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●新教育課程の学び コロナ休校とカリキュラムマネジメント

NEWトピック教育課題

2020.10.08

●新教育課程の学び
コロナ休校とカリキュラムマネジメント

大阪教育大学教授
田村知子

『新教育ライブラリ Premier』Vol.2 2020年8月

新しい状況に対応する発想の転換

 コロナ休校による教育課程の危機的状況において、各学校の管理職や教職員に必要なマインドは、次のようなことであろう。「前例踏襲」はない。「横並び」もない。活発な情報交換は奨励される。できることから挑戦を。創造的に。「出る杭」を打たずに、新しい実践を積極的に校内外で共有する。子供の状況を見極めて、学習指導要領等に示された、あるいは各学校が策定した教育目標を最大限達成するように、実践しながら振り返り、改善・開発を継続していく。このような考え方は、カリキュラムマネジメント(以下、「CM」)の本来的なスタンスである。CMは学校におけるカリキュラム開発の経営的側面に光を当てた営みである。平常時においても、子供のデータを分析したりその実態をしっかり見つめたりして、教員一人一人が創造的に授業やカリキュラムの開発に努め、それを組織的に支援し、学校のカリキュラムとして共有化・更新していく営みがCMなのである。したがって、既にCMが活性化された学校であれば、緊急時でもこのようなマインドを生かしてこられたことだろう。危機的状況により、様々な工夫や新たな取組の開発に向けて、背中を押された学校も多くあることだろう。これを機に、全ての教育活動の目的や意義、必要性、実施方法の見直しをすることにより、学校の教育活動の質や教員の意識や力量、協働性が数段上がることを期すくらいの前向きさで臨みたい。ただし、リスクマネジメントの発想も必須である。

教育課程のリスクマネジメント

 リスクとは「目的に対する不確かさの影響(ISOGuide73:2009)※1」である。withコロナ状況における教育課程のリスクマネジメントを考える際、二つの目的を両立させることが必要である。一つ目の目的は児童生徒・教職員の命・心と身体の健康を守ること、もう一つは児童生徒の学びを保障することである。これらの目的に対して、あり得るリスクを認識して必要な対策を打つことがリスクマネジメントとなる。一つ目の目的については、感染防止がメインであるが、それだけではない。夏季休業や冬季休業の短縮や土曜日授業、1日当たりの授業時間増などにより、児童生徒や教職員の負担増、疲労の蓄積は十分予想される。酷暑の時期に授業を行うためには熱中症への対策も講じなければならない。二つ目の目的に関しては、授業時数の確保につとめ、それでもなお短縮された授業日数の中で効率的・効果的に教育課程を実施することによる児童生徒全体に対する学びの保障をすることがまず求められる。そして、休校中に学習に遅れが生じた児童生徒や家庭学習やオンライン学習では十分に学べない児童生徒への個別のケア(補習等)が必要である。この二つの目的は時として相反する結果を生む可能性がある。感染対策の徹底のみを目指せば少しでもリスクのある学習活動は中止せざるを得ないし、授業時数増や児童生徒への丁寧な個別の指導の負担が過重であれば、児童生徒や教員の心身の健康を害しかねない。いずれの場合も、保護者からの苦情を誘発する可能性もあり、それへの対処が学校現場のさらなる多忙を引き起こしかねない。バランス感覚と、それぞれへのリスクを減じる対策が必要である。表のようなリスク分析によりリスクの大きさを点数化して、対策を講じておくのも一案である。

 危機管理の鉄則は「悲観的に準備し、楽観的に対処する」ことだと言われる。突然の休校となった3月とは違い、第二波、第三波の感染拡大は予想されている。3~6月の間に様々な手が打てたはずだし、現在でも備えを進めるべきである。オンライン授業は「学びを止めない」方策のひとつとして注目されている。オンライン授業と対面授業とは、同等に交換可能ではないが、対面授業が不可能な場合のオルタナティブとして、あるいは対面授業とは異なる価値を持つ学習方法として、有効活用できる可能性は十分にある。学校では対面授業が可能な間に児童生徒にICT教育や子供たちが自力で学習を進められるための指導を行う。教育委員会では環境整備やオンデマンド教材作成(対面授業可能な期間にあっても予習・復習用や不登校児童生徒のために活用可能)などを続ける。また、文部科学省「学びの保障総合対策パッケージ」の予算を最大限活かして、学習支援補助や消毒や検温業務などを担う支援者をなんとしても確保したい。

