学習指導要領の在り方を見直すというものであった。

 歴代の学習指導要領を遡ってみれば、教育内容、教育方法、学習評価それぞれについて相当の労力と時間を投入して検討をはかってきた。したがって、関連する知見も相当の蓄積があるといってよい。ただ、これまでは、その検討が内容、方法、評価、それぞれ個別になされるものであって、相互の関係を一体的にとらえて課題に迫るという方略はあまり深められてこなかった。

 これに対して、内容、方法、それに、組織を加えたこのたびの一体的なアプローチは、従来の学習指導要領改訂における個別的なやり方を克服し、新たな実践に関わるアイディアの創造を目指す試みであった。

 新たなアイディアの創出を、領域間相互の触発や融合とともに、それぞれの時代に生まれた知見の触発や融合によってもたらす。その試みとして、改訂をめぐる一連の取組があったことを確認しておきたい。

Society5.0 の社会を拓く

 ところで、AI やSociety5.0 をめぐる話は、このたびの学習指導要領改訂と重なり合っていることをおさえておきたい。改訂の基本的な方向を示した中央教育審議会答申「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について」(2016(平成28)年12月21 日)は、“2030 年の社会と子供たちの未来”という章を設け、将来の社会の姿について、複雑で予測しがたい形で変化し、しかも速いテンポで進むことを、次のように述べている。すなわち、「進化した人工知能が様々な判断を行ったり、身近な物の働きがインターネット経由で最適化されたりする時代の到来が、社会や生活を大きく変えていくとの予測がなされている」と。

 この予測しがたい変化の時代について、昨今、“Society5.0”という用語をもって語られることが多くなった。もとは、第5期科学技術基本計画(2016年度から2020 年度)において、わが国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱された。それは、狩猟社会(Socity1.0)、農耕社会(Socity2.0)、工業社会(Socity3.0)、情報社会(Socity4.0)に続く、新しい“創造社会”と称される社会とされる。

 もっとも、それは情報社会の延長線上の社会なのか、それとも情報社会の次の社会なのか、とらえ方も多様で、Society4.0 の延長線上か、それを超えた社会であるのか必ずしも明確ではない。経団連「Society5.0 ―ともに創造する未来―」によれば、Society4.0 とSociety5.0 を分けるポイントは、「デジタル革新」にあって、それを契機として新たな社会が拓かれるという。すなわち、この「デジタル革新」と「多様な人々の想像・創造力」の融合によって、Society5.0 の社会は切り拓かれ、それによってSociety4.0 が抱える諸々の課題の解決がはかられ、「課題解決・価値創造」「多様性」「分散」「強靭」「持続可能性・自然共生」などを象徴的なキーワードとする新たな価値を創造する社会が到来するという。

 一方、今の社会をSociety4.0 の情報社会と位置付け、知識や情報などが共有されず、分野横断的な連携が不十分な問題を抱えているととらえる。その上で、実現を目指すべきはSociety5.0 の社会とする。それは、全ての人とモノがつながり、様々な知識や情報が共有される新たな価値が生み出される社会であるという。そこでは、人工知能(AI)やロボットをはじめとする技術の飛躍的な進歩によって、少子高齢化、過疎化、貧困の格差などが克服される社会であるという。

 このような将来社会の姿も視野に収めつつ、予測困難な将来に「しなやか」に生き、一人一人が未来の創り手となることを目指して学習指導要領の改訂は進められたということになる。

 その意味で、AI やSociety5.0 に象徴される将来社会への“つなぎ手”として、このたび改訂された学習指導要領があること確認しておきたい。この学習指導要領に込められた趣旨の実現を通してSociety5.0 の社会を拓くというのが、このたびの改訂の立場であり位置付けということになる。

[参考文献]
・ 天笠 茂「AI やSociety5.0 の時代を踏まえて学校はどう変わるか」『教育展望 臨時増刊』教育調査研究所、2019 年7月

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