「社会に開かれた教育課程」は未来に何を残せるか 「社会に開かれた学習」のタイプ
トピック教育課題
2020.10.09
「社会に開かれた教育課程」は未来に何を残せるか
「社会に開かれた学習」のタイプ
日本大学教授
佐藤晴雄
(『新教育ライブラリ Premier』Vol.2 2020年8月)
「社会に開かれた教育課程」の使命
前回、コミュニティ・スクール(以下CS)について取り上げましたが、戦後直後にもその名称を用いた実践がカリキュラム運動と連動して試みられました。CSは「最深の意味において社會的問題を解決する過程をその敎育過程(ママ)とする學校、敎室や校庭や校外における敎育實践が最も密に社会的諸問題の解決とつながっている學校」だと言われました(豊澤登1949)。
当時のCSはまさに「社会に開かれた教育課程」の在り方とほぼ重なります。「社会に開かれた教育課程」は「学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を学校と社会とが共有」することも重視されているからです。その意味で、「社会に開かれた教育課程」は地域社会を創り、改良していくという道筋を未来に残すことが使命になると思われます。
学校と地域社会との関係
学校と地域住民・組織の連携は、双方のメリットがあるwin & winであるべきだという指摘があります。しかし、筆者はそうした二者間の関係では不十分であり、さらに地域社会にもメリットになる「三方よし」であるべきだと考えます(佐藤2006)。「三方よし」は近江商人の理念を表したもので、「売手よし、買手よし、世間よし」という考え方を表します。
二者のメリット、すなわち地域住民が自分の趣味を生かすために学習を支援すれば、学校にとってもメリットになりますが、それだけの関係に終わってしまえば地域社会づくりにまでなかなかつながりません。これまでの学校支援ボランティア活動ではそうした関係でよかったかも知れませんが、これからは地域社会の改善につながる連携の在り方が求められます。
「社会に開かれた学習」のタイプ
そこで、「社会に開かれた教育課程」のもとでの学習を「社会に開かれた学習」と位置付けて、この観点から地域連携のタイプを整理すると図1のようになります。図の縦軸は「目的」を表し、横軸はアプローチの方向を示しています。
第1象限のタイプⅠ(地域活用型)は学校教育を目的として学校が地域で行う実践です。農家の田んぼを利用した稲作りや地域環境を題材にした調べ学習、職場体験が当てはまります。
タイプⅡ(学校支援型)は学校支援ボランティアの普及によって全国的に浸透してきた学習の在り方です。戦後直後のコミュニティ・スクールでも外部講師の招聘は試みられました。
タイプⅢ(学校活用型)には学校施設開放のほか、選択教科授業に住民が生徒と共に学ぶ聴講生制度を進めた例、また教師たちが指導できる学習内容をメニュー化して住民の学習要求に応じる試みが見られました。
タイプⅣ(地域支援型)は、「総合学習」などで生徒たちが施設を訪問して高齢者と触れ合う実践が広く行われています。中・高校生が地元商店街の活性化を支援する取組なども当てはまります。
このうちタイプⅢとⅣは学校と地域活動の目的が重なることもありますが、あくまでも学校主導による二者の互酬に留まります。これらに対して、学校と地域の協働によって取り組もうとするのがタイプⅤ(学社協働型)です。これは学社融合型と言ってもよく、学校と地域社会・社会教育が目的と結果を共有できるような実践です。家庭科の調理実習と公民館の料理教室の合同実施、運動会と地域のレクリエーション大会の合同実施などの例があります。防災訓練もそのタイプになります。
タイプⅠからⅣは学習成果を地域社会に還元することによって「三方よし」を実現できますが、特にタイプⅤは地域づくりに直結していく取組だと言えます。
社会的交換理論に学ぶ
学校と地域はお互いの関係性を確かなものにしていくためには社会的交換理論に学ぶことが大切になります。社会的交換理論とは、「社会的な相互依存関係の本質は資源のやり取りにある」(亀田・村田2000)という発想のことです。その「資源」とは、ヒト・コト(活動)・モノ・情報になります。これらを交換することが大切です。その場合、他者との友好関係を築こうとする心理的な動機である親和動機とそうした関係がどう役立つかという道具的動機が重要になります。
教育課程を社会に開いていくためには、それら二つの動機を地域社会全体にも向けて「三方よし」の関係を築くことが課題になると考えられます。
[註]
・豊澤登編『コンミュニティ・スクールの研究』理想社、1949年
・佐藤晴雄「『三方よし』の教育改革を」『内外教育(2006年11月17日号)』時事通信社、p.1
・亀田達也・村田光二著『複雑さに挑む社会心理学』有斐閣アルマ、1999年
Profile
佐藤晴雄(さとう・はるお)
日本大学文理学部教育学科教授。東京都大田区教育委員会、帝京大学助教授などを経て2006年から現職。中央教育審議会専門委員(初等中等教育分科会)、文部科学省コミュニティ・スクール企画委員、日本学習社会学会会長などを歴任。博士(人間科学)大阪大学。日本教育経営学会理事など。主な著書に、『コミュニティ・スクールの成果と展望』(ミネルヴァ書房)、『教育のリスクマネジメント』(時事通信社)、『新・教育法規解体新書』(東洋館出版社)ほか多数。