各種教育計画の見直し

 いくつかの自治体の施策や学校の実践事例を調べたところ、授業日数縮減への対応策は大きく三つに分かれるようである。

(1)時数純増:長期休業日の大幅短縮、土曜日授業の導入、1日当たりの授業時数の純増(7時間授業など)である。これにより、当初の計画をほとんど変更せずに教育課程の実施を行う。教育課程の大きな工夫の必要はないが、児童生徒及び教職員の疲労蓄積が懸念される。

(2)カット&プラス:1単位時間の短縮(45分授業→40分授業、50分授業→45分など)、朝の会や清掃、休み時間の縮減などを実施した上で1日当たり授業時数増をして当初計画と同じ単位時間数(1単位時間を短縮した総時間数は短縮)を確保する。帯時間・モジュールの活用。学期制の変更や定期考査の回数減による授業日数確保。行事の中止・小規模化、準備期間の縮減。

(3)教育課程の抜本見直し・重点化(特例措置を含む):
文部科学省は5月15日付「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた学校教育活動等の実施における『学びの保障』の方向性等について(通知)」(以下、「学びの保障通知」)において、「学校教育法施行規則に定める標準時数を踏まえて編成した教育課程の授業時数を下回ったことのみをもって、学校教育法施行規則に反するものとはされない」ことを改めて確認した。そこで、単元の重点化や複数単元の関連化(例えば、3月の未指導事項は令和2年度の関連単元の中で丁寧に扱う、令和2年度の時数短縮のために既習事項を踏まえて、該当箇所の取扱いは確認程度に留める)によって効率化を図る教育課程の再編成を行う。学びの保障通知では特例的対応・補完的取組として、「学校の授業において行う学習活動を、教師と児童生徒の関わり合いや児童生徒同士の関わり合いが特に重要な学習への動機付けや共同学習、学校でしか実施できない実習等に重点化」し、ICT の活用、学習指導員の活用、地域・家庭との連携などにより授業以外の場で行う学習活動を学校の指導計画に位置付ける可能性も示している。それに関わり、文部科学省は「学校の授業における学習活動の重点化に係る留意事項等について(通知)」を発出して各教科における留意点を示したほか、文部科学省と教科書発行者が協力し「学習活動の重点化等に関する参考資料」を公開している※2。これは1単元当たりの時数を縮減する方策である。ただし、家庭の理解と協力、家庭学習の確実な確認、家庭では十分に学べない児童生徒やICT が苦手な児童生徒に対する個別の対応が必要である。

 上記のような対応により、本年度の指導事項を年度内に指導することをほぼ全ての学校が目指していると考えられるが、クラスター発生による再休校などの不測の事態が起こった場合は、年度当初予定していた内容の指導を本年度中に終えることが困難な場合の特例的な対応として、次年度以降を見通した教育課程編成(令和3年度あるいは4年度までの複数年にまたがる教育課程の編成)が可能であることが学びの保障通知により示されている。

 いずれにせよ、「学習指導要領=教科書」ではない、「教科書を終わらせること=教育課程をやりきる」ことではない、ということを押さえておくことは肝要だろう。「教科書をやりこなす」イメージから脱却し、「何のために」「児童生徒にどのような資質・能力を育むか」について、学習指導要領や児童生徒の実態に立ち戻り、「本当に必要な学習は何か」を改めて問い直し、限られた時間を有効活用することを目指す必要があるだろう。

 次に、感染防止のための行事や学習活動の見直しについてである。修学旅行をはじめとした「3密」を回避しにくい宿泊や移動を伴う行事の延期、中止、行き先の変更、文化祭や体育大会の時間短縮や開催方法の変更などが余儀なくされている。中止を決めれば簡単ではあるが、生徒の心情を思い、多くの管理職・教員が頭を悩ませている。これに対して、調査した学校の中には次のような例がある。

 A高校:体育大会について、「3密」を避けるために必要な事項を生徒に示し、実施可能な体育大会の企画を考えるための生徒チームを公募したところ30名程度の生徒が応募し、教師と生徒が協働して体育大会の内容を企画している。

 B中学校:海外修学旅行を予定していたが、海外は不可能となった。その代替案を、中学3年生が考えている。これまで総合的な学習の時間で学んできた平和学習とのつながりから、行き先を沖縄に変更し、感染防止策も考え、目的を達成するための企画をつくり、自治体の首長と教育長に対して生徒がプレゼンテーションを行う。

 生徒が行事の企画に関与できる機会を設けることにより、出された解が生徒にも納得できるものになりやすいのではないだろうか。

withコロナにおけるカリキュラムマネジメント

 休校期間中に子供の学びは大きく差がついた。再開後も感染防止に配慮しながらの「対話的な学び」の難しさに直面している教員も多い。制約の多い環境下だからこそ、子供の学ぶ意欲を喚起し深く考える甲斐のある厳選された問いや学習課題の開発が重要だろう。京都府教育員会が休校支援として作成した「京都府教育委員会からの挑戦状」は、既存の知識を活用して自分自身の考えをつくる学習課題が掲載されていて参考になる※3

 CMの基軸は「つながり」である。一つはカリキュラム面での「つながり(連関性)」であり、系統性や教科横断、あるいは目標と授業やカリキュラムの間のつながりを意識することで効率化や効果の向上を図る。もう一つは人と人の「つながり(協働性)」である※4。子供と他者とのつながりや保護者と学校のつながりといった社会関係資本が学力や児童生徒の意欲向上にプラスの影響を与えることは実証されている※5。コロナ休校中の高校生を対象に中原らが実施した調査では、学校生活を楽しんでいたり、他者との関係を築けていたり、休校中に教師とコミュニケーションをとれている生徒は、そうでない生徒よりも学習時間が長いという結果を明らかにした※6。岐阜県白川郷学園の中学3年生たちはオンライン授業の経験を基に、夜に家庭からZoomで学級の生徒がつながり、相互に教え合ったり、励まし合いながら、受験勉強をしている。「つながり」が大切なのは教職員にとっても同じである。休校中、初めての事態に直面し、SNSなどで情報交換をする教員の事例が全国にある。コロナ禍に端を発して、地域を越えたオン ラインでの「つながり」のハードルが下がった。や る気に満ちた教員たちの「あれやってみたよ」「他校 にこんな実践があるよ」といった会話が増える職場 になるよう、管理職は、「よし、やってごらん」と教 員の背中を押し、支援していただきたい。「教員の学 びを止めない」ことである。

[注]
1 日本工業規格JIS Q 0073:2010(ISO Guide 73: 2009)リスクマネジメント―用語
https://kikakurui.com/q/Q0073-2010-01.html
2 一般社団法人教科書協会
http://www.textbook.or.jp/textbook/reference2020.html
3 京都府教育委員会「京都府教育委員会からの挑戦状」
http://www.kyoto-be.ne.jp/gakkyou/cms/?page_id=220
4 中留武昭『総合的な学習の時間?カリキュラムマネジメントの創造』日本教育綜合研究所、2001年
5 例えば、露口健司編著『「つながり」を深め子どもの成長を促す教育学』ミネルヴァ書房、2016年、国立大学法人お茶の水女子大学「平成25年度全国学力・学力状況調査(きめ細かい調査)の結果を活用した学力に影響を与える要因分析に関する調査研究」2006年(https://www.nier.go.jp/13chousakekkahoukoku/kannren_chousa/pdf/hogosha_factorial_experiment.pdf)など。
6 立教大学中原淳研究室ブログ
http://www.nakahara-lab.net/blog/archive/11803
※ URL は全て2020年7月1日最終確認。


Profile
田村知子(たむら・ともこ)
大阪教育大学教授。九州大学大学院人間環境学府博士課程単位取得退学。博士(教育学)。岐阜大学大学院准教授等を経て現職。専門はカリキュラムマネジメント、教員研修、学校経営。日本カリキュラム学会(理事)、日本教育経営学会、日本教育工学会などに所属。中央教育審議会専門委員、全国的な学力調査に関する専門家会議委員、教育研究開発企画評価会議協力者などを歴任。著書に『カリキュラムマネジメント?学力向上へのアクションプラン』(日本標準)、編著に『実践・カリキュラムマネジメント』(ぎょうせい)など。

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